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パパに側室なんて許さない!  作者: 灰羽アリス
18/22

18 首を洗って待ってなさい!


 ガタゴトと、あたしたちは荷車に揺られた。ロキの知り合いだという商人に、あたしたちの城がある街まで送ってもらっているところだ。

 荷車の乗り心地は最悪。御者の商人の音の外れた鼻歌も最悪。


「お尻が痛いわ!」


「文句いうなよ、嬢ちゃん。引きずり下ろすぞ、ガハハ!」


「まぁ!」


 笑ったところで暴言の威力は少しも弱まらないと、この商人は知らないのかしら。


「いい? あたしはやんごとなき身分のレディなの。ちゃんとした扱いをしないと承知しないわよ」


「おー、こわ。気の強いガキンチョだ」


 トニーはあたしのひざ枕で眠ってる。頭に巻かれた包帯が痛々しい。

 

「トリー、さむいよ……」

 

 トニーはぎゅっとあたしのお腹にだきつく。


「起きたの? 頭は痛む?」


「うん、少し……」


「もうちょっとだからがんばってね」


「トリーはだいじょうぶ? けがしてない?」


「あたしは平気」


 トニーったら、自分が大ケガしてるくせに、あたしの心配なんて。胸が熱くなる。トニーはあたしをまもるためにすぐに飛び出した。あたしは動けなかったのに。恥ずかしい。トニーより、あたしのほうがずっとおくびょうだ。あたしがもっと強ければ、トニーにケガをさせることもなかったのに。あたしが、もっと、


「ぼく、もっと強くなるよ。次はトリーをかっこよくまもれるように」


 トニーは頬を赤くして笑った。あたしたちは双子。想いはいっしょだ。


「トニーはじゅうぶん、かっこよかったわ。助けようとしてくれてありがとう」


「えへへ。どういたしまして」


「でも、頭に傷が残っちゃうかしら……」


「これはね、"おとこのくんしょう"っていうんだよ。誇るべきものなんだ。パパが言ってた。だから、だいじょーぶ!」


 トニーが愛おしくて、あたしはそっとトニーの包帯をなでた。


「俺とはずいぶん扱いが違うのな」


 頭の後ろで腕を組んで横になっているロキが不満そうに言った。荷車をつかまえたあともついてきてくれるロキは、なんだかんだ、いいやつなのかもしれない。


「当たり前でしょ、わんちゃん。トニーは双子の相棒。つまりあたしの分身で、それだけで敬意を表するに値するのよ」


「わんちゃんって言うな!俺は狼だ!」

 

「………」


「なんだよその目は!」


「どちらもいっしょでしょ」


「いっしょじゃない!」


「うるさいわね。細かい男は嫌われるわよ」


「きらっ………」

 

「あなた、モテないでしょ」


「は、はぁ?そんなことねーし!お前だってなぁ……!」


 あたしはたっぷり目を細め、あわれみの視線を贈ってあげた。


「わんわん、わんわん、噛みついちゃ嫌よ。いい子にして、わんちゃん」


 ロキは顔を真っ赤にしてぷるぷる震えだした。ゴングが鳴る。勝負はあたしの勝ち。


 盗賊たちから逃げ出して、トニーは怪我をしたけど無事。あたしたちはそろって家に帰ってる。大丈夫。あの女の思惑通りにはなってない。あたしたちがいない間も、パパは無事だし、ママは傷ついてない。あの女にだって、これからきっと、ちゃんと、仕返しできる。


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