02
城からガーデンの国境までは馬車で大体半日。そこから首都ダリアまでは大体4時間らしい。まるで本物の王子のように身綺麗にされ、落ち着きなくそわそわとしていた。実は生まれて一度も隣国のガーデンに訪れたことはなかった。むしろ自分の国から出たことなど一度もなかった。本でしか読んだことがない隣国に訪れること自体はアキレアの心を弾ませた。
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「アキレア様!只今国境を通過、ガーデン王国に入りました!」
「……ん…?あぁ、ありがとうございます…。」
国境を越えた報告を受けて、寝起きの目をこすり伸びをして馬車の窓から外の景色を覗みた。どうやらここは農村らしい。人々はいきいきと汗を流し、田畑は豊かに実っている。道をブーケの紋章が入った馬車を通っているのにも関わらず、住民は馬車を視界に入れても動揺しなかった。アキレアが窓からそんな風景を覗いていると、果実を収穫する白髪の女性と目が合った。女性はアキレアと目が合うと微笑んで会釈した。それにつられアキレアも会釈をすると女性は嬉しそうに笑顔を深めた。
予定通り 4時間程経つとガーデン王国の首都、ダリアについた。ここでも街の人々は馬車を見ても驚きもしなかった。むしろ目が合うと微笑みを向けられた。何度も微笑まれるたびに少し嬉しくなって憂鬱な気分が薄くなっていったと思ったが、城門を目にするとすぐに顔つきがこわばった。
(う……緊張してきた……。女王はどんな人なんだろう……。)
(会ったこともない女と結婚だなんて、僕には荷が重すぎる……!しかも相手はあのイバラの女王……。僕、殺されたりしないかな……)
起こりうる最悪の事態を想像し、背筋がゾッと凍った。
(いやいや仮にでも婚約っていう話だし……!)
「大丈夫!落ち着け!アキレア!!」
自分の頬を叩き気持ちを落ち着かせ、アキレアを乗せた馬車は城門をくぐった。
執務室に通されて、かれこれ10分。香りの良い紅茶にも手を伸ばさずにそわそわと落ち着きなく座っていた。心を落ち着かせるために大きな本棚を見た。ずっと本を読んでいる僕も読んだことがない本がたくさんあった。ガーデン王国の歴史についての本はもちろん、近隣諸国の歴史の本まで。それに加えて薬学や剣術や料理本まで置かれていた。そして一番驚いたのは、“ぼくを探して”という児童書が置かれていたことだ。幼い頃、何度も何度も読んだ僕の大好きな本だった。夢中になって本のラベルを見ていると、コンコンとドアが鳴った。
「ハイッ!」
驚きのあまり返事をする声が裏返った。
一拍おいて、扉が開かれる。
陽の光でキラキラと美しくなびくブロンドの髪の女性が、僕を見て微笑んだ。