第2話 魔族に先祖返り?
その後、僕は武装した教員達に囲まれた。
「なんで!!」
「大人しくしろ!!」
囲む教員達が剣や杖を僕に向けて構える。どうしてこうなった。
「ん? 君はもしかしてティモシー君ですか」
「あ、ミラー先生」
僕を囲む教員の中に僕のいる魔術師クラスの担任をしているミラー先生がいた。
「すみません。この子は私のクラスの生徒のようです。危険のない子なのでここは私に任せてもらえませんか?」
ミラー先生が僕の前まで来て僕の肩を持つ。なんとかこの場はミラー先生が収めてくれたのだった。
教員達が撤収した後、僕はミラー先生に職員室へと連れていかれた。
「さて、話を聞かせてもらっても構いませんね?」
「と、言われても僕にも自分に起こっていることがさっぱりで……。今朝起きたら角が生えていたんです」
事情を先生に説明する。
「うーん、なるほど。朝起きたら突然ですか。うーん、これは……、もしかして……」
ミラー先生が何か思いついたかのような顔をした。
「ミラー先生、何か分かったんですか? お願いです。教えてください」
「これは推論なのですが……」
そしてミラー先生はゆっくりと口を開いた。
「恐らく先祖返りが起こったのではないかと思います」
「先祖返りですか?」
先祖返りというのは生まれつきヒューマン以外の特徴を体に現した人のことだ。
「そうです。それも魔族に先祖返りしたのだと思われます」
「魔族?」
さっきから頻出している魔族というワード、それは全く聞き覚えのないものだった。
「後天的な魔族への先祖返り。とても珍しい話です」
「あの先祖返りは分かるのですが、魔族というのは一体なんですか?」
「魔族についてのことは一年生にはまだ教えていませんでしたね。では特別講義としましょう」
先生はそう言うと教科書を戸棚から取り出して机に広げた。
「魔族について知るには神話の時代まで遡らなければいけません。かつて神々は魔の陣営と戦っていました。それは神々の勝利で終わりましたが、その時の魔の陣営に所属していた一族のことを魔族、または悪しき者達と呼ぶのです」
「神々の敵で悪しき者ですか!」
「遠い遠い過去の時代の話です。今は魔族も滅んでいます。それに一目で魔族だと勘付く人も少ないでしょう。ですから悲観的になるよりもこれからその希少なギフテッドをどう扱うかを考えることが重要だと先生は思います」
と、言われても。
魔族が神の敵で僕がその先祖返りだなんてショックだ。
「魔族の特徴はその赤い瞳ですね。他種族には見られないものです。そしてその羊の角から考えるに魔族の中でも普遍的な存在である魔人族があなたが変化した姿だと思われます」
「魔人族ですか……」
「魔人族の特徴は高い魔力と身体能力です。体の奥底から力を感じるでしょう?」
「いえ、まったく」
頭が角のせいで重くてクラクラするぐらいしか体の変化は感じない。
「おかしいですねー」
ミラー先生が首をかしげる。僕も一緒になって首を傾けた。
その後、僕は職員室を後にして自室まで戻った。
色々バタバタして大分時間を食ってしまったが今日も授業がある。教室に行かなくてはいけない。
時間がないので朝食は抜きだ。制服に着替えて適当に寝癖を整える。鞄には今日の授業に必要なものは全て入っているからこれで準備万端。
さあ、行くぞ。
僕は自室のドアを開けた。
「うぺっ!」
そして外に出ようとした時、ドアの前には誰かが立っていた。僕はドアの前に立っている人にぶつかって後ろに弾かれて尻餅をついてしまった。
「いたた……」
「あっ、ごめんね。大丈夫?」
ドアの前に立つ人物が僕の前に手を差し伸べる。その手を握って立ち上がった。そしてその人物の顔を見た。
「あっ! フィオナさん!」
「フィオナでいいよ。ティモシー」
ドアの前に立っていたのはフィオナだった。
「こんな朝早くにどうしたんですか?」
「何か朝から騒動があったって聞いて、その騒動の渦中にいるのがティモシーだって話だったから様子を見に来た」
「あ、なるほど……」
ん?
ここで僕に突然閃きがあった。
さっき先生は僕に『魔族、または悪しき者達』に先祖帰りしたと言った。そしてフィオナは昨日、『悪しきモノ達の殲滅が目的』だと僕に語った。
僕=悪しき者、悪しき者=殲滅対象。
つまり。
僕=殲滅対象。
「どうしたのかな? 顔が青ざめて体はガタガタと震えてるみたいだけど」
「いいい、いえ! なんでもないです!」
逃げなきゃ殺される!?
「じゃあ僕はこれで! また会いましょう!」
「待って」
横をすり抜けて行こうとするも肩を掴まれてしまった。
「私たち同じ一年生だよね。一緒に行こうよ」
能面のような無表情で言われる。顔が近いし怖い!
「じゃ、行こう」
「えっ、ちょっ、わっ」
そして手を握って引っ張られた。
「……」
黙々と僕を引っ張って歩くフィオナ。
見た目が変わったことや魔族であることを言われるかと思ったけどフィオナは何も言わない。僕は密かに安堵した。
「ねぇティモシー。その角や髪のことだけど」
とはいかなかったかー。とはいえここから誤魔化せられれば……!
「えっ、なんですか? 普通の角ですよ」
「普通の人には角なんて生えてないよね。……ティモシー、魔族の先祖返りになったんだってね」
誤魔化せなかった。
「ヒィィ! せめて片腕だけで勘弁してくださいぃぃぃ!!」
頭を抱えてフィオナから逃げる。
「な、なんでそんなに怖がってるのか分からないけれど何もしないよ……」
フィオナが眉尻を下げて言った。
「ほ、本当ですか?」
「本当本当。ほらそんなに離れないでこっち来て」
フィオナが僕に手招きをする。僕はおっかなびっくりしつつフィオナに近づいた。
「捕まえた!」
「うぎゃぁぁぁ!!」
フィオナに両手で抱きしめられた。僕は逃れようともがいたがフィオナは僕よりも体格が大きいので逃れられなかった。
「ふふ、何もしないよ。早く教室に行こう」
フィオナが僕を解放した。そして僕の手を握る。
「ティモシーが魔族の先祖返りになったのはビックリしたけどそれで態度を変えることはないよ」
「本当ですか? 目ん玉を引き抜いたりしませんか?」
「しないよ。どうしてそう猟奇的な発想が出てくるのかな……」
フィオナが口をへの字に変える。
僕は恐る恐るフィオナの手を握り返した。
「もしかして私が悪しき者達の殲滅が目的だって言ったから勘違いしたとか?」
「そ、そうです……」
教室まで歩きながら会話をする。手は繋いだままだ。
「ふふ、私が君みたいなか弱い女の子に危害を加えたりはしないよ」
「えっ? 女の子?」
「え?」
少しの間、フィオナと見つめ合った。
僕とフィオナの間で何か致命的なすれ違いがある気がする。
「ティモシーって女の子だよね?」
「違います。男です」
するとフィオナはこれまでの無表情を大きく崩して目を見開いた。
「え、えええええええええええ!!」
そしてバッと繋いでいた手を離した。
「ティモシー、男なの? 嘘でしょ?」
「いえ、嘘じゃないです。証拠を見せましょうか?」
僕はズボンの裾に手をかけた。
「何を見せる気なのかな!?」
しかしフィオナに手を掴まれて阻止されてしまった。
「男の証です!」
「いい! もう分かったから!」
しぶしぶズボンに掛けていた手を離す。
「でも本当に信じられない。そのぱっちりした目もサラサラの髪も華奢な体も女の子にしか見えないよ」
確かに僕は昔から女の子に間違えられる。そして男らしくない見た目をしていることも僕が学園で軽んじられる原因になっている。
「あっ、教室に着いちゃいました」
フィオナと話しているうちにいつのまにか魔術師クラスの教室にたどり着いていた。
「じゃ、私は戦士クラスだからもう行くね。またねティモシー」
「はい、ではまた」
フィオナと別れて魔術師クラスの教室に入る。するとすぐに友人達三人に囲まれた。