3.勇者と魔王、互いの身の上を話す(前半)
「私は北大陸にある、王都から離れたところにある田舎で育ったの。」
「育った?生まれたではなく?」
「私ね...捨て子だったのよ」
魔王は野暮なことを訊いたと思い
「すまねぇ」
謝罪の意を表したが
「いいのよ、気にしてないから」
勇者は本当に気にしていないように話を続けた。
それから勇者は魔王城に至るまでのいきさつを大雑把に説明した。
曰く、捨て子であった勇者は、運よく引き取り手となってくれる、年齢的には孫と祖父母のような関係の里親、ローレンライト夫妻に保護してもらい、そこで生活することができたのだという。しかし、物語はそれで終わりではなく、勇者の才能に気が付いた夫は幼き勇者に剣をとらせた。妻は反対していたが、夫の純粋な好奇心を止めることはできなかった。そう、なんとローレンライト家は代々勇者を輩出している一家だったのである。
それからというもの、勇者の成長は凄まじく歴代最強と言われるまでにそう時間はかからなかった。圧倒的な力を保持するローレンライト家は発言力を持っており、そのローレンライト家が住む町自体も発言力を持っていた。そのため、勇者は常に恐れられ、周囲の人も一歩引いたところから、そしてその勇者を利用したいと思う権力者も大勢いた。
ある日、勇者は魔王討伐に赴かないといけないことになった。ローレンライト夫妻は反対したが、これほどまでに力を持つ勇者が魔王討伐に行かない理由がなかった。初めは仲間となる候補も何人かおり、同行するはずであったが勇者に取り入ることを企む輩しかいなかったことを勇者は見抜き、同行を拒否した。それからの旅ではどこに行っても取り入ろうとする輩、見え透いた嘘に付きまとわれ、私が安心して過ごせる場所はなく、誰も私を守ってはくれないということがはっきりと突き付けられた。いつしか感情を持たず、ただ魔王城を目指すことしか考えなくなっていた。
そこまで話すと、勇者は魔王を見ながら言葉を続けた。
「だから私、貴方に特別な恨みとかの感情を抱いてないのよ、まぁ、お父さんとお母さんには育ててくれたことに関しては感謝しているけど、勇者にしてくれなんて頼んではいないし。魔王討伐に関しては王国が私を利用してることが悪いしね」
「それに、初めてだったのよ」
「あ?何が?」
「別に、なんでもないわ」
勇者は魔王から目を外してそう言った。魔王は納得いかなそうな顔をしていたが勇者は言葉を続けた
「それと、お前じゃなくて、リリア」
「ん?」
「名前よ、私の名前、リリア・ローレンライト、お父さんとお母さんがつけてくれた名前よ。私この名前は気に入ってるの」
「わ、わかった」
魔王は昨日初めて会った玉座での勇者と今目の前にいるリリアの違いに狼狽えながら返事をした。そして、初めてリリアの姿をきちんと見る。年齢は10代後半だろうか、ライトブラウンの綺麗な髪に、赤みを帯びた綺麗な目をした少女であった。
「それで?あなた、名前はないの?」
「ああ、俺たち魔族はお前みたい」
「リ・リ・ア!」
「ん...リリアたち人間とは違って普通は名前がないんだ」
「普通は?あなたはあるの?」
「ああ、小さい頃の記憶で良くは覚えていないんだが...確かサタナだったかな」
「へぇ、確かサタナって神話で英雄にもいる名前よね」
「そうなのか、まぁそんなことはどうでもいいんだ。俺の育ての親も俺が物心つく頃にはいなくなってたからな」
「あと、サタナ、あなたの姿は何なの?」
「ああ、俺も今まで知らなったんだが、魔力を消耗しすぎるとどうやらこの姿になるらしいんだ」
「へぇ、魔族ってみんなそうなの?」
「いや、聞いたことがねぇ、ほかの魔族が魔力が枯渇しているときにはこんなことにはなっていなかった」
「サタナが特別ってわけね」
リリアは一瞬悩むような表情をするも、考えていても仕方がないことだと割り切った。
「それで?この後何か考えがあるわけ?」
リリアが目の前の黒髪黒目の男、サタナに向き直る。
「...」
「まさか、ノープランで飛んできたわけ!?」
リリアが声を少し荒げる
「し、しょうがねぇだろ!俺だってお前にやられて相当きてたんだよ!そんな中で転移の座標なんか指定できるか!それに、俺らはどこに出たって勇者と魔王ってわかったら色々面倒だろうが!」
「まぁ仕方ないわ、とりあえず今後の行動指針を決めましょう」
そう言ったとたん、二人の腹の虫が鳴った
「...///」
「...とりあえずなんか食わねぇとな」
「そ、そうね」
その空間の気まずさは村長が入ってくるまで続いた。
前半は勇者の身の上話です。魔王については後半で。
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