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パパに側室なんて許さない!  作者: 灰羽アリス
19/22

19 これでトドメ


 あたしとトニーがいなくなったのは、ほんの6時間くらいのことで。城はまったく騒ぎになっていなかった。普段から、これくらいの時間は平気で姿をくらますしね。ただ、ママだけは心配していたみたいで、どこに行ってたの?と二人いっぺんに抱きしめられた。


「気配遮断の魔法をかけて、かくれんぼしてたの」

 

 あたしがそう言ったときの龍姫のほっとした顔といったら!あたしたちを盗賊に引き渡したのがバレたら、側室どころの話じゃなくなるものね。その瞬間、物理的に首が飛ぶ。まったく、半端な賭けに出たものだわ。


 ……だけど、安心して。パパとママには龍姫がやったことを密告したりしないから。


 ほかのオトナを巻き込むのは、フェアじゃない。あたしたちは、対等な敵同士でありたい。───そう、最後までね。


 魔法使いの拘束具(ブレスレット)はラニが解除の魔法で外してくれたし、トニーの頭の傷はラミが治癒魔法で治してくれた。

 あたしたちの体調は万全。


【和解を申し出る。月が真上にのぼるころ、とどろき沼の前にて待つ】


 そう書いたカードを、龍姫にこっそり渡した。



 そして、夜。あたしとトニーはとどろき沼の前で龍姫がやってくるのを待った。

 

「来るかな?」


「来るわよ。いいかげん、あたしたちを排除する策もネタ切れだろうし、これ以上やり合うのにも嫌気が差してるはず。和解はいま、龍姫がいちばん望んでいることよ」



 しばらく待つと、龍姫はちゃんとやって来た。


「ちょっとは反省して、謝る気になったのかしらね?」

 

 龍姫は偉そうな態度で言うけど、内心、びくびくしてるのが伝わってくる。まさか、こんなに可愛い6歳の双子を怖がっているのかしら。


 あたしとトニーは手をつないで、しゅんと眉を垂らした。


「ちょっと、やりすぎたなとは思うの」


「龍姫、髪の毛ちりちり。かわいそう」


 ………トニー、あおっちゃだめよ。あたしたちは反省を示さないといけないんだから。だけど確かにちりちり。燃えるシャンプーの威力はばつぐんね。


「でも、これまでのことに関して謝る気はないわ。あたしたちは対等な敵同士。互いの健闘をたたえ合うべき関係でしょ?」


「───そうね。あんたたちのイタズラ(・・・・)も、なかなかだったわ」


「ええ、龍姫も。あたしたちを盗賊に引き渡すなんて正気を疑ったわ」


「命を取らないだけましでしょ」


 龍姫が口のはじを上げて笑う。たちまち、偉そうな態度がふくれあがっていく。びくびくした感じが消えた。成功体験は人を強くするってフェルナンデスおじさま、言ってたっけ。あたしたちを屈服させた"盗賊団への引き渡し事件"は、龍姫最大の成功体験というわけだ。


「それで、和解のお誘いだったかしら?」


 ───きた。


「あたしたち、もう争いたくないの」


「ぼくたちいい子にするから」


 じっとりと、龍姫は疑わしげにあたしたちを睨んでくる。

 そんなに警戒しなくても、二心なんてないわ。ホントよ?


「………じゃあ、私が側室になるのを邪魔しないと誓う?」


「誓うわ。それどころか、協力してあげる」


「うん。ぼくら魔法使いだし、やくにたつよ」


「………気味悪いわね。なぜ急に協力する気になったの?」


 あたしたちは大げさにため息をついてみせた。


「もう、いがみ合うのは疲れちゃったの。あたしたちは、平穏な日々を取り戻したい」


「イタズラ、もうほかに思いつかないしね」


「………ふーん?」


 龍姫は腕を組んで、しばらくあたしとトニーを観察した。チクタク、チクタク、時間が過ぎていく。そしてふっと、龍姫の表情が緩んだ。


「ま、あんたたちがおとなしくしてくれるんだったら、願ったりだけど。……正直、こっちもネタ切れだったし。あんたたち、しぶとすぎるのよ」


「だけどこれで解決。和解しましょ」


 あたしは龍姫に手を差し伸べ、握手を求めた。


「その前に、新しいママから忠告よ。あんた、その真顔やめな。ぜんぜん可愛くないわよ」


 思わぬ指摘にあたしは固まった。こんなふうにはっきり指摘されたのは生まれて初めてだった。あたしはうまく表情をつくれない。トニーみたいに柔らかく笑えない。あたしが嫌いなあたし。


「ほら、笑ってみなさいよ」


 トニーがとなりで心配してる。大丈夫、笑顔くらい。完璧なものをプレゼントするわ。


 ぐぐぐ、と頬を動かす。唇が乾く。鼻がひくひくする。まぶたがけいれんする。くい、と口角を上げる。目に力を込めて固定した。


 にぃっこり。


 たぶん、効果音としたらこんなかんじ。


「ふん、なかなか可愛いじゃない」


 いいわ、と龍姫が差し伸べたあたしの手を握った。早くして、頬が引きつりそう!


「いい勝負だったわ」


「ええ、ほんとに」


「和解成立ね」


 龍姫が言った瞬間、あたしは笑顔をやめた。手を離し、トニーと共に後退する。


 しゅるしゅると、沼の中から黒い影が伸びてくる。手のようなそれは、あっという間に龍姫に絡みついた。


「な、なによ!これ!ちょ、やだ、気持ち悪い」


 ずる、ずる、と龍姫が沼に引き込まれはじめる。


「た、助けて……!」


 あたしたちを見上げた龍姫は、はっとした。

 あたしたちの裏切りに気づいたのだ。


 にぃと笑う。柔らかくは笑えないけど、邪悪な笑顔は得意なの。


「あなたが側室になるのを、邪魔しない。ええ、もちろんよ。協力するわ、龍姫」


「龍姫は沼の主の側室(・・・・・・)になるんだよ!おめでとう!」


 龍姫の顔が赤黒くなり、はんにゃみたいに歪んだ。


「騙したわね!!!このクソガキどもがっ!!!」


 イヤァァァァァァァァ!!!!!


 とぷん、と最後に音をたて、沼の表面が静かになる。


 あたしとトニーは協力して、沼の前に墓石(・・)を立てかけた。


 ~エブリン・ドラグーン、19〇〇年。安らかに眠れ~


 あたしとトニーは物言わぬ沼を見つめたまま、ハイタッチを交わした。






あと3話で完結!

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