4.勇者と魔王、互いの身の上を話す(後編)
2人が村長に朝食をご馳走になり、はなれに戻ってくると話の整理をはじめた。
村長の話によると、どうやらここは南大陸の南東部にある小さな集落であるという。幸いなことに南大陸の田舎であったということでリリアの顔も割れていないみたいであった。
この世界は北大陸と南大陸に分かれており、今でこそは北大陸の王都ストラインが実権を握り南北の指揮をとっているが、昔は争いが絶えなかったという。そこで魔王城はどこにあるのかというと、なんと上空にあるのだ。天空要塞として難攻不落を誇っていた魔王城だが、1人の規格外な勇者によって攻め落とされそうになった。
「そういえば、今は魔王城ってどうなってるのよ。そもそもどうやって浮いているわけ?」
「ああ、それなら俺が魔力で浮かしてた」
「はぁ?そんなことに魔力割いてたわけ?ってことは今はどうなってるのよ」
そう、魔王城を天空要塞としてたらしめていたのは魔王であり、魔力によって浮かせていたのだった。その状態でこのリリアと戦闘を繰り広げていたのだからこの魔王も相当強い力をもっていることになる。
「今は、俺が支えてないから、落ちてんじゃねぇか?」
「落ちてんじゃねぇかって、はぁ、まぁ海の上に落ちるだろうから被害はでないと思うけど...」
「まぁ、あの中に取り残された連中に関してはどうなったか知らねぇがな」
「まぁ、そこに関しては私も何も思うことがないわ」
流石に自分を殺そうとした奴らに同情の余地はないといった感じでリリアも続いた。
「それで、結局サタナはどうするの?魔王城に戻ってまた魔王を続けるの?」
リリアは一番気になっていたことを恐る恐るといった感じで質問をした
「あーそれなら、もう魔王はやめようと思う」
「えっ?」
「まぁ力が戻ったら確かにそれも可能なんだが、俺がいなくても他の魔族が新しい魔王になってるだろうし。もともと俺は魔王の直系でもあったんだが、魔王になるには力が必要なわけで力がなければ魔王は他の奴になるんだ。俺が物心ついた時には両親はいなかったから、魔王が俺に引き継がれたせいで俺は小さい頃から命を狙われ続けた。だから必死に強くなろうとした。死にたくはなかったからな。周りには誰も信じられる奴なんていなかったし。そこらへんは、まぁたぶん人間が起こしていた戦争と大差ないんじゃないか?」
サタナが語る普通の人間なら知りもしない魔族のルールに愕然としらがらリリアは言った。
「そ、そうね。きっと根本的なことは同じなのね」
「だから、俺はそんな生活に嫌気がさしてたし、続けたくなかった。だから俺はリリアが現れたときに嬉しかったんだ。誰も俺に敵わなくなっていた中でリリアなら俺を殺してくれるんじゃないかって」
「っ...」
リリアは息を飲み先ほどよりも大きな衝撃が体を走ったのがわかった。まさか、魔王であるサタナも自分と同じようなことを考えていたとは
「まぁ、あの時はつい熱くなっちまって俺も力を出してたけどさ」
そう言ってサタナは笑う。
「それに、今まで聞いてた勇者みたいな存在にやられるのなら悪くはないなって思ってた...」
「思ってた?」
リリアが聞き返す
「リリアの瞳だよ」
リリアははっと目元を伏せる
「あの時のリリアの瞳は助けを求めているようだった。違ったのかもしれないが俺にはそう感じた。だから、あの騎士団にやらせちゃいけないと思った。それに俺もあんな奴らに討たれたくないからな」
そう言ってから、サタナは雰囲気を少し和らげると
「だから、俺はこれから好きに生きようと思う!リリアも行く場所がないなら俺とこないか?」
そういいながら立ち上がるとサタナはリリアに手を差し出す。
「あなた、自分が言っている意味わかってるの///まぁわかってないんでしょうね...はぁ」
リリアは照れた様子から一転、あきれた様子になりながら
「いいわよ、一緒にいくわ」
と、サタナの手を取ったのだった。いつしか彼女の目は光を取り戻していた。
これは全く違った立場でありながら、同じような境遇に苛まれた普通なら決して相いれない2人の物語である。
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