16 いくらなんでもやりすぎでしょ!?
「こんの、クソガキどもめ!!!!」
赤い髪をちりちりにした龍姫が、鬼の形相であたしたちの部屋におしかけてきた。あら、"燃えるシャンプー"のイタズラは成功したみたい。あたしとトニーは顔を見合わせて、久しぶりのイタズラの成功を喜んだ。そしたら、龍姫に何かを吹きかけられて………口から吐いたのよ? なにあれ、毒霧? とにかく、最後の記憶は、これ。
まったく、やられたわ。龍姫は手段を選ばないって、わかっていたのに。
目がさめたとき、あたしとトニーはオンボロの小屋の中にいた。
「トニー。起きて、トニー」
「うぅ……あれ、トリー?」
トニーはまんまるな赤い瞳で、あたりを見回した。
「どこ、ここ」
「わからない」
隙間風に、壁の板がガタガタ鳴って怖かった。板の目から見た外は真っ暗だ。さっきまでお昼だったのに。めまいがする。
ガタン、とひときわ大きな音がして、熊みたいなひげもじゃの男が小屋に入ってきた。
あたしとトニーはとっさに抱き合った。
「ガキども、起きてやがるじゃねーか」
「薬が切れたんだろ」
もう一人、ひょろっとした不健康そうな男も入ってくる。ごほごほと咳をしていた。
「話が違ぇぞ。アストルに着くまでは起きねぇはずだろ」
「アストルはもうすぐそこだ。問題ない」
「アストルですって!?」
それって、あたしたちがいた城から30キロも離れた街じゃない!
「トリー、しーっ!」
つい上げてしまった声に、熊が反応した。
「ほお、目の色は紫だったのか。こりゃべっぴんさんだ」
熊が近づいてくる。予想外だったのは、トニーの反応だった。
「トリーに近づくな!」
前に飛び出して、あたしをかばった。
「トニーやめて!逆らったら危ないわ!」
「ぼくは男の子だから、女の子より力があるから、トリーより魔法も得意だから!ぼくが、トリーをまもるんだ!パパと約束したんだ!」
「トニー……」
おくびょうなトニーが、足を震わせながらもあたしをまもるために頑張っている。鼻がツンとして目の奥が熱くなった。
だけど様子がおかしい。トニーは呪文をとなえたのに、魔法が発動しない。そのときになって、初めてきづいた。あたしたちの手首につけられたブレスレットに。これ、何だか知ってる。魔法使いの拘束具だ。パパが取り締まって、ほとんど壊したはずなのに、まだ残っていたなんて。
トニーはつきとばされ、壁で頭を打った。
「トニーっ!!!」
かけより、頭を抱きかかえる。頭のうしろのほう、銀の髪がどろりとした赤で染まりつつあった。ぞっと、全身に震えが走った。
「おい、商品を傷つけるなよ。値段が下がるだろ」
「いや、まさかあんなに吹っ飛ぶとは」
怒りのせいで震えが抑えられず、歯がカチカチ鳴った。
「許さない……許さない……っ!」
そばに落ちていた木板を、男たちに向かってかまえる。
昔、拘束具をはめられて魔法を封じられたパパは、ママをまもるために魔力を爆発させて、拘束具を自力で解いたと聞いた。あたしだって、できる。トニーをまもるために、あたしだって。
だけど、いくら力をこめてもブレスレットはうんともすんともいわなくて。あたしの顔はとっくに涙に濡れていた。男たちはそんなあたしを薄ら笑う。ハッ、ハッとトニーの荒い息づかいに胸がしめつけられる。
そのとき、小屋に火の手が上がった。いっきに視界が炎の赤でいっぱいになる。
小さな影が、小屋の中に飛び込んできた。それから数秒もしないうちに、男たちが床に転がっていた。
何が起きたの……?
「こっちだ!」
小さな影の主が、あたしの手をひっぱった。
「だめ、まだトニーが!」
「俺がおぶってく!」
あたしたちは崩れる小屋から急いで逃げ出した。