4話 改定
ケーキ屋でお見舞いのケーキを買って病院にやって来た。
「部屋は?」
「えっと三〇八号室ですね。あそこを曲がった先です」
「わかった」
進んでいくと三〇八号室、ブレヒトと書かれた病室が有ったので中に入る。中に入ると、カーテンが掛けられて区切られた四つのベッドが有るのが分かる。ここは四人の大部屋となっており、奥の場所が静久の妹、里奈が居るようだ。
「こんにちは……」
「っ⁉」
カーテンを開くと、裸の美少女と二人の美少女が居た。ベッドの上に居る裸の美少女の髪の毛は綺麗な金色で、瞳は大きく丸い碧色の瞳は焦点が定まっていない。白く綺麗な肌は残り二人の美少女によって、身体をタオルで拭かれている。身体を拭いている一人は銀髪、プラチナブロンドを腰辺りまで有り、ナース服を着た美少女だ。もう一人は高校の制服で、長い金色の髪の毛をリボンで結んでツインテールにしている。
「先輩?」
互いに固まっていると、静久が後ろから顔を出して中の様子を見て……納得したようだ。
「ていっ」
可愛らしい声で膝カックンされて、後ろに倒れる。頭は打たないように添えてくれたが、尻は打った。その間にカーテンは閉められた。
「しっ、静久?」
「先輩、私というものが居ながら、何時まで覗いているんですか?」
「わ、悪い。突然の事で驚いてな……」
「まったく、私以外にえっちぃ事をするのは駄目ですよ」
「ああ……」
そんな話をしていると、カーテンが開いてナース服の少女が出てくる。
「シズクちゃん、孝二さん。もう大丈夫ですから、どうぞ」
「はっ、はい」
「お母さん、これお土産です」
「あら、ありがとう」
静久が言ったように十四くらいに見えるが、信じられない事に彼女は母親である。身長も140㎝くらいしかないが、それでも三人を産んだ母親だ。明らかに彼女達が小さいのは母親の遺伝だろう。
さて、中に入るとツインテールの少女、怜奈から睨まれる。ベッドの上に居る里奈は何が有ったのかを聞いたのか、恥ずかしそうに顔を手で覆っている。二人は双子で、顔もよく似ている。身長は静久よりも少し多きくて125㎝くらいで、高校生らしい。
「さっきはごめん。まさか身体を拭いているなんて思わなくて……」
「あうあう」
「変態」
「事故だから……」
「先輩が変態なのは事実ですけどね」
「静久っ!」
静久はベッドの上にあるテーブルにケーキを置いていく。
「病院では静かにしてくださいね」
アンナさんの言葉で声を抑える。
「それと、見た事に対する責任はとってくださいね?」
「それは、どんな……?」
「それはリナちゃんが決める事です」
「リナ、どうするの? お姉ちゃんと別れて貰う?」
「それは駄目だ」
「ええ、駄目です」
怜奈の言葉に俺は即答し、静久は抱き着いてきて拒否する。
「ちっ」
「えっと、お兄ちゃんに見られたんだよね?」
「そうだよ。だから、コイツからお姉ちゃんを離すチャンスなんだけど……」
「離れないから。私は先輩の右手だからね」
「……なら、二つの責任とってください」
「二つの責任?」
「はい。一つは私達からお姉ちゃんを取った責任です。もう一つはその、見た責任です」
俺は思わず一つ目の事で静久を見る。静久は目線を逸らした。アンナさんを見る。
「ごめんなさいね。この子達、シズクちゃんの事が大好きなのよ。それはもう、ライクじゃなくてラブなくらい」
「それは……静久?」
「マジです、先輩。姉離れさせる為にも理由をつけて先輩の家に住んでいたんですけど……」
これは問題だな。静久と別れるなんて絶対に嫌だしな。
「内容しだいだな。許容出来る事と出来ない事があるから」
「かっ、簡単な事です……私とレナもお嫁さんにしてくださいっ!」
「リナっ⁉」
真っ赤な顔をしながら、そんな事を言ってきた里奈ちゃんに怜奈ちゃんが驚いた表情をする。
「だって。お姉ちゃんと一緒に居るにはそうするのが一番だよ? お姉ちゃん、わかれるつもりは無いだろうし」
「それはそうだけど……」
「二人共、正座」
「「っ⁉」」
「静久?」
静久の底冷えするような声で言われた二人は直ぐに正座した。
「何を馬鹿な事を言っているのか、理解していますか? 日本は一夫多妻制ではありませんよ」
「そこっ⁉」
「な、なら、愛人で……」
「駄目です。だいたい、二人には好きな人がいないのですか?」
「居ないよ?」
「居ない。男なんて嫌いだし」
「そうですか。でも、姉の夫を取ろうとするのは……」
「違うよ。お姉ちゃんごとだもん。取る訳じゃないよ」
「……お母さん、酷くなっているんですが……」
「あははは、私は知りませ~ん」
焦ったようにそっぽを向くアンナさん。さっさと使っていたタオルとかを片付けだしている。
「えっと?」
「私、仕事で殆ど家に居ませんから。この頃は孝二さんのお母様やお父様が家に泊まりに来ていますけど」
「え?」
「ほら、目覚めてから始まった新婚生活に両親が居たら邪魔じゃないですか。だから、私達の方の家に来て貰っていました。私の方もこの子達を家におきっぱなしにするのは不安ですから」
小さな子供かっ! いや、身体は納得するぐらい小さいけど。それにしても、あんまり家に居ないから仕事でも忙しいのかと思ったら、そういう事か。ナイスだ。
「あ、留守番とかじゃなくて、そっちに突撃しそうな感じだったからですよ」
「お母さん、ありがとう」
「いえいえ、私としては早くシズクちゃんの子供がみたいですからね。あちらも納得しています♪」
「お母さんっ」
静久が真っ赤になって、顔を手で隠して照れている。
「オノレ」
「……見れないです……あの、お姉ちゃん……やっぱり、駄目ですか? 愛人でもいいですから……」
「……お母さんはどう思っているんですか?」
「この子達も結婚できなさそうで、私は不安だから任せちゃうのは助かるの。私もあの人と結ばれるのにかなり時間がかかっちゃって……私達ってそういう対象に見られないから、お母さんとしては心配で心配で。静久ちゃんはなんとか夫を確保してくれたから、安心したけれど、この子達は二人で常に一緒な上、姉が好きでレナちゃんが男嫌いだからね?」
日本人のロリコンなら、大喜びするだろう。北欧には居ないのかも知れないが。
「先輩はどうですか?」
「そりゃもちろん……」
美少女のロリっ娘三人がお嫁さんとか、最高じゃね? しかも、妖精みたいに可愛らしい子達だ。
「せ・ん・ぱ・い?」
「静久にお任せします」
「逃げましたね」
「逃げましたね~」
「逃げたよね?」
「逃げたわね」
「いや、そりゃ離婚とかなったら嫌だし。俺の一番は何が有っても静久だけだからな」
「まぁ、いいでしょう」
声は嬉しそうに弾んでいるので、大丈夫だと思う。
「でも、貴女達は先輩の事をよく知らないでしょう。一年は例え私に子供が産まれても我慢してください」
「お姉ちゃんっ!」
「えっ、それって怜奈も確定なの!」
「好きにしてください。とりあえず、もう一年は先輩と二人っきりがいいです。先輩もいいですよね?」
「そりゃ、俺はいいが……だけど、いいのか? 姉妹とはいえ浮気だぞ」
「いえ、姉妹だからいいんですよ。これが他人なら……考えさせていただきます。妹達と出来たら一緒に居たいと思うのは私も同じですし」
他人という所で考えたのは詩織の事だろうな。
「静久がいいなら、それでいいさ。まあ、一年も有れば他に好きな人が出来ているだろうしな。もしくはこんなおじさんなんて相手にしないだろう」
三十にはなったから、もうおじさんだ。
「それを期待します」
「お姉ちゃんが居るから無理だよ」
「そうね。コイツはどうでもいいけれど、お姉ちゃんが居るなら……」
「育て方、間違いました……」
「どんまい!」
「お母さんが言わないでくださいっ!」
「てへっ」
可愛らしくそういうアンナさんだが、女手一つで彼女達を育てる為に外国で必死に頑張っているのだから、仕方ないだろう。本人は就労ビザを持っていて、娘達は留学しているが大変だろう。祖国にも孤児だったらしいから居ないか、居ても親族は既に他界しているようだ。知り合いは居るみたいだが。
「っと、仕事に戻りますね。これ以上ここに居たら婦長さんに怒られますし」
「後は任せて」
「お願いね、シズクちゃん」
「うん」
アンナさんが台車を押して、次の人の所へと向かっていく。ここで働いているのも職員割引が効くかららしい。
「とりあえず、ケーキでも食べましょう」
「賛成」
「ケーキなんて久しぶり」
それから、双子がベッドに座って、俺は一席だけある椅子に座る。俺の膝の上に静久が座ってきて、一緒にケーキを食べていく。俺と里奈は食べさせて貰う。怜奈には睨まれたが、気にせず静久といちゃいちゃしていく。
※※※
お見舞いが終わり、家に帰る時に父さんの店に寄って話をする。流石に隠し通す事は出来ない。何より危険だからだ。
「どうした?」
「父さん、話がある」
「わかった。ちょっと奥で話そう」
「静久は母さんを手伝ってきて」
「わかりました」
母さんがアルバイトの人と店番をしているので、静久はそっちを手伝って貰う。俺と父さんは店の奥へと向かい、事務所に入る。事務所の奥で椅子に座りながら父さんに家に出来た迷宮の事を説明していく。
「家に迷宮か。これは政府に報告した方がいいのではないか? やはり危険だからな」
「それは少し待って欲しい。倒せる事は倒せるのだし、出来たら五階までいきたい。薬が居るんだ」
「迷宮産の薬か。値段は安くて数百万だったな。レアな物だと更にするらしいし……流石に買うのは無理だな。孝二にも少し使っているからな」
「そうなのか?」
「ああ。かなり薄めて量を増やした奴だが、二〇万もした。だが、それでも筋肉の衰えが少なくなり、復帰が早くなると聞けば大事な一人息子の為だ。買うしかないだろう」
「ありがとう」
「まあ、それはいい」
父さんは照れながらそう言ってくれた。これはかなり嬉しい。
「それよりも迷宮の事だ。本当に大丈夫なのか?」
「今の所は大丈夫だよ」
「止める事は出来ないのか?」
「ドナーは長い時間をまたないといけないし、先ず来ない。かと言って必要となる薬は相当高いんだろ?」
「ああ、高いな。手が出ないくらいだろう」
「だったら手に入れるしかない。家族の為だからな」
「わかった。ただし、毎日連絡を入れる事と自衛隊が来月か再来月辺りから行うらしい迷宮を探索する訓練合宿に参加する事だ」
「そんなのがあるのか?」
「ああ、知り合いの自衛官に聞いた話だが、増える迷宮の数と深刻な資源不足に大して探索する人数が自衛隊だけじゃ足りないらしい。その為、民間に許可を与える為の前段階に準備をするらしい」
「へえ」
「テストとして参加する人は知り合いに居ないかと聴かれていたんだ。条件は民間人である事と成人している事だな。当然、守秘義務も発生するし、死んだ場合の責任は取らないという事だ。ただ、社会保険や福利厚生も用意するらしいから、外部協力者とかそんな感じだろう」
まあ、死んだ場合はこれが当然だろう。迷宮に潜るのは自己責任という事だろう。しかし、社会保険とか福利厚生もあるなら是非参加したい。迷宮についてわからない事が多すぎるし。
「わかった。静久と相談してみる」
「それがいいだろう。まあ、親としては危険な事をしてほしくないんだが……聞いた感じでは入口からなら問題なさそうだしな」
「まあ、経験値的な物が有るみたいだし、稼げるだけ稼ぐさ」
「そうか。ああ、それとここからは商談になるんだが……売れる物が出たら卸してくれ。売るのはこちらでするからな」
「わかった。頼むよ」
「任せてくれ。じゃあ、静久ちゃんを呼んで来るから待ってなさい」
「わかった」
少しして、静久がやって来た。父さんから聞かされた話をしていく。
「是非参加しましょう。パワーレベリングをしてくれるのなら、助かりますしね」
「その通りだな」
「問題は……私が参加できるかですね。身長で弾かれるかも知れません」
「まあ、大丈夫だろう……多分」
「そうだといいのですが……もしもの場合は先輩だけでもお願いします」
「わかった」
こうして、俺達は自衛隊が試験的に開催する迷宮探索合宿へと参加する事となり、直ぐに親父に電話して貰った。
直に俺達の事を話して貰って、俺の参加に対しては許可が出たが、静久は身長的に無理だという事になった。義手の俺も本当なら参加させないらしいが、テストケースとしては有用だとの事で参加できるようにしてくれたとの事だ。
まあ、どちらにしろ迷宮の監視に人は居るのだから、これでいいだろう。投石器を作って広範囲に焼き払えるようになれば安全だろうしな。