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パパに側室なんて許さない!  作者: 灰羽アリス
11/22

11 ふたりの仕事


「トリー、だいじょうぶ?」


 ひざを抱えて顔をうずめるあたしに、トニーはひかえめに声をかけてくる。


「大丈夫」


「お菓子、たべる?」


「……たべる」


 トニーがすすめてくれたお菓子を、ふたりでもぐもぐたべた。


「トリー、あのね」


「うん、なに?」


「ぼく、今朝、龍姫の部屋に忍びこんだんだ」


「───え?ひとりで?」


「うん、それでね、龍姫の靴の中にカエルを入れてきたの。だからいま頃ね、龍姫の靴の中は───」


「待って」


 嬉しそうに語るトニーを、手をかかげて止めた。


「イタズラを、ひとりでしかけたの?なんで?」


「トリーが喜ぶかなって……思ったんだけど……」


 雲行きがあやしいことに、トニーは気づいた。気づかないほうがおかしい。たぶん、あたしの顔は真っ赤になっているだろうから。


「どうして、あたしといっしょにしなかったの? イタズラは、ふたりの仕事なのに」


 さっきパパに怒って、涙腺が弱くなっていた。かんたんに、涙があふれてくる。


「トリー、ごめん!ごめんね!泣かないで」


「トニーなんて、もう知らない!」


「トリー……」


「あっち行って!!」


 わかってる。これは八つ当たりだって。パパへの報告が失敗したあたしのかげで、トニーは人知れずイタズラを成功させていた。あたしの力も必要とせず。役立たずのトリーなんていらない、そんなふうに言われてるみたいで、それが、すごく嫌だった。



 むしゃくしゃして、あたしは城の廊下をずんずん歩いた。あたしとトニーは同じ部屋だし、どちらかが出ていかないと、ひとりになれないんだ。


 ふと、窓の外を見た。ほんとに、なにげなく。そして、驚愕した。


 ───パパが、龍姫と腕を組んで歩いていた。ふふふ、と楽しそうな声が窓ガラスごしにくぐもって聞こえてくる。パパも笑顔だ。


 信じらんない!パパも、龍姫にお熱(・・)なの?

 それとももう、幻覚効果のあるお酒や惚れ薬でも飲まされた? ママは────


 そうよ、ママ。あたしたちは、ママのために、龍姫をやっつけようって決めたんだった。

 龍姫を絶対に、側室なんかにしてやらない。ママは一人だけで、十分で、それがベスト。あたしたち幸せな家族に、他人の入る余地はないのだ。


 あたしは当初の目的と意気込みを思い出した。


 あたし、何してるんだろう。ちょっとしたことで、こんなふうにいじけて。そうよ、パパがあたしの言うことを信じてくれないなんて、ささいなこと。オトナなんてあてにせず、あたしとトニーでどうにかすればいいだけなんだから。


 こうして何もしていない時間は、そのまんま龍姫に有利に働く。つまらない意地を張ってる場合じゃない。


「トニー、ごめんなさい。ちょっと、カリカリしてて。トニーに当たっちゃったの」


「ぼくもごめんね、トリー。イタズラはいっしょにするから楽しいんだもんね。これからも、いっしょにがんばろうね」


「ええ、トニー」


 あたしたちは、決意を新たにひしと抱き合った。



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