ポチ(猫)
「ふぁ~、おはよーなぎ」
登校中、通学路で凪に会ったから声を掛ける。
……まぁ正直この時間に凪が登校するから私も会わせてるんだけどね。
「おー、おはよ。やけに眠そうだな」
「んー、ちょっと昨日あれからキャラクリだけしてね、気付いたら6時過ぎてた」
「おいおいそんな夜更かしして大丈夫なのかよ、夜更かしはお肌の天敵なんじゃねーの?」
そう冗談めかして凪が言う。
「うっさいなー、だって楽しみだったんだもん……」
「お前ゲーム好きすぎだろ」
「それもあるけど、ああいうの凪とやるの初めてだからさ」
「っ!? お、おう……」
あー、なに言ってんだろ私。ヤバい、死ぬほど恥ずかしい。
そんな感じでお互い(なんで凪も?)赤くなってると、いつものアイツが茶化しにやってきた。
「よっ! お2人さん、今日もお熱いね~」
「う、うっさい!」
「あはは! 怒った?」
「むー……」
コイツの名前は刈谷慎吾。
凪に幼馴染みで、なぜかこいつとはいろんな場所でよくあって、その度に私たちを茶化してくる。
ちなみに結構なオタクで、ムカツクことに私と話や趣味が会う。
「お、なんだ慎吾、また惨めになりにきたのか?」
「は、あいにく俺は2次元に嫁が沢山いるんでな、3次の女にゃ興味ねーぜ」
「はいはい自分への言い訳」
「なにおう! 1人だけリアルで彼女つくりやがって! こちとら年齢=彼女いない歴だってのに」
「いや16じゃ別にフツーだろ、安心しろって」
「お前に言われるとイヤミにしか聞こえねえんだよ」
こんな感じでコイツが来ると凪もこっちと話初めて私が手持ちぶさたになるのだ。
しかも慎吾のやつわかってやってんのかたまにこっち向いてニヤリとしてくるから死ぬほどハラタツ。
悔しいが凪は大分慎吾に心を開いていて、私といるときとはまた違った顔をコイツには見せる。
見とけよ慎吾、今回のゲームで凪をさらにメロメロにしてお前なんかに目もくれなくなるからな!
……はぁ、男子に嫉妬するとか自分でイヤになるなホント。
ちなみに慎吾、無駄にイケメンである。ハラタツ。
「じゃあまた昼休みにな」
「うん、またね」
誠に遺憾ながら私達はクラスが違うため教室前で離ればなれだ。
「それじゃ行きましょっか、お姫様?」
「……蹴るよ?」
「おーこわ」
し・か・も! なんでよりにもよってコイツと同じクラスなのさ!!
先生マジ許さねー。
「で、どーようちの凪君は」
「マジ最高、てかあんたのじゃないし」
「はっはっは、ぬかしおる。まだまだ凪は俺のだぜい」
「は? なに、ホモなの?」
「まっさかー、親友的な意味。ライクだよライク、ベリーベリーライク」
「あっそ」
「うわー反応うっすいナーまったく。そんなんじゃつまんない女だと思われちゃうよ?」
「ふっふっふ、まぁ勝手にそう思っててよ」
私にはゆるふわでかわいい面を凪に見せつけいつものカッコいい系な私とのギャップ萌えを起こす秘策があるんだから。
「お、なになに? 今度はなにすんの?」
「ひみつ~」
「けっちんぼー」
そんなこんなでやり取りをしてる間に教室に着いた。
しかし、そこで私はもう1つの悪夢を思い出す。
「そういえば昨日の席替えで隣慎吾になったんだった……」
「あはっ! ドンマイドンマイゆらちん、逆転の発想をするんだ」
てかなんでコイツこんな私に話しかけてくるんだろ、何、私のこと好きなの?
……そんなわけないよね、なくて欲しい。
どうせ凪が心配なんでしょうね、幼馴染みとして。
「そう、俺が隣ということは、より細かい凪の情報が入手し放題というわけだ!!」
「な、なんだってー!?」
なるほど、確かにそれは大きなメリットだ。
……ただしその提供元がコイツじゃねければな~、もっとよかったのにな~……はぁ。
きんこんかんこんとチャイムが鳴り、今日の授業がすべて終わったことを私たちに教えてくれる。
「ん~、よく寝た!」
「よく寝たじゃないわバカ、授業ぐらい真面目に受けろ」
「げ、先生」
「はぁ、ったく……」
今私にお説教をしてるのは担任のサキサキ先生こと笹木紗希。
サキサキ先生はちょr……優しいからなんだかんだ許してくれるから寝やすいんだよね。
「だって仕方ないじゃないですか先生……」
「ほう? 言い訳があるなら聞いてやろうじゃないか」
「昨日凪と今日から新しいゲームをする約束をしましてね? そんなの楽しみで夜寝れるわけないじゃないですか! だから不足した睡眠時間を……」
授業中に補うと言おうと思っていたらサキサキ先生に言葉を重ねられた。
「彼氏とゲームの約束……それが理由だとお前はいうんだな?」
「はい!」
これは正当な理由、そうに違いない。
「guiltyだ馬鹿者。そんなことで許されるわけがないだろ」
「そ、そんな……!?」
「はぁ、もういい。次から気を付けるように」
「イエスマム」
正直無理だと思うけど言わないでおこう。
私は空気が読めるからね、どこぞのバカと違って。
「お、なになに? また怒られてんの?」
「……慎吾」
でたどこぞのバカ。
「ばっかでー」
「うっさいやい」
うーむ、しかしこういう所も女子力不足の原因なのかな……
まぁ授業中に爆睡とか普通の女子はしないよね、うん。
……ハッ!? もしや今の私って、慎吾みたいなアホ男子と同レベルなんじゃ……考えるのはよそう。
「じゃ、私は凪のとこ行くから慎吾は1人寂しく下校してね」
「ちょ、ひどくなーい?」
「ひどくない」
もう、私も凪もこんなのより恋人といる方が幸せに決まって……いや凪なら違うかも、あの人親友っていえるぐらい仲良くなった男子数人のこと超大事にするから。
「それじゃあねアホ男子」
「けっ、わーったよバカ女」
そんなこんなでなんとか慎吾を振り切れた私は、ルンルン気分で凪のクラスに向かった。
え、なに? 私と慎吾も大概仲良く見えるって? いやいや何言ってんですかそんなわけないじゃないですかヤダー。
「なぎー、迎えに来たよー」
うーん、やっぱ他のクラスってなんか無性に緊張する。
「おー幽来。そんじゃなお前ら」
凪がそう言って話してた男子たちに挨拶すると、その人達も「おー」とか「じゃーなー」みたいに返してきた。
さっきのバカと違って流石このクラスの人達は空気が読める。さっきのバカと違って。
「うっし、それじゃいくか」
「ん」
途中雑談を交わしながら下校道を歩いていたが、やはりその話題は今日から始めるあのゲームに集中していた。
「でね、昨日あれからキャラクリだけやったんだけどさ」
「マジで!? あれから!?」
「う、うん」
「寝たの何時? それ」
「6時半」
「うわーマジか……そりゃ授業中寝るわ」
流石は凪、分かってくれた。
でも本当にこれ直さなきゃな……なんとか眠気を払う方法を考えないと。
「で、どんな感じだった?」
「んー、結構面白そうだったよ。最初の語りからして神ゲーの予感がする」
「百戦錬磨の1流ゲーマー『ゴースト』様からしても面白そうなんだ」
どこか皮肉るように、凪が言ってくる。
「もう、止めてよその言い方」
「ごめんごめん」
楽しそうに笑いながら謝る凪は、なんかもう超カッコよかったしかわいかった。
もう皮肉られて悔しかった気持ちも元からほとんどなかったとはいえ完全に吹き飛んだね。
あ、そういえば最初の国について話さなきゃ。
「そういえば凪」
「おー?」
「なんかゲームを始めるスタート地点みたいのがいくつかあって選べるみたいなんだけどどこにする?」
「ふむ、ちなみにどんなところがあんの?」
てことで私は昨日(今日?)あったことをちゃちゃっと凪に話した。
「へー、いろいろあんだな。ちなみにお前はどこがいいんだ?」
「私? 私は……まぁ普通の街かな~、うん」
街っていっても高層ビルが立ち並ぶとかじゃなくてファンタジー感あふれるとこだったし。
「ふーん、なら俺もそこでいいや」
「へ、いいの?」
「あぁ、お前が選んだなら間違いはないだろ」
そういって凪はニカッと笑った。
あぁもう私に彼氏最強すぎかよ。
「じゃ、またゲームで」
「おー、じゃあなー」
私の家の前に着いたので凪と別れ、家に入る。
ちなみにさっきの話は、結局その街に決まった。
「ただいまー」
まぁ親は2人共仕事だからいないんだけどね。
「ぽちー、帰ったぞー。どこだー」
私が飼ってる愛しのポチ(猫)。
ん? なんで猫なのにポチなんだって? そりゃあ……なんでだろ。
ま、まぁこういうのは気にしたら負けなんだよ、うん。
そんな感じで1人自問自答していると、ポチが返事をくれた。
「なー」
「おー! 会いたかったぞポチー!!」
ガバッと抱きつこうとするが、残念ながらするりと避けられてしまう。
避けたあとのこちらを見る目は、まるで「そんなことよりとっとと飯よこせやおら」と言っているようで、ふてぶてしくて超キュート。
はぁ、まったくこの子はツンデレな子猫ちゃんだぜ。
まぁもう子猫っていう年じゃないんだけどね。
これも俗に言う「かわいいは正義」ってやつだよ。もしくは私目線で「かわいいから許す」。
ポチにキャットフードと水を用意して数分愛でてから自分の部屋に入り、ゲームのスイッチを入れた。
……なんか異様に長かったな、ここまで。
3話にしていまだにゲーム始まってないっていう怪奇現象。