4.スカウト
怒られちゃう?私、何かしたのかな?
と内心すごくどきどきしながらそよかちゃんについて行きました。
途中で紅茶屋さんとカフェに寄りました。
紅茶屋さんではバニラの香りがする紅茶を買っていて、カフェではそれを淹れてもらってパンを頼んでいました。
紅茶はバニラの甘い香りとすっきりした味でしつこすぎずさっぱりしすぎずのバランスがあいまって、とても美味しかったです。
お昼の時間だったみたいで、頼んでいただいたパンはどきどきしていたこともあってあまり食べる気になれずにいました。
すると、そよかさんがなんだか重そうに見える口を開きました。
「ねえ、乙葉ちゃん?」
「は、はい…」
なんだろう…?
心臓がばくばく言いながら次の言葉を待って。
「私たちと一緒に、Raffineで働いてみない?」
働く?それって、
「ええと、私がRaffineでお洋服を売るってことですか?
私なんかが、良いんですか?」
怒られることでは無いことにほっとして、笑顔でそう言ってしまったかもしれません。
変な人だと思われていたら嫌だな…
「うん!さっき美樹さんと話しててね、乙葉ちゃんは、きっと服飾とかの才能があるんじゃないかなって。
どうどう?私たちと働かない?」
気づかれていないようでした。良かった~!
「でも、私なんかが………」
でも、私がそんな夢みたいなことをしても良いのでしょうか?
今まで物語の脇役だったような私が、こんな主役みたいなこと…
「私なんか、は駄目だよ乙葉ちゃん」
「え………?」
「やりたいって思うなら、そう言ってくれたら嬉しい。それだけのこと。ね?」
にこと爽やかな笑みを浮かべてそよかさんは言いました。
───でも私がそんなだいそれたこと……
そう考える私の脳裏にある記憶がふっと浮かびました。
それは、母が私に言ってくれた言葉。
『乙葉、自分の好きなことをやりなさい。
後悔しても、それは自分の糧になるから。』
いつも誰かの影に隠れていた私に、この街に出る勇気をくれた言葉。
だったら、私は………
「やります!Raffineで、働かせて下さい!」
そう言って勢い良く立ち上がると、そよかさんが私の服がコーディネートした服のままだったことに気がついてくれました。
そして、その着ていた服と小物、何品かの可愛い服をプレゼントしていただきました。
こんなに可愛い服を着られる日が、来るだなんて。
これからどうなるのか、とっても楽しみ。
♡♡♡
そして、Raffineで働くことが決まり今日はとっても濃い一日になりました。
夜になり、夕食の時間です。
私の歓迎会と称して、美樹さんが豪華な手料理を振る舞って下さいました。
ハンバーグやサラダ、スープや色とりどりのスイーツが並びます。
そのときに美樹さんやそよかさんと、他の方からの自己紹介も受けました。
全員で6人いて、私を含めると7人だそうです。
私も自己紹介。
「小鳥遊乙葉です。これからお世話になります
よろしくお願いします」
ぱちぱち、と歓迎の拍手を貰えました。
次に、はいはーい!と元気よくそよかさんが立ち上がって。
「瀬音そよかです!デザインの勉強をしています。
乙葉ちゃん、よろしくね!」
右目でウインクをばっちり決めて場を和やかにしてくれました。
次に美樹さんが綺麗な所作で立ち上がって、
「四葉美樹です。cloverの管理人と
Raffineの店長を兼任しています。よろしくね?」
問いかけてくるような「よろしくね?」と言われて、「は、はい」と私もその場で会釈。
次に、お昼ごろは居なかったシェアハウスの方たちがその場に立ちました。
「涼宮翔です。
大学で経済などを学んでいます。よろしく」
「神崎秋斗です!情報とスポーツを専攻しています
よろしくな!」
翔さんは明るくて話しやすそう。
秋斗さんは気さくな人柄で、双子の兄弟がいるそうです。と思っていると、最後の2人も帰ってきました。
「ただいま~、あ、新しい子?
私は高倉梓です。大学は文学科。よろしくね」
「神崎雪斗です
経済と情報を学ぶ学生です。
秋斗とは双子です。よろしくな。」
梓さんは清楚な美人さんで、声も綺麗な華やかな方。
雪斗さんは爽やかでかっこよくて、優しいそうな人柄です。
「よろしくお願いします!」
穏やかな歓迎会。みんなで美味しい料理を食べて、Raffineのことや、大学のことも話して、笑って。
Cloverにきて良かった、そう思えました。
私の大学は、音楽や美術が専門ですがスポーツや経済も有名です。
頭はもちろん全国で一番良いわけではないですが、この辺では良い方みたい。
いつもあまり喋らない夕食を過ごしていた私にとって、この時間は一瞬のようでした。
そして、温かいお風呂に浸かり。
「乙葉ちゃん、部屋着可愛いね」
「あ、梓さん、そんなこと、無いです」
お気に入りのもこもことしたうさぎっぽい部屋着。いくら春の暖かい日差しがあっても、夜は冷えます。
思い切り耳を赤くしながら言う私に、梓さんがふふっと笑って。
「お休みなさい」
消灯の時間になりました。
今日の日記はここでお終い。
これから毎日こんな素敵なことが
待っているなんてなんて素晴らしいのだろうと、私は期待に胸を膨らましていました。
こうして私の今はまだ知る由もない、
あたたかく優しい夢物語が始まったのでした。
ついに乙葉の生活もスタートします。
そして、Raffineで働くことになった
乙葉には何が待ち受けているのでしょうか?