1 双子の姉弟トリーとトニー
全22話、お付き合いください☆
午後の日差しの中には、なにかキケンな成分が含まれてるって、あたしは思う。だって、あのオレンジ色の光をあびたら、すっごく眠たくなる。さっきまでしゃんとしていられたのが嘘みたいに。
「トリーはいいよね。"ビクトリア"って、パパとママから半分ずつもらった名前だもん」
となりであたしの相棒がいじけてる。わた菓子みたいな銀の髪が、太陽の光に当たってきらきら光っていた。あたしの相棒、トニーはもうずっと前から勉強なんてほっぽりだして、自分の名前について文句を言っている。
「あら、トニー。"アントニオ"って名前にも、すてきな由来があるのよ。知らないの?」
あたしの思わせぶりな言い方に、トニーがまんまるな赤い瞳を輝かせた。
「知らない!なになに、教えて!」
「じゃあ、図書室に行きましょ。あそこにあなたの名前の由来になった、偉大なドラゴンライダーについて書かれた本があるから」
「わーい!」
あたしのねらいは成功で、トニーはすっかりドラゴンライダーのお話に夢中になった。強くて格好いいライダーの名前が、自分の名前の由来になったと信じて、大喜び。ママのところに行くときも、分厚くて重いその本を抱えていったくらいだ。
「でね、すっごいの!"アントニオ"はいっちばん強いドラゴンと勝負して、勝ってね、それで、ドラゴンをてなずけちゃうの!」
トニーはいま読んだばかりのお話を、ママに鼻息荒くまくしたてた。
「この人みたいに強くなるようにって、ぼくの名前を"アントニオ"にしたんでしょ? ぼく、すっごくうれしい!」
ママは微妙な顔だ。だよね。だって、アントニオの名前の由来は、ドラゴンライダーの"アントニオ"じゃないんだもん。
ママは片眉を上げて、あたしを見た。
「だってママ、」
しかられる前に、さきに言っておく。あたしはトニーを幸せな気持ちにしたんだから、悪い事はしてないのよ?
「嘘も方便って、パパが言ってたもん」
「まったく、ヴィったら……」
「うそもほうべーってなにー?」
「思いやりの精神を大切にしましょうって、ことだよ」
あたしが教えてあげると、トニーは「へぇ、トリーって何でも知っててすごいね!」と笑った。
「もう、ビクトリア!適当なこと言わないの」
「嘘は言ってないもん」
ママのおしかりを笑い飛ばして、あたしはトニーの手を引いて駆け出した。
「食堂に、お菓子をもらいに行こう」
「でも、まだおやつの時間じゃないからダメって言われるよ?」
「大丈夫。あたしに策があるから」
あたしたち、トリーとトニーは、双子だ。
これは愛称で、ほんとうの名前は、ビクトリアとアントニオ。トニーが言うように、あたしの名前は、パパとママの名前を半分ずつもらったもの。
トニーの名前はおじいさまが決めたって、ママから聞いたことがある。ママの生家、ディンバードの血筋に産まれた男の子は、代々その家の当主が名前を決めるんだって。つまり、トニーの名前の由来は別にないってわけ。それじゃつまらないし、たまたま名前がいっしょだったドラゴンライダーの名前が由来ってことにしたほうが楽しいじゃない?
「いい? あたしたちはまだ6歳で、とても可愛いの。わかる?」
「うん、ぼくたち可愛い」
あたしたちは、おたがいの色をとても気に入っている。
あたしがパパの黒髪と、ママの紫の瞳を、トニーがママの銀髪と、パパの赤い瞳をうけついだ。
「可愛い双子が手をつないでお菓子をねだりにきたら、心動かされないオトナはいないわ」
「そうなの?」
「それが自然の摂理なの。でもあくまで、ひかえめに、おねがいするのよ」
「せつりー!」
「それから、上目遣いもだいじ。ちょっとやってみて」
「どうやるの?」
「あごを下げて。くちびるはすぼめて。目をうるませるの。それからじーっと相手を見るの」
「うー、ぜんぜん涙出ない。どうしよう」
「悲しいことをかんがえればいいのよ」
「悲しいこと」
「こないだ、スワンにおもちゃ取られたでしょ」
「………おっけい。泣けてきた」
「よし、行くわよ」
食堂の主、グリおばさんがウサギの耳をぴこぴこさせながら振り返った。上目遣いこうげきはかんぺき。あたしたちはたっぷりお菓子をもらって、自分たちのへやに引き上げた。