1.勇者と魔王、玉座にて出会う
禍々しい雰囲気が漂う空間の玉座に魔王は鎮座していた。いつもと同じ見慣れた光景であった。しかし、今日に限っては見慣れない1人の姿があった。そこには誰がどう見ても勇者であると分かる格好をした1人の女性らしき人物が立っていた。しかし、目が死んでいるという一点を除いて。魔王はその様子に気づいてはいない。
「勇者よ!よくぞここまでたどり着いた。だが、ここはそなたの墓場となるだろう!!」
「...」
しかし勇者は魔王のいかにもなセリフに反応する様子を見せない。その代わりに、姿勢を低く構えた刹那
「!!」
勇者は魔王の目の前まで迫っていた。
「ちょ、お前会話できねぇのかよ!」
これには流石の魔王も先ほどの荘厳な態度はどこへやらで対応するしかなかった。勇者の神速なひと振りをかろうじて躱し、先ほどよりも警戒の態勢を取りながら、会話を試みようとした時
「お前、その目...」
勇者のあまりにも無機質な目に気づいた。魔王は先祖代々魔王の直系であり、今までの勇者についての話を聞かされていた。しかし、その話の中の勇者は使命感を帯びた目をしており、仲間も最低でも4人はいたはずだ。そこであらためて廊下が見えている大扉に目をやると、勇者の仲間の姿は見えない。ここに着くまでにやられたのかと思考をめぐらしているとき、勇者の追撃が飛んできた。先ほどよりも軽くいなしながら、思考を再開する。仮にも勇者の仲間があんな魔物ごときにやられるか?いや、ありえねぇ、今までの勇者一行はそんな弱くなかったはずだ。じゃあなぜ、あいつは一人で乗り込んできた?魔王が落ち着いて思考ができたのはそこまでだった。先の攻防により魔王が一筋縄ではいかないことがわかったのか、勇者の気配が変わった。魔王が警戒して構えた瞬間
「はやいっ...!」
先ほどとは比べ物にならない速さで勇者が迫っていた。それでも魔王はギリギリ対応することができた。なるほどな、こいつは今までの勇者とは別格だったってわけか。だから仲間はかえって足手まといになるからもともといなかった。しかし、それでも妙だ、なぜこいつの目はこれほどまでに冷徹なのだろうか。
「っと、これは本気でやばいな」
魔王はやむを得なく力を解放し、勇者と激戦を繰り広げた。これは反動がでかそうだななどと考えながら、なんとか優位を取り戻し、反撃にでようとしたその時
「っく...」
勇者が糸が切れたようにその場に倒れた。魔王はそのまま歩み寄り、とどめを刺そうかと悩みながら手を振り上げると、勇者の瞳がわずかに揺れ、その表情はどこか安堵しているかのように見えた。
「お前...まさか死にに来たのか?」
倒れた勇者は答えない。ただじっとその時がくるのを待っているようだった。魔王がどうしようかと思考を巡らし始めた時、廊下のほうが何やら騒がしくなってきた。
「玉座は近い!!隊列を乱さず進軍せよ!!」
「「「オォー」」」
「っち、援軍がいやがるのか。流石にこの反動のなかはやべぇ」
あっという間に騎士が列をなして流れ込んでくると
「これは、ちょうど良いですねぇ」
なにやら壮年の騎士隊長らしき人物が勇者と魔王を一瞥すると言った。ここで、魔王は少しの違和感を覚えた。ちょうど良いだと?確かに俺は弱っているが、なぜ勇者に駆け寄って介抱しないんだ。魔王が相手の出方をうかがっていると
「勇者並びに魔王を確認!!即刻排除せよ!!」
騎士隊長の号令とともに数々の魔法が飛んでくる。
「っはぁ!」
魔王は咄嗟に勇者を背にして庇うと魔力障壁を展開した。魔王は振り返り、勇者が無事であることを確認して安堵し
「お前ら人間は勇者の仲間だろう、どういうことだ?」
と声を張り上げるが
「死にゆく貴様に話す価値などない、やれ」
またも号令がかかりこのままではジリ貧であると感じながら、魔王はある考えにたどり着いた。こいつは、この勇者はおそらく過去の勇者と比べ物にならないほど強かったのだろう。そのため、周りからは恐れられると同時に勇者を巡っての権力争いが多発していたのだろうと。なるほどな、人間ってのは薄情な奴らだな。
「って魔王の俺が言うのも変か」
魔王はある術の展開を始めると、勇者を小脇に抱えた。
「ちょっと衝撃があるけど、我慢しろよ」
そう言い残すと、次の瞬間に魔王と勇者の姿はなかった。
これから少しづつ書き進めてみようかと思います。続きが読みたい、面白そうと思ってくださる方は高評価、ブックマークお願いします!!励みになって執筆のスピードが上がるかもです。