6 龍姫のターン
その後も、あたしとトニーはあらゆる嫌がらせを龍姫にしかけた。
落とし穴はもちろん、ベッドに蛇を仕込んだり、カエルがとびだす箱のプレゼントを送ったり、部屋の床にまきびしをまいたり。まきびしは忍者が使う、敵の足裏を攻撃する道具だ。その頃忍者にハマっていたトニーは、龍姫のベッドのまわりを重点的に、嬉々としてまいていたっけ。
いつしか龍姫を追い出すっていう目的も忘れて、あたしたちは純粋に嫌がらせをたのしむようになっていたんだよね。完全に、気が緩んでた。いまさらもう遅いけど、すっごく反省してる。
この日、あたしたちは決定的な瞬間を龍姫に見られてしまった。
「きょうの夜、パーティーがあるでしょ? ドレスがなかったら、出られないよね?」
龍姫のドレスをやぶく、という案を思いついたのはトニーだった。
魅力的な提案に思えた。だって、パーティーに出たら、龍姫はきっとパパにダンスをせがむ。お客さまを無下にもできず、パパは相手をすることになる。ママをほったらかして。
ああ、でも……
「却下よ。トニー」
「どうして?」
「ドレスに罪はないわ……」
おしゃれを愛する乙女として、ドレスをやぶるという行為はどうしても許せなかったの。
とはいえ、せっかくトニーが提案してくれたのだし、ちょっとくらいドレスにイタズラしてやろうってことになって、あたしたちは龍姫の部屋に忍び込んだ。ポケットに、カエルを入れるつもりだった。もちろん、生きてるやつ。
だけど、クローゼットの中のドレスを見たら気が変わった。ギトギトした原色使いの派手なドレスたち。小国とはいえ姫の持ち物としてはあまりに品がない。
「ギルティね」
「ハサミは持ってきたよ」
あたしたちは一心不乱にドレスを切り刻んだ。途中、たのしくなって、ドレスの残骸の上で水泳ごっこなんてしたのがいけなかった。笑い声や物音が響いていたらしい。
龍姫と、そのお付きの侍女たちに見つかった。
「ふ、ふふふ。はーっはっは!やっと証拠をつかんだわ。もう、逃さない!覚悟しなさいッ!」
あたしたちは二人そろって、パパの前に突き出された。
ここぞとばかりにあたしたちの罪を訴える龍姫を、ひたすら憎んだ。これはあたしたちと龍姫だけの戦いだったのに。ほかのオトナを巻き込むなんて卑怯よ!
全部を聞き終えたパパは言ったんだ。
「一週間、部屋にこもって勉強づけの刑だ」って。しかも、吸血族のイザベラ先生をつけるって。ものすごく、厳しい先生なの。ぜんぜん、ユーモアを理解しないし。
こうして、あたしとトニーは泣く泣く……本当に大泣きしながら……地獄の一週間を耐え抜いたんだ。
ドレスがなくなって、龍姫はパーティーに出られなかったのかって? まさか、パパたちが可哀相な龍姫をそのまま放っておくわけないでしょ。
龍姫は、ラミがママのために作った最高のドレスの一着を譲り受け、それを着て、パーティーに出た。あたしは見てないけど、ラミが作ったドレスなら素敵にきまってる。なんたって、ラミは魔界いちのデザイナーだもの。その素敵なドレスで変身した龍姫は、無事にパパとダンスを踊ったらしい。まるで蝶の舞のようだった、とは、あの夜給仕をしていた使用人たちの話だ。
あたしとトニーは、敵に塩を送ってしまったってわけ。こんなことなら、ドレスをやぶくんじゃなかった。ダサダサのドレスでパーティーに出て、大恥をかけばよかったのよ。
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