5話 迷宮での実験
改定が終わりました。後は詩織の名前を変更すると思います。静久と詩織って名前が似てますからね。
病院に行き、父と話した次の日。俺と静久は迷宮に木材などを何往復もして運び込んだ。幸い、通路は物質的に繋がっている訳ではなく、ドラ○エにある時の扉みたいな感じなので運び込む事は用意だった。
「では、作りましょう」
「そうだな」
投石器は木材や植物製の綱などの弾力と、てこの原理を利用して、石などを飛ばすものだ。作り方は難しくなく、簡単な物なら結構楽に作れる。何せ、片方を固定した板を高めの位置にある支点を挟んで反対側を体重をかけて下げればいい。あとは下げた所に投げる物を置いて、離せば曲げられた板の元に戻ろうとする力によって飛んで行く。言ってしまえば日曜大工のレベルで可能という事だ。
「こういうのは専門家に頼むといいんでしょうか?」
「それだと色々と不味いからな。まあ、キットを買ったし、あとはそれを数倍にしたらいいだけだ。俺達だけで出来るだろう」
「そうですね」
小型の投石器のキットが販売されている。それを元にして大きくすればいいだけだ。まあ、素材は拘らないと駄目な所もあるが。
まあ、まずは木材を加工してからだな。
※※※
三日後、投石器が完成した。やはり、素人仕事なので何個も駄目にしてしまったが、そちらはまあいいだろう。
「静久、灯油の貯蓄は十分か?」
「はい、問題ありません。ここ三日で大量に購入して運び込んで貰いましたから」
「ならばよし」
大量のポリタンクが積み上げられている。ドラム缶だと1000リットルまでが無許可で所持出来る限界だったので、ポリタンクにした。
「じゃあ、実際に試してみるか」
「そうですね」
静久と一緒に巨大水風船に灯油を入れて膨らませる。それから、挿入口を縛って、引き絞ってある投石器の皿へと乗せる。
「じゃあ、火をお願いしますね」
「ああ」
静久がストッパーを外すとすぐに元に戻ろうとする力で皿を設置した部分が振り上げられて、乗せられた水風船が飛んで行く。飛距離はしぼった分だけ伸びるが、やりすぎると折れてしまうので全力の投擲は危険だ。それでも普通に投げるよりはかなりの飛距離が出て、遠くの方に灯油を撒く事が出来る。
実際に飛んで行った水風船は落下していくと、魔物の蔓によって破かれる。飛んでくる物を反射的に迎撃するのか、それとも獲物や攻撃だと思っているのかはわからないが、こちらには都合がいい。
用意したコンロに矢の先端を入れて火をつける。それから専用装備となった禍々しい弓に、先端を燃やした矢を番えて放つ。弓道の心得などないが、適当な所に命中すればいいので気楽に射れる。
放たれた矢は狙った場所に飛んで行く。弓としての性能はいいのか、それなりに飛んでくれる。そして、落ちた矢は花に命中して燃え盛っていく。
「はずしましたね」
「まあ、仕方ない」
「そうですね。火は出来たんですから、どんどん飛ばしましょう」
「そうだな」
静久では届かないので、投石器をセットする。後で台座とかをセットすれば静久でも後は体重を使って引き下ろす事が出来るかも知れない。いや、紐とかで巻き上げる形式の方がいいか。そんな事を考えながら、投石器をセットする。直に静久が灯油の入った水風船を乗せてくれるので、それを放つ。後は繰り返していくだけで火の海が完成する。
「先輩、投石器を移動させましょう。出来る限り全方位を燃やしたいですし」
「そうだな。でかいのはどうする?」
「放置で。増やしてくれるのですから、それはそれでありがたいです」
「それもそうだな」
現れた巨大な黄色い花……ヒマワリの魔物を無視して火を広げるように灯油入り水風船を投下して周りを燃やしていく。当然、沢山の巨大ひまわりが産まれて、他の花の魔物を生み出していく。生み出されたそばから燃えていくので可哀想だが、効率的ではある。俺達には常に光が飛んできているので、効率がいい事は確実だ。
「先輩。時間が空きましたが、どうしますか?」
「そうだな……まずは周りを全部焼くか」
「わかりました」
投石器を使わずに普通に投げて入口を中心にして、四方を焼く。ゆっくりとだが、確実に火は広がってヒマワリの魔物が追加で現れていく。こいつらもまた放置だ。
※※※
巨大なヒマワリの魔物が倒れるまで暇なので、静久はヴォルフと一緒に安全な入口付近の高台の中を走ったり、フリスビーを投げたりして時間を潰している。俺は弓の練習がてらヒマワリの魔物を狙って矢を放つ。しかし、それも飽きて来たので、自宅からキャンプ用のカセットコンロと鍋、ウォータータンクを持ちこんだ。やる事は実験だ。前々から気になっていた飛行石もどきの魔石についてだ。
「まずは……」
水を入れた鍋を火にかけて沸騰させる。その間に同じく水を入れた鍋を用意する。こちらには魔石を入れる。そして、中で砕いてみる。すると、魔石の中にあった光が水に溶けていき、ほんのりと水が光った。
「取り敢えず、成功か」
試しに指で掬って舐めてみる。すると口の中に微かな甘みが広がった。ピリッと舌が痺れる事もないので、おそらく毒ではないだろう。売り物に出来るかはわからないが、調べてみよう。どうせ暇つぶしも兼ねた実験だ。それに魔石は食虫植物を大量に狩っているから大量にある。現状では使い道もないので無駄になったところで問題ない。
そんな事を考えていると、水が沸騰したようでポコポコと音が聞こえてきた。視線をやると沸騰しているので、魔石を入れて同じようにしてみる。すると、さっきよりも水に光の光量が多い。
「何をしているんですか?」
「実験だよ。魔石の中にある魔力っぽい何かを水に溶け込ます事で引き出しているんだ」
「じゃあ、後は沸騰させて粉にしますか?」
「ああ、そっちを頼む。俺は魔石を増やしてやってみる」
「わかりました」
静久にあちらは任せて、別の大鍋に魔石を大量に入れて実験してみる。今度は魔力っぽい何か……面倒だから魔力でいいか。魔力の濃度が上がったからか、光量が多い。更に投入して砕いていくと次第に光が上がらなくなり、鍋の舌に魔石の残骸が溜まりだした。
「静久、ザルとガーゼを取ってくれ」
「わかりました」
ザルは近くにあるが、ガーゼは救急箱から取り出さないといけない。直ぐに静久が渡してくれたので、ザルにガーゼを引いて別の鍋に設置する。それから魔石の残骸が溜まっている方を入れていく。これはろ過してゴミを取り除く。
ザルの上のガーゼからどんどん綺麗な液体が染み出てくる。残骸は纏めて近くに捨てて置く。後で片付ければいいだろう。
綺麗な液体の入った方を火にかけながら、追加で魔石を投入してですり棒で割っていく。これを繰り返していくと次第に白く光る粘着性のある液体になっていきた。
試しに掬って舐めてみると、先程までよりも甘くて美味い。ただし、臭いはない。
「静久、あ~ん」
「はっ、はいっ……あ~ん」
指に絡めて静久に差し出すと、口に含んでぺろぺろと舐めてくれる。少し恥ずかしくなってくる。静久も恥ずかしいのか、顔が赤い。
「おっ、美味しいですね……水飴っぽいですが、上品な甘みで口溶けもいいです」
「確かにそうだな」
これも食べて問題ないのかも知れない。まあ、何があるかわからないから様子見だけどな。
「身体に異変はないよな?」
「少し身体が軽くなったような感じがしますね」
「疲労回復の効果があるのかも知れないな」
「そうですね。次は身体に塗ってみませんか? 食べるより確実かと」
「そうだな」
「では、私が試してみます」
「いいのか?」
「はい。先輩の指を口に含んで気付いた事もありますから」
「そうなのか」
静久が腕を差し出してくれるので、粘液を掬って塗り込んでいく。
「んっ、んんっ」
少し顔を赤くして呻く。塗り込んだ白い粘液は少し時間が経つと、まるで染み込んでいくかのように消えていく。
「どうだ?」
「そうですね……予想通りです」
静久がそう言いながら、先程塗り込んだ所を撫でている。
「ん?」
「先輩、触ってみてください」
「ああ」
静久の腕を触ると、たたでさえすべすべだった肌が光沢のあるつるつるした肌へと変わっていた。それも病みつきになるような感じだ。
「赤ちゃんの肌みたいになっています。美肌効果があるみたいですね。ひょっとしたら、アンチエイジング効果も……」
「売れそうか?」
「売れます。こんな素晴らしいのがあれば、間違いなく買います」
静久が断言した。なら、これを売って資金を稼ぐのがいいかも知れないな。
「ただ、どうせなら香りもつけたいですね」
そう言いながら、手にも塗っていく。少し家事とかで荒れていた手も綺麗になったようだ。次に顔にも塗っていく。
「染み渡って元気になってくる感じがします。これはお母さん達にモニターをして貰うといいかも知れません。というか、教えないと殺されます」
「そこまでか」
「そこまでです。女が美貌にかける情熱を舐めてはいけません」
「わかった。だけど、効果が高すぎないか?」
身内で使うのならいいが、このままだと生産も面倒だが製法が疑われかねない。
「そうですね。もっと薄めましょう」
「しかし、そうなるととろみが無くなってクリームにはできそうにないな。化粧水として売るか」
「ヒマワリや花はお日様の香りのような良い匂いがします。匂いはこれを使いましょう」
「クリームはどうする? 何か方法があるのか?」
「ありますよ。植物オイルと蜂蜜を混ぜたら簡単に美肌クリームができますから、蜂蜜をこれだとして焼け残った花を植物オイルにすればいいですから」
「どれだけ焼け残るやら」
「ヒマワリのは残りますよ」
「あれだけ大きいからな」
「はい」
周りを見ると、巨大なヒマワリ達が燃やされて怒り狂いながら、種を飛ばしたりしている。種は高台の周囲を覆う不思議なバリアみたいな物に弾かれて、近くへと落ちて急速に芽吹いては燃やされていく。
この不思議バリア。どうやら、入口付近は安全地帯として設計されているからのようだ。新設な設計だから、やはり試練の意味合いが強いのかも知れない。いや、そもそも投石器とかを持ち出すとは製作者も思っていなかったのかも知れないな。
「あ、倒れましたね」
巨大なヒマワリが地面に倒れ、燃え尽きていく。残ったのは中心部だけで、人の形がしていた所には銀色の宝箱が置かれていた。
「10体めで宝箱ですね」
「3体目でもでたよな」
「はい。そっちは使えませんでしたが」
1体目は銀色の宝箱で、三体目は茶色だった。銀色からは御存じの通り、禍々しい弓が出てきた。茶色からは蜜が瓶に入って出てきている。
「銀箱はレアだと思うから楽しみだな」
「期待しましょう」
「まあ、火が沈静化するまで取りに行けないけどな」
「そうですね。沈静化してからも、少し時間をあけないと熱くて叶いません」
「灼熱地獄だしなぁ……っと、今の間に作っておくか。どうせ他にも湧いているからな」
「そうですね」
二人で粘液を作っていく。
「先輩、水の方も多分売れますから成分分析や調査を依頼しましょう」
「そうだな。たぶん、大丈夫だとは思うが……」
「そうですね。料理に使うと美味しくなりそうです。試してみていいですか?」
「まあ、最悪二人が腹を壊す程度だし飲み続けて問題無いかも調べたいからいいか」
「では、試してみましょう。火刑が結構……なんでしたっけ?」
「火の車か?」
「それです。灯油とガソリン代で結構しますしね。それに出来たら投石器も増やしたいです」
「そうだな。というか、ここをさっさと拠点に改造するのがいいかも知れない」
「確かにそうです。少なくともテーブルとチェアは欲しいですね」
立作業も大変だからな。後は迷宮の外でもこれが作れるかどうかだ。
「名前は何にしますか?」
「直球で魔法のクリームと魔法の水で」
「それでいきましょうか」
「ああ」
※※※
それからしばらくは濃縮を繰り返していく。数時間後、花畑のほとんどが焼けて、全てのヒマワリも倒れた。煙と熱も収まってきたので、警戒しながら中に入って調査していく。地下に居るはずのモグラも高熱にさらされて、地中で倒れているのかはわからないが、出てくる事もない。だが、念のために急いで回収する。リアカーで宝箱を回収した。
「先輩、中身は種みたいですね」
「また使えないものを……」
「何がなるか、わかったものでもないですしね」
「取り敢えず、保管だな」
「わかりました」
静久は宝箱に種を戻して、宝箱ごとリアカーに乗せる。俺は宝箱の蓋を開いて魔石や残っているひまわりや食虫植物の死体を放りこんでいく。この宝箱、不思議な事に明らかに外側の大きさよりも、沢山入るのだ。出す時はイメージしながら蓋をあけると出て来る。故に回収には大変便利なのだ。