スキル鑑定
王都から遠い(馬車で一月はかかる)辺境の村、ケレス。
村の傍には魔獣が出る深い森や山がある為、冒険者ギルドの支部や小規模ながらの神殿がある。
普通、支部や神殿は町にしかない。
この村は魔獣が出る森に近いこともあり冒険者が多くやって来る。
冒険者のサポートの為に支部や神殿がこの村にあるのだ。
この国では十歳になると神殿でスキルやステータスの鑑定を行ってもらう。
スキルには大工、鍛冶、裁縫など、冒険と直接関係のないスキルがある。
そのため、国が鑑定を推奨しているのだが大半は鑑定を行わない。
小作人には必要ないという考えと神殿の無い村は神殿のある町まで出向必要があるためだ。
この村に神殿があったことは暮らす者にとって僥倖と言えた。
ここでスキルについてもう少し解説すると、
魔法の系統や武器を扱う武術スキルにはレベルがあり、スキルを使うことでレベルが上がる。
スキルはそれぞれに対応した技がある。
技は初級それもごく初歩ならばスキルが無くても使用可能だが、それ以外の技は一定以上のスキルレベルを必要とする。
その為、スキル無しで使うことは出来ない。
また、スキル構成によって統合スキルが付くことがある。
魔法の系統スキルと武術スキルがあった場合、魔法戦士のスキルが付く。
この場合の統合スキルのレベルは統合スキル内のスキルの最低レベルになる。
俺の家は代々冒険者としてそれなりに活動してきた家系だ。
祖父は爆炎魔法使いで、祖母は神弓士。
母親は聖拳士、父親は氷剣士。
隣に住む叔父さん夫婦は斥候と軽戦士。
純然たる冒険者一家だった。
「僕もじいちゃん、ばあちゃん みたいに冒険者になれるかな?」
「おいおい、ヴィン。“父さんはみたい“と言ってくれないのかい?」
「父さん母さんも入っているよ。」
十歳になるまで俺は冒険者になることに疑いを持っていなかった。
近所の人や友達も同様だった。
そしてスキル鑑定の日がやって来た。
十歳になった者はその月の初めにスキルの鑑定を行う。
鑑定は神殿にある水晶球で行う。
手を翳すことでスキルが書かれた紙が出る魔法道具である。
他にもステータスの魔法を教える効果もある。
この魔法道具は何故か十歳になる前に鑑定を行ってもうまくいかない。
当初は“十歳になるとスキルが与えられるから”と考えられたが、それだと十歳以前に魔法が使える者がいる説明にならない。
結局、十歳にならないと水晶球で判定できないという事になった。
俺の誕生日は一月七日。
そして二月一日の今日、ようやくスキル鑑定を行うのだ。
「では、皆さん今からスキルの鑑定を行います。」
「「「「「はーい。」」」」」
皆さんと言っても俺を含めて五人だがこれでも多い方だ。
と言うのも、一月一日は新年でスキル鑑定の日が翌月に延びた為なのだ。
そして、参加者のほとんどが冒険者志望である。
神殿は小規模な為、スキル鑑定は簡易の物だ。
祭壇には一抱えもある水晶球が置いている。
その水晶球の前でオークのクワベウとエルフのエレルミア、コボルトのチットがスキルの書かれた紙を見て騒いでいる。
スキル鑑定の時によくみられる光景だ。
俺の番になり水晶球に手を翳す。
スキルの書かれた紙を見る。
「魔法戦士、万色魔法、武術全般、騎乗、高速詠唱、無音発動、???、???」
「司祭様、この???ていうのは何のスキルですか?」
「ふむ?どれどれ、ヴィン君は魔法戦士・・・。」
司祭様はスキルが書かれた紙を見て黙ってしまった。
「あの?」
「あ、いや、この???だったね。これは特殊スキルでここでは鑑定できない物なんだよ。」
「特殊スキル?」
「特別な能力を持つものが王都の魔法ギルドか大神殿でしか判定できないだろうね。」
「ふーん」
「ヴィン君。」
「?」
「スキルが書かれた紙は家の人に見せてよく相談するんだよ・・・。」
「?はい?」
司祭様の言葉に疑問を覚えながらも帰路につく。
この時、帰宅時にスキルの紙を見せた時に騒動が起こるとは思ってもいなかった。
「ぶひゃー。おれは斧戦士、斧術、伐採、植物知識、大工のスキルだ。」
オークのクワベウはスキルが書かれた紙を見ながら騒いでいる。
かれは典型的な斧戦士のスキル構成だった。
クワベウは斧戦士に追加して大工スキルがある為、引退しても大工で生活できる安定したスキル構成だ。
「私は会計士・・・算術、簿記、ギルドの職員ね。尋問とかなんでしょう・・・はぁ。」
エルフのエレルミアでも冒険者になれない事は無いのだがやめた方が良いスキル構成である。
そのエレルミアが次に鑑定してもらったコボルトのチットのスキルが書かれた紙を覗いている。
「祈祷師、紫魔法、緑魔法、橙魔法、高速詠唱、必要精神力低減、・・・冒険者向けじゃない!」
「はぁぁぁぁ。冒険者になる気は無いのにぃ。」
コボルトは手先が器用で基本的に裁縫や細工師が多い。
冒険者になる者は少ないのだ。
「世の中不公平だわ・・・。」