18 首を洗って待ってなさい!
ガタゴトと、あたしたちは荷車に揺られた。ロキの知り合いだという商人に、あたしたちの城がある街まで送ってもらっているところだ。
荷車の乗り心地は最悪。御者の商人の音の外れた鼻歌も最悪。
「お尻が痛いわ!」
「文句いうなよ、嬢ちゃん。引きずり下ろすぞ、ガハハ!」
「まぁ!」
笑ったところで暴言の威力は少しも弱まらないと、この商人は知らないのかしら。
「いい? あたしはやんごとなき身分のレディなの。ちゃんとした扱いをしないと承知しないわよ」
「おー、こわ。気の強いガキンチョだ」
トニーはあたしのひざ枕で眠ってる。頭に巻かれた包帯が痛々しい。
「トリー、さむいよ……」
トニーはぎゅっとあたしのお腹にだきつく。
「起きたの? 頭は痛む?」
「うん、少し……」
「もうちょっとだからがんばってね」
「トリーはだいじょうぶ? けがしてない?」
「あたしは平気」
トニーったら、自分が大ケガしてるくせに、あたしの心配なんて。胸が熱くなる。トニーはあたしをまもるためにすぐに飛び出した。あたしは動けなかったのに。恥ずかしい。トニーより、あたしのほうがずっとおくびょうだ。あたしがもっと強ければ、トニーにケガをさせることもなかったのに。あたしが、もっと、
「ぼく、もっと強くなるよ。次はトリーをかっこよくまもれるように」
トニーは頬を赤くして笑った。あたしたちは双子。想いはいっしょだ。
「トニーはじゅうぶん、かっこよかったわ。助けようとしてくれてありがとう」
「えへへ。どういたしまして」
「でも、頭に傷が残っちゃうかしら……」
「これはね、"おとこのくんしょう"っていうんだよ。誇るべきものなんだ。パパが言ってた。だから、だいじょーぶ!」
トニーが愛おしくて、あたしはそっとトニーの包帯をなでた。
「俺とはずいぶん扱いが違うのな」
頭の後ろで腕を組んで横になっているロキが不満そうに言った。荷車をつかまえたあともついてきてくれるロキは、なんだかんだ、いいやつなのかもしれない。
「当たり前でしょ、わんちゃん。トニーは双子の相棒。つまりあたしの分身で、それだけで敬意を表するに値するのよ」
「わんちゃんって言うな!俺は狼だ!」
「………」
「なんだよその目は!」
「どちらもいっしょでしょ」
「いっしょじゃない!」
「うるさいわね。細かい男は嫌われるわよ」
「きらっ………」
「あなた、モテないでしょ」
「は、はぁ?そんなことねーし!お前だってなぁ……!」
あたしはたっぷり目を細め、あわれみの視線を贈ってあげた。
「わんわん、わんわん、噛みついちゃ嫌よ。いい子にして、わんちゃん」
ロキは顔を真っ赤にしてぷるぷる震えだした。ゴングが鳴る。勝負はあたしの勝ち。
盗賊たちから逃げ出して、トニーは怪我をしたけど無事。あたしたちはそろって家に帰ってる。大丈夫。あの女の思惑通りにはなってない。あたしたちがいない間も、パパは無事だし、ママは傷ついてない。あの女にだって、これからきっと、ちゃんと、仕返しできる。