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パパに側室なんて許さない!  作者: 灰羽アリス
2/22

2 あたしたち、側室候補やっつけ隊☆


「聞いて、トニー。緊急事態よ」

 

「どうしたの?トリー」


「ママが増えるかもしれないわ」


 あたしの深刻さが伝わったのか、トニーがわなわなとふるえだした。あたしたちは双子。みなまで言わなくても、気持ちがわかりあえるのだ。


「そうなの、ひどい話でしょ」


「ママって忍者だったの!?」


「───は?」


 前言撤回。あたしたちは"言葉に出さずとも互いの気持ちがわかりあえる双子"なんかじゃなかった。


「ぶんしんのじゅつ!」


 トニーは絵本をかかげてみせた。──ああ、これ、フェルナンデスおじさまがくれた本だわ。トニーが最近、いちばん気に入ってるやつ。


「違うの、トニー。そうじゃなくて。パパが、側室を取るかもしれないってこと」


「そくしつってなに?」


「パパが新しくもらうお嫁さんのことよ。ママと結婚してるのに、もう一人別の人とも結婚するの」


「えぇっ!パパ、うわき!」


「そうよ。ママが悲しむわ」


「そんなのだめ!」


「もちろんよ。あり得ない。だからね、」


 トニーの耳元で、こっそり言う。


「あたしたちで、"新しいお嫁さん"をやっつけちゃおう」




「お行儀よくしてね」


 いつもより数倍おしゃれしたママが、あたしたちに言った。


「今日はね、大切なお客様が来るの。龍の国からの大使なんだけど」


 そこでママはため息をついた。緊張からなんかじゃない。


「知ってる。龍の国のお姫さまでしょ?」


 あたしが言うと、ママは目をおっきくした。


「……ええ、そうよ。楽しみね」

  

 ママはとりつくろうように笑うけど、顔色が悪かった。

 あたし、知ってる。そのお姫様が、パパの新しいお嫁さんになるかもしれない人、でしょ?

 だけど安心して、ママ。あたしとトニーが、その女をやっつけるから。パパと結婚なんて、絶対にさせないから。


 きゅっと手をにぎると、ママはやわらかくほほえんだ。


「ママ、今日もキレイ!いつもより、もっとキレイ!」


 トニーがママの足にしがみついた。


「あなたたちも、とっても素敵よ」


 ママはあたしたちを抱きしめて、頬をくすぐった。


 ママを泣かせるやつは絶対に許さない。トニーと視線を合わせ、決意を新たに頷きあった。



「お前たち、決まってるなぁ!かっこいいぞ!」


 謁見の間で待っていたパパが、あたしたちを見つけて、二人同時に抱き上げた。さらさらの長い黒髪が冷たくて気持ちいい。


「パパもかっこいいよ!」


 いつもとは違う高いところから見る景色に、トニーはきゃっきゃとはしゃぎながら言う。


「パパ、ママを愛してる?」


 あたしはまっずくパパの赤い瞳を見つめながら聞いた。


「当たり前だ。ママも、トリーも、トニーも、みんな愛してる」


「だったら、浮気しちゃだめだからね」


「え?」


「だめだからね?」


「あ、うん……はい」


「嘘ついたらパパとは絶交だから」


 パパの顔が青くなる。

 うん、ちゃんと釘は刺しておかないとね。



 まもなく、龍の国の姫がやってきた。


 真っ赤な長い髪を高い位置でまとめた、小麦色の肌をした女の人だった。キレイなほうだけど、唇が太くて、眉も太くて、なんだか変な顔。たぶん、見慣れないせいだってわかってるけど。下着みたいに薄くて、ひらひらしたドレスは、動くたびに鈴みたいな音がした。

 緑色の瞳が、パパを見る。──あ、だめだわ、これ。すっごく見覚えのある反応をしたもの。あれよ、パパに"お熱"になる女の人が、さいしょに見せる反応。ほっぺたが赤くなって、うるんだ瞳で上目遣いにパパを見るの。


「よくぞ参られた、龍の国の姫。上段からの挨拶で、失礼する」


 朗々とよく響く声で、パパが言った。


「とんでもございません、魔王様。お目にかかれて、光栄ですわ。……お噂に違わぬ素敵なお方」


 ふん、"ちょーはつ的な視線"なんてパパには通用しないんだから。


「ありがとう。龍の国とは何かと勝手が違うことも多かろう。不便があれば、側仕えに何なりと申し付けてくれ」

 

「───ありがとうございます」


 かたい挨拶はそこまでで、パパは、ママとあたしたちを紹介した。パパを好きになる女の人の対応には慣れたもので、ママは龍姫のはしゃぎぶりにも冷静に対応していた。


「まぁ、可愛い子」


 龍姫はあたしの鼻を、指先でつついた。


「私、子どもは大好きなんですの」


 ちらちらとパパを見る。さっそく家庭的な一面をパパにアピールってわけ。


「それに、とっても美人。切れ長の目元なんて、魔王様にそっくりで麗しいわ」


 ちょっとむかついたから、あたしは言ってやった。


「おばさんは面白い顔ね」


 ひく、と龍姫の笑顔がひきつった。


「トリー!?」


「すまない、娘が失礼を」


「い、いえ、子どもの冗談ですわ」


 あわてふためくオトナたち。


 と、


「本当のことを言って、なにが悪いの?」


 トニーが追い打ちをかけた。この子の場合はいじめてやろうなんて意図はなく、純粋な気持ちで言ってるだけなんだけど。でも、威力はばつぐん。


「「トニー!!!」」


 パパとママがたしなめるけど、トニーはきょとんとしてる。


 真っ赤になってぷるぷるふるえる龍姫を見て、ちょっとだけ満足した。さすが、あたしの相棒。


 覚悟しなさい、龍姫。パパの側室になろうなんて、そんなの、あたしとトニーが許さない。あらゆる手段を使って邪魔をして、きっとこの城から追い出してやる。


 



 


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