13 作戦開始!(過激Ver)
コツコツ、と高いヒールの音を響かせながら、龍姫が階段をおりてくる。どうしてあんなに腰をくねらせないと歩けないのかしら。きっと、くらげみたいに骨がないのね。
壁際に留めてあるシャンデリアの紐を解く。シャンデリアはその重さに任せて、ぶん、と振り子のように動く。計算上、いま階段をおりる龍姫の頭にクリーンヒットするはずだった。
だけど───
ブン!
シャンデリアが振り切れるすんぜん、龍姫は足元に落ちたイヤリングを拾うためにしゃがんだ。そのせいで、シャンデリアの振り子は龍姫の頭上でむなしく振りかぶった。
チッ、悪運の強いやつめ……!
もう少しだったのに……!
悔しくて、キーッとその場で地団駄を踏む。
「トリー、トリー」
「なによ、トニー」
「シャンデリア、戻ってくるよ」
振りかぶったシャンデリアが次に向かう先は、元あった場所。ブン、と勢いを増してシャンデリアが戻ってくる。
「「きゃーーーーっ!!!!!」」
と、シャンデリアが爆発した。パラパラとふってくる破片は、頭上の見えない壁に阻止され、あたしたちには当たらない。
「なにしてるの、君たち」
ひどく平坦な声がした。ラニだ。寝癖のついた焦げ茶色の髪が不安定に揺れ、今日も不機嫌そうに眉を寄せている。
「ラニー!怖かったよ~!」
トニーがラニの足にしがみついた。ラニは無感動にトニーを見下ろす。
「トニー、これくらい君にもできるよね? 僕が教えたんだから。いつも言ってるけど、トニーはやっぱり、とっさの判断力と行動力に欠ける。また修行だよ」
「えぇ~、いまそれ言うぅ? ぼくの感動がだいなしだよぉ……」
「ていうかこれ、どうしよう。フィオリアさんのお気に入りのシャンデリアだったのに」
「ラニにしては、雑な魔法だったわね」
あたしは腕を組んで言った。こうしてないと、ばくばくした心臓が飛び出しそうなんだもん。良かった。助かった。怖かった。
「だーれが雑だって?」
「い、痛い、痛い」
ぐりぐりと、こぶしで頭をはさまれる。振り返らなくてもわかった。このだみ声。ラニの双子の片割れ、ラミだ。
「爆発させたのは、ラミだよ」とラニが言う。教えてくれるのが遅いのよ。
「ごきげんよう、ラミ。今日も寒そうなかっこう」
ラミは黒いミニスカートとタンクトップ姿で、青いバラのタトゥーが施された細い手足をおしげもなくさらしている。龍姫より薄着だけど、なんでか、龍姫みたいに下品には見えない。短く切り揃えられた焦げ茶色の髪が、かっこよく見えるせいかも。なにより、こういうスタイルはラミに似合ってる。
「で、なんでシャンデリアの紐が切れてんだ?」
「それは……」
あたしとトニーは顔を見合わせる。
ラミの疑いたっぷりの視線で、わかった。バレてる。怒られるかな? パパたちに報告されるかな? 不安になっていると───、
「ま、おイタも程々にな?」
あたしの頭に手を置き、ラミはにっと笑った。気づいても、それがだめなことでも、自由にさせてくれる。だからラミが大好きだ。オトナだけど、あたしたちの仲間に入れてあげてもいい。
だけど、ラミはさめてるから。面倒ごとに関わるのはかんべんだって、誘いはすげなく断られてしまった。
シャンデリアにまったく気づかなかった危機感のうすい龍姫は、いつの間にかいなくなっていた。たぶん、いつものようにパパの執務室に向かったのだと思う。