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第5話 絶体絶命! 秘密の部屋の悪意

<……こっちにおいで>


 声に導かれて僕は通路を進む。


「ティモシー! 大丈夫!? 返事をして!」


 フィオナが心配そうに僕の顔を覗き込む。


「大丈夫です……。向こうに行きましょう……」


 思考が霧がかったように動かない。僕の口は僕の意思を無視して言葉を発していた。


<……こっちにおいで>


 声の聞こえる方向へ僕とフィオナは進む。


 そして。


<……ここだよ>


 角を曲がり一つの部屋に入った。そこは先ほどまでいた広間よりも広く、大きな大広間だった。


「あれ?」


 不思議なことに大広間に入った途端、モヤがかかっていた思考の霧が晴れ頭が回り始めた。


「声が聞こえて、あれ? なんで不用意にこんなところまできちゃったんだろう……」


 少しぼーっとしながら呟く。


「な、何か嫌な予感がする……」


 僕の隣でフィオナがぶるりと体を震わせた。


「戻ろうティモシー。ここは何か、嫌」


 フィオナが僕の手を引っ張る。そして部屋を出ようとした。


 しかし。


「ま、≪魔法障壁≫!? なんで出口が高位の魔法で封鎖されているの!?」


 なぜかフィオナは大広間の出入り口、その一歩手前で立ち止まった。僕はフィオナの肩から前を覗き込んだ。すると出入り口は白く半透明な膜のようなもので閉鎖されていることが分かった。


 フィオナによればこれは≪魔法障壁≫だという。魔法障壁というのは高位の支援魔法だ。それは一言に言えば魔力で出来た無敵のシールドのようなものである。


「もしかして僕たち閉じ込められてしまったんでしょうか?」


「そう、みたいだね」


「フィオナでもなんとかならないんですか?」


「無理だね。魔法障壁を突破できるほどの魔力は持っていないよ」


「……」


 え、閉じ込められた? こんなダンジョンの最下層で? きっと助けは来ない。日帰りのはずだったから糧食も持ってきていない。となると、餓死するしかない。


「うわぁあああああ! 嫌です! 死にたくない!」


「落ち着いてティモシー! 最初は苦しいけど慣れれば苦痛じゃなくなるから!」


「なんでそんなこと知ってるんですかぁ!!」


 もしかして死の経験済み!?

 僕が顔を青くして騒いでいた。と、その時。


 ドスンと、何か大重量の物が落ちてきたような音が大広間中に響く。それは僕たちの間近から聞こえてきたようだった。


 とても嫌な予感がする。


 僕とフィオナは恐る恐る後ろを振り向いた。

 するとそこには体長10mを超えるような巨体の黒くて腕が六本もある骨の巨人が立っていた。


「ジャイアントスケルトン!?」


 フィオナがそれを見て叫ぶ。その声色には焦りが含まれているように感じた。


 しかしジャイアントスケルトンってなんだろう。

 聞いたことのない名前だ。ダンジョンの守護者にあんな見た目のものはいないはず。ただ少なくともそいつは僕とフィオナに対して友好的な存在ではないようだった。……当たり前か。


「いや、ジャイアントスケルトンじゃない……? 腕が六本生えているし、色が黒い。上位種?」


 フィオナがジャイアントスケルトンを見てぶつぶつと呟く。状況把握に努めているようだけど今はマズイ。


「フィオナ! 奴が動く前になんとかしましょう!」


「分かってる! ティモシーは危ないから端っこに逃げてて!」


「えっ!」


 いうが早いかフィオナがジャイアントスケルトンに向かって突っ込む。僕もそれを追いかけて走った。


 動く物体に反応したのかジャイアントスケルトンが僕らの方を向く。そして右の三本の手を上に掲げた。


「わわ! まさか!」


 ジャイアントスケルトンが三本の腕を僕らに向けて叩きつけてきた。ガァン!、と音を立て大きな衝撃が地面を揺らす。僕は間一髪のところで後ろに下がり腕の攻撃を回避していた。


 フィオナは大丈夫だろうか?

 土煙に遮られていてフィオナの姿が見えない。僕は最悪を想像した。


「あっ! フィオナ!」


 しかしフィオナは無事だった。見事に回避していたらしい。ジャイアントスケルトンの足元を白く輝く残像を残し駆け抜けている。フィオナは機敏に動き回りジャイアントスケルトンを翻弄していた。


 僕は情けないことにさっきのジャイアントスケルトンの攻撃にビビってしまい前へと踏み出せないでいた。さっきの攻撃を避けられたのは幸運だったのだ。次も避けられるとは思えない。その考えが僕の動きを鈍くしていた。


 フィオナはプレートメイルを着込んでいるにも関わらずそれを感じさせないほど軽やかな動きでジャイアントスケルトンと戦っていた。しかし、有効な手立てがないようだった。直剣で足元を切りつけているようだがそれは大木を剣で斬り倒そうとするよりも無謀な行いだった。まるで効いていない。


「くっ、≪炎槍≫!」


 ついにフィオナが魔法を使った。フィオナの手の平から炎の槍が飛び出しジャイアントスケルトンへ真っ直ぐに突き進む。


 だが。


「あれでもダメ、なんですか……」


 ジャイアントスケルトンにぶつかったフレイムランスはかき消された。ジャイアントスケルトンは身じろぎもしない。


 そして魔法を使った代償でフィオナの動きが止まってしまっていた。そこへジャイアントスケルトンの壁が押し迫るかのような蹴りが襲った。


「きゃぁぁぁ!!」


 フィオナが一直線に吹き飛ばされる。


「フィオナ!」


 僕は吹き飛ばされてきたフィオナへ走った。そしてなんとか受け止めようとする。が、プレートメイルを着込んだフィオナを受け止めきれず僕とフィオナは一体となってぐるぐると回った。


「……うっ。だ、大丈夫!? フィオナ!」


 一瞬だけ意識が飛んだ。だがすぐに覚醒し体を起こすと僕の下で倒れるフィオナに声をかける。


「大……丈夫」


 フィオナが片目だけをうっすらと開いた。その様子はまるで大丈夫には見えない。


「!?」


 後ろからドスンドスンとジャイアントスケルトンが歩いてくる音が聞こえた。急いで振り返るとジャイアントスケルトンが迫ってきていることが分かった。


 フィオナはもう動けない。僕がなんとかしないといけない。


「……」


 迫る異形の黒い影。影が僕を覆った。僕は腰からダガーを引き抜くと両手で構えた。だが、こんなちっぽけなダガーで何が出来るというのだろう。カチカチと奥歯が鳴る。恐怖で頭がどうにかなりそうだった。


「ティモシー」


「!?」


 声を聞き振り返ると僕の後ろで剣を支えにしてフィオナが立ち上がっていた。


「大丈夫。私がなんとかする」


 なんとか出来る相手じゃない。無理だ。

 フィオナの視線は定まっていない。黄金のプレートメイルには凹みもないがその奥の体はきっともうボロボロだろう。


「私は諦めない。運命は諦めないものに必ず微笑むのだから」


 か細いフィオナの声。その声には絶望の色は感じられなかった。……でも。


「クォォォォォォォォ!!」


 ジャイアントスケルトンが空気を震わせるような雄叫びをあげる。勝利を確信しているのだろうか。


 もう、こんなの……どうしようもないじゃないか。


「私は諦めない……」


 それでもフィオナは諦めていないようだった。全身ボロボロなのに。……それでも。なら。


「なら僕も最後まであがきます!」


 フィオナが諦めないのなら。僕だって諦めたくない。落ちこぼれだろうと、心まで落ちこぼれたくはない!


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ダガーを手に、ジャイアントスケルトンに突っ込む。それを迎え撃つようにジャイアントスケルトンが両手を僕へと叩きつけてきた。


 幸運は二度とは続かない。


 僕はジャイアントスケルトンの手に潰された。


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