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クラスメート

作者: 砂場遊美

地元に帰るのは随分久しぶりのことだ。

高校を卒業し、大学へ進学するのを機に一人暮らしを始めた。一人暮らしした先で就職をしたこともあり、なかなか地元には帰ってこれないのだ。

最後にここに来たのは成人式以来かもしれない。

見慣れた懐かしい駅を出て、実家への道を歩く。

変わっているものもあれば、変わっていないものもある。懐かしさで胸がいっぱいになっていると、ふと小学生の時のことを思い出した。


「××はクラスメートなんだぞ。仲間外れになんかせずに遊んでやるのが人情だ。わかったな。」


当時の担任は何かのドラマに影響されたかのような暑苦しい教師だった。確か3年生か4年生の時のことだ。そのクラスには有名なあるクラスメートがいた。

有名というのは運動神経がいいとか、お金持ちとか、そういうポジティブな意味ではない。

あまり関わりたくないという意味で有名だったのだ。


そいつは常にニヤニヤしており、どこか薄気味悪い奴だったのを覚えている。

1週間毎日同じ服を着て登校し、姉のお下がりだという女子用のランドセルを持ってきていたせいもあり、クラスでは浮いた存在だった。

流行りのものにも疎く、休み時間の遊びにも混ざらなかったのもあり、あるガキ大将的な男子のイジメの標的になってしまった。


「××、お前気持ち悪いんだよ。」


そう言われてもそいつは相変わらずヘラヘラしていた。休み時間には決まって得体の知れない絵を描いていて、ガキ大将にそれを取り上げられ目の前でビリビリに破かれた。


「俺とプロレスしようぜ。」


ガキ大将がそう言うと、××はいつものヘラヘラした表情から一転、鬼のような形相になり、訳のわからないことを叫びながらガキ大将めがけて座っていた椅子を投げ始めた。更に教室の後ろにある花瓶や教科書、図工用の道具などありとあらゆる道具でガキ大将をボコボコにし始めたのだ。ガキ大将だけでなく周囲もあまりの怖さに動くことができなかった。

騒ぎを聞きつけた担任が事情を聞き、クラス会議を経て上記の話をしたのだ。

そしてある恐ろしい提案をし始めた。


「そうだ!××のことがよくわからないからみんな怖がるんだ。××のことをもっと知れば仲良くなれる‼︎そうだ、そうに違いない。我ながらナイスアイディアだ、委員長から出席番号順に毎日××と放課後遊ぶそうにしよう‼︎うーん、やはり俺は天才だな!」


クラスメートの顔はみるみるうちにこわばっていったが担任にはまるで見えていなかった。××はニヤニヤしながら委員長をじっと見ていた。

結局その日から××との仲良し大作戦(命名はもちろん担任)が始まり、委員長が早速××の家へ遊びに行った。


だが次の日委員長は学校に来なかった。

親同士が仲のいい委員長の友達の話によると××の家から帰ってきてから様子がおかしいという。

その次の日も、前日に××の家で遊んだクラスメートが学校に来なかった。次の日も、そのまた次の日も…


相変わらず××はニヤニヤしながら得体の知れない絵を描いている。そうこうしているうちに××と遊ぶ順番が自分に回ってきた。


「××との仲良し大作戦は下校からスタートするんだ‼︎2人で一緒に××の家へ行くように‼︎」


担任を呪いたい気持ちでいっぱいだった。××は1週間同じ服を着ているせいもあり、かなり臭かった。

なるべく顔を合わさないようにしていると、突然××が俺に話しかけてきた。


「委員長っていい匂いするんだよ。僕知ってるんだ。この前一緒に遊んだ時、大人しかしちゃいけないことしたんだ。」


その時は××が何を言っているのかよくわからなかった。わからなかっただけに余計不気味だった。


「……何をしたの?」


「秘密だよ。簡単に教えちゃあ面白くないじゃないか。」


家に着くまでの間、××はずっと不気味な話を続けていた。××は歯も磨いていないのか喋るたび鼻をつく臭いが漂ってきた。

××の家は学校からかなり離れた市営団地だった。

本当はその団地は学区外で、違う小学校の生徒たちが住んでいる。家からも学校からも離れたところで、不安に押しつぶされそうだった。


「そうだ、君にいいものを見せてあげよう。」


そういうとおもむろに××は自分を団地の外れに連れて行った。××の目はギラギラして、より一層不気味だった。

連れていかれた先には瀕死の子猫がいた。

だけど俺はそれを見て思わず泣きそうになった。

子猫は歩けない状態にされ、ダンボールに詰められていたのだ。それだけではない。そのダンボールには大量の蟻も一緒におり、弱った子猫の体を這いずり回っていた。


「この猫はこれから蟻の餌になるんだ。」


××は興奮していた。


「どうしてこんな酷いことするんだ⁉︎病院に連れて行こうよ‼︎」


俺は必死に××に詰め寄った。だが××はダンボールにいた子猫を鷲掴みにして、俺に投げてきた。


「うわあ‼︎」


思わず後ずさり転んだ。猫と一緒に蟻も服に付いた。

怖くて正気ではいられなくなりそうだ。


「君がしているのは蟻への差別さ。この世の生き物はみな平等なんだ。それを君はかわいそうってだけで猫の味方をした。」


震える俺を尻目に××はダンボールから出た蟻を一匹残らず踏み潰した。その時の××はとても楽しそうだった。


「さあ、僕の家へ行こう。そうだその前に、今ので君、怪我をしたね。」


その後、××が俺にしたことは思い出したくもない。実を言うと覚えてもいない。恥ずかしい話トラウマなのだ。


「いらっしゃい。ゆっくりしてよ。」


「………お邪魔します。」


玄関に入った瞬間猛烈な悪臭が鼻をついた。

給食が全部出てきそうだ。ふと前を見ると廊下にうず高くゴミ袋が積まれている。生ゴミなのだろう。ハエがたかっている。


「こっちが僕の部屋。」


吐きそうになるのを堪え、××の部屋に入った瞬間俺はとうとう泣き出してしまった。××は人形が好きらしく、部屋の至る所に人形があったのだが、その人形は皆、目がくり抜かれ、手足はもぎ取られていた。

さらに部屋の壁や天井に見たこともない人の写真や電話番号を書いた紙がびっしりと貼られていた。

中には俺の写真や電話番号もあった。


「何して遊ぼうか?そうだ、遊ぶ前にお客様にお茶菓子を出さなきゃ。おばあちゃーん」


××が呼ぶと不気味な老婆がお盆を持って部屋は入ってきた。老婆は左右の目の焦点があっておらず、腰は曲がり、顔もひどく歪んでいる。


「四丁目の飯島は阿婆擦れだから気をつけなきゃダメだよ。あいつは人間の屑だ。あいつは××をたぶらかした。天罰が下る、天罰が下る。」


コップには細かい汚れが浮いた水と得体の知れない食べ物があった。いろいろなものを混ぜ合わせたような見たこともない食べ物だ。


「家のフルコースさ。遠慮しないで食べてよ。」


「これ、何?」


「いいから食べてよ。」


俺はそれを食べた。ひどく生臭い。おまけにいろいろの味がして気持ち悪い。水もぬるく、余計に気持ち悪さが増していく。


「その水は昨日のお風呂の残り湯なんだ、それとその食べ物はね、おばあちゃんのスペシャルミックス‼︎おばあちゃんは子供思いだから食べ物を自分で毒味して、それを口から出したものをお茶菓子として出してるんだ。」


それを聞いた瞬間俺は泣きながら団地を飛び出した。どう帰ったかわからない。親が言うには支離滅裂なことをずっと口走っていたらしい。

それから少しして××は転校した。どこへ行ったかもわからない。


そういえばそんなこともあったなあ、とんでもない体験をしたなと思い返す。実家が見えてきた。生まれ育った家。

だが家の前に誰かいる。子供のようだ。

近づくと俺は足を止めた。見覚えのある姿。姉からのお下がりだという女子用のランドセルを背負ってそいつはいた。

そいつはこちらに気づくとゆっくりと歩いてきた。ニヤニヤした顔で、両手足がない人形を持ちながら。

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