9話 能力と緊急事態
前の状態からほぼ変更しております。メインキャラはかわらず、静久の身長が下がったくらいです。
まだ読み直していない方は、お手数ですが一話から時間がある時に読んでいただけると幸いです。大分、変えたつまりですので、申し訳ございません。合宿の話が出ている場合は変更ありません。
主な変更点
迷宮も洞窟・Gからフィールド、花と虫、巨人という感じになっております。
自衛隊に関しては尋ねるのではなく、迷宮の探索者を育てる試験の人として参加しています。
迷宮で泊まる事、一週間。毎日がサバイバル実習と体力作りだった。特に食事を得るために狩りをしなければならないので苦労した。お蔭で解体の仕方とかをしっかりと覚えられた。
銃器の扱いはもちろん、構造もある程度は覚えられたのは大きい。それに人数が少ない上に結衣はあまり食べないので、食料の確保が簡単だった。まあ、別の問題もあるのだが。
「……はぁ……はぁ……」
「大丈夫か?」
「し、しぬぅ~」
結衣の荷物を持っていても、体力的にきつい。だから、何時もの通りに彼女を肩車して進む。
「敵は頼むぞ」
「ん、任せて」
両手が荷物で塞がるので、出て来る魔物は倒して貰う。
「ば~ん、ば~ん」
P90TRが火を吹き、的確にゴブリンを撃ち殺していく。たまに鳥も落として食料にしていく。この辺りの敵なら、間引かれているので比較的簡単に倒せる。他の人達も最初はしんどそうだったが、この頃は問題なくルートを完走できるようになっている。
※※※
野営地に到着すれば手に入れた食材を調理する。食事が終れば少し休憩してから訓練に入る。だが、本日は違う。というのも、座学があるからだ。集合場所に椅子が用意されているので、座って待つ。
「皆さん集合しましたね。では、これから探索チームについて説明します」
持ち運び用のホワイトボードにアタッカー、ディフェンダー、サポーターと書かれていく。
「ここに書いてある通り、基本的にはスリーマンセル。三人一組で組むのが効率的には美味しいです。しかし、これにはそれぞれ負担が大きいのでだいたい五人から六人くらいが最初はいいでしょう」
三人か。しかし、俺達は二人なんだよな。
「では、それぞれの説明に入ります。アタッカーはその名の通り攻撃をメインにする人です。倒さなければ話になりませんから、重要な役割です」
何時までも耐えれる訳もないし、何より敵に増援が来る場合があるしな。
「続いて、ディフェンダー。こちらは防御を担当します。具体的にいうと遅滞戦闘などですね。囮になったりして、注意を引きつけている間に倒して貰うのが基本です。味方と敵の行動を把握し、守らねばならない重要な役目です。まあ、簡単に言えば牽制を行って魔物を近づけないようにする仕事ですね。ディフェンダーが拙ければ前線が簡単に決壊しますので気を付けるように」
しっかりと回りを見て、敵を引きつけないといけないんだな。そうする事で、アタッカーが動きやすくするのだろう。この辺はゲームとほぼ同じだな。
「サポーターは様々なタイプがあります。得られる能力によって、回復や支援はもちろん、敵の位置の把握や変わり種だと鍛冶師とかありました。装備を強化する能力です。色々な種類の能力があてはまりますので、一番数が多いのがサポーターです」
確かに種類は豊富そうだ。錬金術師はサポーターになるんだろうな。しかし、俺と結衣だけだとどうなるんだろうか。
「さて、皆さんのお待ちかねの能力を得る手段ですが、これはこのテストをクリアしてからとなります」
そう言って、出されたのはテスト用紙だった。
「制限時間は一時間。内容は今まで体験した物とこの冊子からでます。合格ラインは九割です」
配られていくテスト用紙には問題が百問もあった。これは難問だ。しかし、記憶力も強化されているのか、比較的簡単に解けそうだ。
「結衣、大丈夫そうか?」
「ん、平気……多分」
「なら、互いに頑張ろう」
「ん」
テストの問題は魔物の生態から弱点。解体方法に素材となる場所など様々な事が要求される。しかし、どれも必要な事だ。どれ一つとっても、下手したら命に係わる事だからだ。
※※※
テストが終わると、直ぐに結衣と答え合わせを行っていく。しかし、ミスがあった。何点になるかはわからない。
「テストを返します。合格者は夜まで待機してもらいます。それ以外の人は勉強してください。一時間毎にテストへ参加できますので、合格点まで頑張ってください」
返却されたテストを見ると、得点は87点。かなり惜しかった。かなりくやしい。
「ぶい」
「お、出来たのか?」
「ん、93点」
「そうか、よく頑張ったな」
「ん」
撫でると気持ち良さそうにする。俺も負けていられない。
「別の所で休憩していてもいいぞ。俺は勉強するからな」
「平気。手伝う」
「ああ、ありがとう」
「ん、パートナーだし、当然」
勉強をしっかりして、次のテストに挑む。問題が変わっていないので、次のテストでしっかりと92点が取れた。
「さて、ご飯にするか」
「ん、狩り」
「そうだな。食料確保が先か」
二人で森へ入って、獲物を探す。既に慣れたもので狩りも出来るようになった。最初は解体すらままならなかったが。
食事を取ってから眠り、集合時間になったので広場に集まった。リタイアした人は一人か二人みたいだ。
「さて、ここに居るメンバーが合格です。これから移動しますが、暗視ゴーグルはいりません。移動しますのでしっかりと付いて来てください」
連れていかれた場所は水晶の有る所だった。
「この水晶の場所に午前零時丁度に祭壇が出現します。そこで、欲しい能力が書かれた物や道具などを捧げると、それに似た能力やそれそのものの能力が貰えます。ただし、一人一つしか能力は貰えません。また、能力を貰ったら祭壇に捧げる事もできません。なので、気に喰わなければもう一度捧げてください。捧げるのは一日に二度までです。それと、出て来た物は他人の物でも使えますので、交換が可能です。交換可能リストは持っていますので、私に言うか、そちらで好きに交換してください。ただし、この祭壇が出現する時間は約一時間のみです。こんな話をしていると、もうすぐ時間ですね。では、並んでください。一人一回は確実にいけます」
俺達も列に並ぶ。
「使用方法は出て来る勾玉を飲み込む事です。水もオブラートも用意してあるので頑張ってください」
使う方法はなんというか、微妙だ。
「楽しみ」
「そうだな」
結衣も楽しそうだが、俺もわくわくしている。速く列が進まねえかな。
「なあ、お二人さんは何にするんだ?」
「俺は錬金術だな」
「しぶいねえ。俺はやっぱ魔法だな」
「俺も」
「俺は剣かな」
「銃だろ。そっちのお嬢ちゃんは?」
「ん、わかんない」
「まあ、それはそうだな!」
「出てからのお楽しみだからな」
まあ、運がいい方ではないので当たらないだろう。なんせ、俺の運は静久という最愛の妻に出会えて既に使い切っているだろうから。
「あ、動いた」
「お、お先」
人数もそこまで多くないので、直ぐに俺達の番が来た。
「じゃあ、どっちからいく?」
「ん、後でいい」
「わかった」
まずはアトリエシリーズ第一作目を祭壇に置いて捧げる。すると、置いた物が光となって消え、次に祭壇が光り輝いていく。
「おや、これはレアが出そうですね。出る確率は倒して溜めた経験値に比例するの、頑張ったんですね」
「はい」
出た勾玉は銀色だった。そこにはメニューと書かれていた。なんだか、レアそうだが狙った物じゃない。無念。
「どうしますか?」
「狙った物じゃないんで、使いません」
「では、こちらに引き渡しを……」
「いえ、それはまだ考えます」
「わかりました。では、次の人」
「ん!」
結衣が置いたのはあるロボットのアニメの物。出て来たのは緑色の勾玉で、騎兵と書かれた物だった。
「いらない」
「ロボットが欲しかったのか?」
「ん」
流石にそれは無理だろうと、四ノ宮さんを見ると手を振って、無いと答える。
「まあ、今日は二回までいけるんだ。並ぶか」
「ん」
二回目は俺が、今度は金色で元素魔法となっていた。これ、やっぱ倒した物が関係あるのか。
「それ、譲っては……」
「流石に考えます」
「ですよね。しかし、ちょっとお話が……」
「後でお願いします」
二回目の結衣だ。今度は未来の電子世界の小説を選択したようだ。出て来たのは赤で、電子魔法使いという物だった。
「これ、迷宮で使えるのか?」
「無理ですね。ですが、現実の世界ではとても使えます。自衛隊で高価買取いたします。使わないなら、強制で」
「ですよねー」
危険すぎる代物だろう。たぶん、あの世界のウィザード級ハッカーとかになれるという事は、今の時代なら余裕って事だろう。
「さて、俺はどれも使わないから、どうする?」
「ん~これ、説明、みたい」
「ああ、それでしたら勾玉を頭にあてれば浮かんできますよ。それで使用方法も判明しましたからね」
「なるほど」
結衣に四つを渡して、調べて貰う。俺は興味ないし、どうせ狙いは錬金術のみだ。
「ん、んんっ⁉」
「どうした?」
「こ、れ、選ぶ!」
「そうか」
結衣は銀色のメニューというのを選んだ。さっそく、一生懸命に飲み込んでいく……いや、噛み砕いて水で飲みやがった。まあ、いいんだろうけど。
「けぷっ。これでいい?」
「ええ、少しまってください。少し苦しくなりますけど」
「んっ……んぐぅっ⁉ あ、頭が、痛い……」
「これは」
急いで結衣を抱きしめて撫でていく。
「能力を得る時に起こる事です。レアなほど苦しいですが、問題ありませんよ。それぐらいで音をあげるなら、訓練に耐えれません」
「ん。へい、き……」
「ならいいが……」
「なで、て……」
「わかった」
撫でながら少し待つと、少し顔色は悪そうだが、もう大丈夫なようだ。四ノ宮さんはその間に他の所に行っていた。後で買い取り交渉にくるそうだ。
「それで、メニューでよかったのか?」
「ん、これ、最高」
「そうなのか?」
「ん。めにゅー、おーぷん」
何が起きたかはわからないが、俺には何もみえない。
「すてーたす、すきる」
本来なら、頭が……ていうんだろうが、これがこの子の能力なのだから、なにかあるのだろう。
「兄さん、勾玉、ちょーだい」
「ああ、いいぞ」
元素魔法と電子魔法使いを渡す。それを虚空に向かって投げやがった。それらは一瞬で消えた。慌てて探すと、何もない。
「てれれって~」
「おい」
「結衣は元素魔法、れべる1が習得可能になった。結衣は電子魔法使い、れべる1が習得可能になった」
「待てやこら!」
もしかして、やっぱりメニューってあのメニューか。それにスキル習得が可能だと?
「どうしました?」
「ええっと、実は……」
四ノ宮さんにメニューの事を説明する。
「なるほど。使う事自体はできないのですか?」
「ぽいんと、たりない」
「ポイントの習得方法は?」
「魔石、消費」
「なるほど。では、ちょっと実験しましょう。直に持ってこさせます」
他の人もこちらをみている。そんな中、目の前に突風が吹いたと思ったら、次の瞬間には女性が居た。
「近藤特急です! ご要望の品をお持ちしました!」
「はい、ありがとうございます。では、こちらがゴブリンの物です」
「ん」
結衣が魔石を持って、何かに入れるようにすると、魔石が消えた。
「ん、アイテム。ゴブリンの魔石」
「もしかして、アイテムボックスつき?」
「ん」
「アイテムボックス?」
「知らないんですか? ゲームとかアニメでいう四次元バックですよ」
「大変便利じゃないですか」
「そうですよ。これだけでも勝ち組ですよね~」
「でしょうね」
「ポイントはどうです? というか、見えるようにできませんか?」
「ん。できるみたい。でも、ダメ」
「なぜですか?」
「えっち」
……その言葉でだいたい理解できた。
「どういう事ですか?」
「あれですよ。たぶん、プロフィールが詳しく、それこそスリーサイズまで色々とのってるんじゃないですか」
「ああ、それはすいません。では、近藤さんにだけ見えるようにしてお願いできますか?」
「ん、それなら、いい」
「では、お願いします」
「了解。じゃあ、こっちでやろうか。テントも立てちゃう」
「ん」
それから少しして、テントに入った結衣が出てくる。
「ゴブリン、0.1ポイント。オーク2ポイント、コボルト0.2、鳥0.3」
「鬼は5ポイントでしたね。で、金色の元素魔法は必要ポイント1000ですから、鬼200体分ですね」
「鬼ですか……」
「強いんですか?」
「ええ。戦車砲を受け止めます」
「それは強いですね」
「ところで、電子の方はどうでした?」
「あちらは100でした」
「では、そちらを覚えて貰いましょう。それから、お仕事を依頼します」
「仕事?」
「ええ、鬱陶しい連中の一掃です」
「ん、わかった」
「報酬は?」
「必要な魔石と、そうですね。上に掛け合わないとわかりませんが、100万くらいはだしますよ」
「やる」
「それぐらいならいいか」
「では、そのように。皆さん、メニューが出たら買い取りますから、言ってください」
その後、俺と結衣はテントに戻る。結衣は貰った魔石をせっせと入れていた。それから少しゆっくりとしていると、突如として警報が鳴り響いた。
「っ⁉」
「なんだこれ?」
直ぐにアナウンスが流れて来た。
『緊急連絡、緊急連絡。○市▽地区にある迷宮にて氾濫が発生。封鎖を破って魔物が市内に出た模様。現時点をもって、特別警報を発令。直ちに現場に急行せよ。繰り返す……別地区の迷宮の反乱も確認。直ちに急行せよ』
どうやら、とんでもない事態のようだ。結構近い場所だ。静久達が心配だ。
「結衣?」
「……まずい。これ」
結衣が見せてくれたのは、メニュー画面にある地図のようで、日本の地図が表示されている画面だった。俺達がいる都道府県の全域が赤い円によって囲まれ、魔物氾濫中と書かれていた。しかも、各地の迷宮の名前もあり、拡大すると俺の家の場所もあった。
「四ノ宮さん! 近藤さん!」
慌てて外に出て、叫ぶ。
「はい、どうしました?」
「相談したい事があります。中に」
「わかりました」
画面を見て貰い、俺の要求を伝える。
「家に帰らせて貰います」
「わかりました。手配します。ただし、彼女は置いていってください」
「やだ。一緒」
「ですが、困るんですよね。その力、かなり使えるので」
「絶対や。協力しない」
「これ、かなりの危機なんですが……時間もないですし、仕方ないですね。近藤さん!」
四ノ宮さんが叫ぶと、一瞬で風が吹いて彼女は現れていた。しかも、その後ろには数人の自衛隊の人がいる。
「ここに~」
「貴女の部隊で私と彼女達を護衛しなさい」
「優先順位はどうしますか~?」
「彼女が最優先です。必要な措置は全てこちらでとりますが、いざとなれば見捨てて彼女だけは命に代えても守ってください」
「りょ~かい」
「あの?」
「少し待ってください。車を……面倒ですねヘリで行きましょう。ほら、準備してください」
「わ、わかりました」
「ん」
「近藤さん達もフル装備で」
「りょ~かい」
俺達が準備している間に四ノ宮さんは、上司に連絡を取っていく。
「特例措置という事で認めてください。こういう時こそ、使える物はなんでも使うべきです」
ぶちっと携帯の連絡を切った四ノ宮さん。
「さあさあ、いきましょうか。鬱陶しい政治家の相手はお偉方に任せて、我等は自衛隊の役目である、市民を守りにいきますよ」
「いえっさー!」
「「「はっ」」」
瞬く間に準備がすすみ、俺達はヘリに乗り込まされ、飛んでいく。軍用ヘリの中には多数の機材があった。
「さて、森谷さん。ここから色々とお願いしたいのですが、能力は使えますか?」
「ん、問題ない」
「では、地図を開けながら電子魔法使いの力を使う、と思ってパソコンに触れてください」
「ん。おぉっ、凄い」
何か、結衣の瞳が虚ろになって、ここではないどこか別の所を見ている。
「では、少ないモニターですが、市街地の監視カメラの映像を取る事は出来ますか?」
「ん、出来た」
「では、敵の位置の情報を出来る限りこの部隊に送ってください。割り当ては……」
「問題ない、効率的に、殲滅」
「よろしい。こちら、新選組指揮官。対象の位置データを送る。狙撃を開始してくれ」
『アーチャーチーム了解』
なんか、凄い事になっている。画面に映る赤い光点が次々と消滅していっている。
『こちら、対策本部。許可を取った。ありとあらゆる手段を取っていい。データを全てこちらに送ってくれ。大隊の指揮はこちらで取る。姫さんを突撃させろ』
「了解。近藤さん、いってください。とりあえず、迷宮に突っ込んで暴れてきていいですよ」
「護衛はどうしますか~?」
「貴女の部隊で問題ありませんので、どうぞ行ってきてください」
「おっけ~」
近藤さんは空を飛んでいる中、扉を開けて飛び降りやがって。即座に衝撃波が届いて、見えなくなった。
「だ、大丈夫なんですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。加速して、空気の壁を蹴るような化け物ですから。護衛という意味なら、彼等も近藤さんほどではないですが、かなりの手練れですから」
「あの人は例外ですけどね」
「ん、おかしい」
地図画面にあった光点が阿保みたいな速度で消えていっている。モニターに映る監視カメラにソニックムーブのようなものすら、発生させて魔物を吹き飛ばして蹴散らしている。
「彼女は人名救助には向きませんけど、戦力としては自衛隊の中でもトップクラスですからね。それに、他の部隊も優秀ですから」
「でも、問題ある。氾濫する数が多い。連鎖してる」
「ちっ、やはり封鎖は間違いでしたか」
そんな話をしながら、進んでいくと見覚え有る土地になってきた。
「まもなく、上空です。で、降りる方法は何時もの方法で?」
「ええ、お願いします。」
「ラジャー」
「さて、皆さん。お願いしますね」
「了解です」
俺達は護衛の人達に掴まれて、しっかりとロープで固定される。まさか、と思うまもなくヘリから飛び降りていく。ちゃんとロープはあるので、伝って降りていくだけだが、やばいくらい速度が出ている。
問題なく地上に到着して、一息をつく。四ノ宮さん達も結衣も無事に降りられたようだ。
「ああ、すいません。柊さんの家を使わせてください」
「ええ、構いませんが……下に迷宮がありますよ」
「まあ、なんとかなるでしょう」
「わかりました」
「お爺ちゃんたち、連れてくる」
「迎えにいってください」
「わかりました」
家の鍵を開けて、急いで入る。
「静久、どこだ!」
返事はない。慌てて地下へと進む。何人かの人がついてきてくれる。地下から迷宮の入口を入って、急いで進んでいく。視界が開けた場所は、一面真っ赤な世界だった。高台は多数の血で汚れ、土竜や蜂の死体が散乱して、投石器も破壊されている。
「静久ぅぅぅっ!!」
「先輩?」
声がした方を向くと、血塗れでナイフを持った静久が立っていた。回りには前よりもさらに大きくなり、口に蜂を咥えているヴォルフと、死体の山の上に座っているセラが居た。その奥は炎が燃え上がり、さながら地獄のようだ。
「だ、大丈夫か?」
「はい、大丈夫ですよ。これは返り血ですから」
服の裾で顔を拭う静久。俺は慌てて近付いて、身体を触って確認する。無事な事がわかると、涙が溢れてくる。
「大丈夫ですよ、火を超えてくるのは手負いばかりですから。それより、そちらは誰ですか?」
「ああ、自衛隊の人でな」
「見たらわかりますよ」
くすっと笑われてしまったが、無事でよかった。
「はじめまして。しかし、これは凄いですね」
「効率よく経験値が稼げそうですね」
「そうですが、すいませんが手伝って貰っていいですか? 炎をたやすと不味いので」
「もちろんです。そこのポリタンクを投げ込めばいいのですな」
「はい、お願いします」
「ええ。ああ、機材を持ってくるようにいっておいてください」
「わかりました。行こう、静久」
「ええ」
静久を抱き上げて、さっさと移動する。すぐに風呂場にいって血を流して貰う。
「先輩もです。血がついちゃいました」
「そうだな。服を用意してからな。先に浴びてろ」
「わかりました」
直ぐに部屋に戻って着替えを持ってくる。そのついでに四ノ宮さんに話しておく。
「わかりました。直に運び込ませます」
「お願いします」
「むぅ~」
結衣が膨れているが、これは仕方ない。妻が優先だ。という訳で、俺は着替えだけして静久はシャワーを浴びて貰った。シャツに短パンになった静久がリビングのソファーに座ってドライアーをかけていく。俺は彼女の頭を拭いていく。
「私は四ノ宮と申します。奥様、でいいんですよね?」
「はい、そうです」
「では、申し訳ないのですが、ここを使わせていただきます」
「条件は地下の迷宮の所持を認める事か、万能薬を貰えるならいいですよ」
「では、所持を認めます。それで、氾濫の時、何かおかしな事はありませんでしたか?」
「氾濫? いっぱい魔物が沸いてこっちまで来た事なら、水晶が青から黄色に、黄色から赤になりました。粗方、殺したら、黄色になってきましたが」
「なるほど」
「それって、赤が氾濫、黄色が危険、青が安全か?」
「たぶん」
「そうでしょうね。この地図を見る限り、そのようです。これはまずい日本中にある殆どの場所が黄色い。氾濫がおきそうです。森谷さん、直ぐにこの事を本部に伝えて日本全土で黄色になっている迷宮を警戒させてください」
「ん、送信。ミサイル、撃っちゃ駄目?」
「操作できるんですか?」
「ん、問題ない。人がいないとこ、撃つ」
「聞いてみます……っと、許可だそうです。ただし、まずは一発だけとの事です」
「ん」
一瞬で、氾濫を起こした場所の赤い点が消滅した。
「ピンポイントのミサイル操作に電子危機のハッキング。恐ろしいですね。世界の戦力バランスが一気に変わりますよ。後で壁を作って貰っていいですか? それと日本を攻撃してきている各国に……」
「もち、おっけー」
「ありがとうございます」
「?」
「ああ、結衣の能力が……」
結衣の能力について、色々と説明していく。
「それは便利ですね。私も出ればいいのですが」
「そればかりはわからないな」
「そうですね。まあ、先輩は錬金術がいいんですよね」
「もちろんだ」
「じゃあ、二人で頑張りましょうか。たっぷり、経験値は稼いでありますから」
「頼む」
こんな話をしていると、森谷さん一家がやって来たので、俺達が迎え入れる。他にも両親に連絡したり、近所の人達を起こして避難して貰わないといけない。
「とりあえず、夜食でも作りましょうか。長期戦になりそうですし」
「ああ、頼む。俺は周りの人の避難を手伝ってくる」
しかし、日本は大丈夫なのだろうか、凄く不安だ。