2.勇者と魔王、流れ着く
ある田舎の民家らしき空間に2人の姿はあった。その2人が普通の夫婦であれば何の問題もないが、勇者と魔王となっては話が別だ。
「はぁ...この先どうすっかなぁ」
魔王は隣で規則正しく寝息を立てている勇者を一瞥すると、ため息混じりに呟いた。そして、こうなってしまった、いや幸運にもこうなることのできた経緯を思い返すのであった。
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「っと、どこだここは?」
勇者を抱えたまま、なんとか着地に成功しあたりを見回すと、そこには舗装されてるとは言い難い道が続き、その道の隣には畑らしきものが広がっていた。
「見る感じ相当な田舎みたいだが...あれは」
遠くに集落を発見し、とりあえずそこに行ってみようと勇者を背中に背負いなおそうとした時だった。
「!!」
眼下には水たまりがあり危うく踏み入れそうになるが、問題はそこではない。
「なんだ、これ...」
そこに映っていた姿はどこからどう見ても20代前半の『人間』の若者の姿であった。
そして、魔王の時に身に着けていた服のサイズが合わず、だいぶオーバーサイズとなっている。
「まぁ、これなら好都合だ」
今考えてもどうしようもないことだと割り切り、集落まで歩みを進めた。
集落の門付近には衛兵らしき人物が2人立っており、こちらを見ると一声かけてきた
「止まれ!!」
「どこのものだ!」
「俺たちは旅の途中で、どこか一晩止まれるところを探している。ここで一晩休ませてくれないか?」
魔王はこれぐらいしか言い訳の方法がないよなぁと我ながら苦しい言い訳だと思っていると
「見たところ夫婦のようだが、何か複雑な事情があるのか?そういう厄介事は持ち込ま」
「まぁ待ちなさい」
「そ、村長!?」
村長といわれた年の割に元気そうな老婆が顔をのぞかせた。
「何か特別な事情があるのでしょう、入れておやりなさい」
「で、ですが村長」
1人の衛兵は狼狽えているがもう1人の衛兵が
「村長がおっしゃられたことだ、我々はそれに従う」
「そういうわけだ、入れ」
ことの経緯を見守っていた魔王だが、衛兵がこちらを見て言ったので素直に従う
「恩に着る」
魔王は村長と呼ばれる老婆に感謝を告げながら村へ入った。
村長に案内されたところは村長の住む母屋とすこし離れたところにあるはなれであった。
「ここを好きに使いなさい」
「いいのか?俺たちみたいな素性の知れない奴らを入れて」
「構わんさ、前にも...」
「ん...?」
老婆が何を言ったのか聞き取れず、聞き返そうとするも
「まぁ、そちらの女性も疲れているようだから、早く横にしてやりなさい。」
「は、はぁ」
魔王は、曖昧な返事をすると老婆はそこで話は終わりだと言わんばかりに母屋へ帰ってしまった。
時刻は翌朝となり話は冒頭へ戻る。
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「んっ...」
魔王が回想から戻ってくると、勇者は少し声をだしながら身じろぎをした後、瞳をわずかに開けた。
「よっ、よく眠れたか?」
魔王が声をかける。
「ん...」
すると勇者は起きるかと思いきや二度寝の態勢に入った。
「おい!お前この状況で良く二度寝しようと思ったな!叫ばないのかよ!」
てっきりきゃーという悲鳴がくるだろうなと予想していた魔王は声を荒げる。
「...どうでもいい、あなた弱そうだし...」
なるほどな、いざとなったらどんな状況でも勝てるからそういっているのか。
「俺、こう見えても魔王なんだけど...」
魔王は頭を掻きながら一応言っておかなければならないことを言う。
「はぁ?魔王が人間の姿をしているわけないでしょ、疲れてるの。冗談はよし...」
勇者はそこまで言うと、ベッドから跳ね起き臨戦態勢に入った。
「この魔力、人間じゃない...魔王と同じ気配...」
「まぁ、落ち着けって、俺は今からお前と戦おうなんて思っちゃいない」
魔王はそういうと勇者に座るように促す。
「まぁ俺はもうすこしすれば回復するとは思うが、お前が俺をどうしても倒したいなら今だな」
「...」
勇者が答えないでいると、魔王はずっと気になっていたことを口にした
「お前、どうして王国騎士団に命狙われたんだ?」
「っ...!」
勇者が息を飲む音が聞こえた。そして、昨日のことを思い出したようであった。勇者はなにもかもを諦めたような表情で口を開いた。
少しずつ勇者と魔王の身の上が明らかになっていきます。
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