ティアマト寮にて
「ようこそ!わが家へ。」
と、パメラがドアを開けフレデリカを招き入れる。
「寮に我が家は無いだろう。」
「ま、そこは気分よ、気分。」
王都に家がある者を除き、大抵の者は寮で生活している。
寮が出来た当初は振り分けで貴族も平民も混ぜ合わせて振り分けられていたのだが、半年もしない内に貴族の寮と平民の寮になってしまった。
それ以来、滅多なことでは貴族と平民は同じ寮になることはない。
ただし、ある寮を除いてである。
この寮、“テイアマト寮”は貴族と平民が混在する例外の寮である。
「以外に綺麗な寮だね。」
「きれい好きな奴がいるからな。」
といいつつパメラの方を見る。
「やぁね。住むところは綺麗な方が良いでしょ。」
「で、向かって右が男子寮、左が女子寮だ。」
「へぇ~。女子寮もあるんだ。」
冒険者ともなれば男女一緒に行動する事も多くなる。
その前段階として慣れてもらうことで、男女間のいざこざを少なくする考えである。
が、今一成功しているとは言えなかった。
「私もここの寮かな?」
「いや、多分“フェニックス”か“ユニコーン”の方だろう。」
「そうね。ここは訳アリが多いから・・・。」
この“ティアマト寮”は俺やパメラの様に問題のある生徒がこの寮に入れられるのだ。
フレデリカは回復系の呪文から考えると癒し手の多い“フェニックス”か“ユニコーン”寮になるのだ。
「さて、俺の部屋は・・・。」
「ほう。ヴィンフリート、私の目の前で女子を連れ込むとはいい度胸だ。」
(あ、こいつがいたんだ。)
“フリッツ・ファン・ストリーン”、ティアマト男子寮の寮長、融通が利かない超堅物。
当然のことながら男女交際にはとてもうるさい。
「彼女はフレデリカ。俺の幼馴染で今年の新入生、妹みたいなものだ。
内々で祝おうと思ってね。」
「幼馴染か・・・妹みたいと言っても“男女七歳にして席を同じにせず”とも言うぞ。」
(その用法は間違っているんだが・・・。)
「あと、身内の事で相談事があるんだ。」
「相談事?身内の事じゃ私では力になれないな。仕方あるまい。」
実際、フリッツは寮生の相談事にはよく乗ってやる良い奴なのだが堅物なのが玉に瑕なのだ。
「あと、歓迎会をやるのなら食堂にそれらしい料理があるから持っていくがいい。」
「そうか、助かる。」
パーティ用の料理を幾つか見繕い部屋に戻る。
「とりあえずは、入学おめでとうフレデリカ。」
「ありがとう。」
「さて、とりあえず食事をしながら話を聞いてくれ。」
とは言ったものの、どう話すべきか・・・。
流石に転生の事は今は話せないだろう。
「取り敢えず。スキルについてだが。
“ライブラリー”と“EXP追加補正”だ。」
「“EXP追加補正”?確か持ってるとスキルのレベルが上がりやすくなるユニークスキルだったかしら?」
パメラは意外にスキルについてある程度は知っているようだ。
「で、もう一つの“ライブラリー”って?」
フレデリカが尋ねてくる
「遺失文字で“図書館”もしくは“蔵書”って意味ね。どんな効果なの?」
流石にパメラでもスキルの能力までは知らない様だ。
「過去に読んだ書籍などの内容を記憶しておくことが出来る。」
「すごーい。あれでも覚えられる数は少ないのかな?
昔、覚えてないことがあったし・・・。」
「聞く感じじゃ、内密にするほど不味いスキルでも無いようなのだけど、レベルは?」
「“EXP追加補正”はLv7、“ライブラリー”は・・・」
「「“ライブラリー”は?」」
意を決して俺は言う。
「Lv∞。覚えておける数に制限はない。」
「「え、えぇええええええ???」」
フレデリカは慌てて
「でも、確か昔、本の内容を覚えていなかったことが??」
と尋ねてくる。
「それに関しては詳しいことは今に話せない。が、確かにそうなっている。」
「今は?」
「ああ、それに関してどんな影響があるか判らないからね。」
「判った。それ以上、今は聞かない。」
フレデリカはとりあえずはあきらめたようだ。
「でも確かに問題ねぇ。」
パメラがそう言うとフレデリカは
「?何か問題があるのですか?」
「だってそうでしょ。読んだけで覚えておけるのなら秘蔵の図書はまず見ることは出来ないわよ。」
「あ!」
このスキルを持っているという事は秘蔵の図書の価値を下げることになる。
秘蔵の図書は物が少ないから秘蔵なのだ。
しかし、冒険に必要なヒントは秘蔵の図書に隠されていることが多い。
それが見れないという事は冒険者としてペナルティを負ったのと同じことなのだ。
「これは秘密にするしかないわね。」
逆に秘密にすることで冒険者としての利点は大きい。
かくして、俺のスキルはこの二人以外は秘密という事になった。
それと同時にフレデリカのパーティ加入が正式な物となったのだった。