3話 静久 改定
静久
私は日本名だと柊静久。旧姓はシズク・ブレヒト。フィンランド人の母と父の間に生まれました。フィンランドの田舎にある村で産まれました。父は既に無くなり、私達は軍人だった祖父の所で母のアンナと妹のレナとリナの五人で生活していました。私は祖父からサバイバル技術や色々な訓練を受けました。少なくとも狩りで皆の食事を取れるくらいには教えて貰いました。それと日本が好きな祖父だったので、日本語も教えられました。この時、私の名前を日本語から取ったと聞きました。だから、日本の名前みたいな感じです。
それからしばらくして、祖父も老衰で亡くなり私は給料の高い貿易会社へと勤めました。日本語も出来る事から、日本での仕事をする事になり、皆と相談した結果行ってみる事にしました。妹達は留学で、私と母は就労ビザで審査が通り、日本へとやってきました。
日本は物価が高く、貧しいながらも慎ましく暮らしていました。会社だけでなく、プライベートでも孝二先輩が色々と助けてくれたのでなんとかなりました。
それから、あんな事件が起きました。なんとか会社にも席を置いていたので、就労ビザが切れませんでした。その後、私は先輩と結婚して日本国籍を得て滞在しています。
先輩との結婚生活は至って順調です。何時も優しく気にかけていただいていますし、夜伽でも私の身体の事を考えて本番はまだです。先輩がまだ立ち上がれない頃から、口や手などでしていましたので今の所問題ないです。ただ、そこに私の身体の開発……調教が入ったくらいです。今では先輩のを喉の奥で咥えたり、お尻でも気持ちよくなるようにされてしまいました。先輩は変態で凄くえっちぃのですが、終わった後に優しく抱きしめて撫でながら褒めてくれるのがいいです。
そんな感じで順調(?)に過ごしていたのですが、リナの病気が悪化して失明してしまいました。角膜のドナーが見つかるか、迷宮で見つかるらしい薬で治せるらしいのです。どちらにしても非情にお金がかかります。前者は手術費用で、後者はオークションです。どう考えても値段が六桁から七桁のお金が必要です。ですので、家に迷宮が出来たのは正直言って、ありがたいです。
次の問題は再就職先が見つからない事です。先輩が三十歳で、私が二十二歳ですが、条件にあう場所が悉く不採用になっています。もしかしたら、手が回されているのかも知れません。まあ、最悪お義母さん達がやっている雑貨屋を手伝えばいいだけです。お母さんの方は看護婦なので仕事先を紹介して貰うのは厳しいですね。資格を取らないといけないですし。妹達は高校生なので外します。それに先輩と一緒に義肢装具士の勉強もしましたし、これが受かれば働ける場所も増えます。
そんな事を考えていると、何時もの起床時間になりました。今日は迷宮から魔物が出てこないか、念のために先輩と一緒に地下で寝ました。しかし、迷宮から魔物が出て来るなんて事はなかったようです。
一応、寝袋から顔を出して回りを確認しますが、近くにヴォルフとセラが寝ているぐらいです。いえ、ヴォルフは起きているようで、こちらを見て尻尾を振ってきました。どうやら、見張りをしてくれていたようです。後で差し入れをしましょう。
安全が確認できたので、先輩の腕の中から抜け出し、同時に寝袋からも出ます。夏とはいえ、九月に入ったとはいえ朝は少し寒いです。ましてや下着姿なのですから、仕方ありません。普段は先輩と一緒に裸で寝ているのですが、今回は仕方ありません。というか、本当はちゃんと服を着ていたのですが、している最中に脱げていきました。
「ふぅ」
ちゃんとした服に着替えが終わった後、普段なら朝食の仕込みをするのですが、今日は違います。
「先輩、起きてください」
「んんっ……もう朝か……」
「五時ですけど、迷宮の確認をしないといけません」
「そうだな……」
起きて来た先輩に目覚めのキスをして、先輩の目を覚ましてあげます。これも結婚してからの日課の一つです。その後は先輩の着替えを手伝ってあげます。普段は外しているのですが、念の為に義手をつけたままで寝たので簡単な確認もしないといけません。
「さて、いくか」
「はい。ヴォルフはセラと待っていてください」
「わふっ」
それから、バリケードを取り除いて迷宮に入っていきます。目的はどうなっているかを確認する事です。
※※※
迷宮へと続く通路を抜けた私達を歓迎してくれるかのように、温かい日差しが迎えてくれます。そう、温かい日差しです。それは天井の花から発せられていました。眩しさに手で光を遮りながら、高台の端まで進んでいくと……綺麗な一面の花畑がありました。
「綺麗ですね、先輩」
「そうだな」
夜とは違った綺麗さがあります。色とりどりの綺麗な花が咲き乱れ、良い花の匂いをゆるやかな風によって運んでくれます。ピクニックでもしたい気分になります。その大きさがあまりに大きくなければですが。
「しかし、一晩でここまで再生するのか……」
「先輩、性質の悪そうな顔をしていますよ」
「おっと、いけないな」
どうせ稼げそうだと考えているんでしょう。それは私も同じです。ネットで調べたのですが、迷宮の強さや難易度は様々ですが、入口付近が弱いのは共通していて奥に行けば行くほど敵は強くなっていくそうです。なので、入口付近で狩れるだけ狩って実力をつけるのがいいでしょう。
「取り敢えず、狩る方法だ。昨日話したように簡単に作れる投石器を使うのでいいな?」
「はい。そのほうがより遠くに飛ばせるでしょう」
遠くに飛ばせるという事は、倒せる範囲が増えるという事です。投石器の作り方はググれば乗っていますし、素材を集めるだけです。
「じゃあ、今日は材料を買いにいくか。そのついでにお見舞いに行くとしようか」
「そうですね。それと迷宮の事を祖国の知り合いにも聞いてみますね。日本と違って、あちらは自由に入れるみたいですし」
「頼む」
問題無い事がわかったので、自宅に戻ります。
※※※
朝食を終えて家の掃除を行います。先輩がハタキで高い所の掃除して、落ちた塵は掃除機で吸ってくれます。元から綺麗に掃除されているので、少しして掃除が終わるでしょう。私は洗濯をしていたのですが、問題があって先輩を待っています。
「にゃぁ」
「にゃぁ~」
「にゃにゃ」
「にゃ~」
ベランダの室外機の上でセラが日向ぼっこをしているので、その横に私もしゃがみ込んでにゃあにゃあと話しかけていました。音が聞こえて、ゆっくりと振り返るとそこには先輩がいました。
「っ⁉ せっ、先輩⁉」
「ん?」
「いっ、何時からそこに居ましたか⁉」
「静久がにゃあにゃあ言っていた時からだな」
「っぅ~~~」
恥ずかしくて顔が真っ赤になっていきます。
「わっ、忘れてください……後生ですから……」
「いやいや、こんな可愛い静久を忘れられる訳ないって」
「先輩……」
「むしろ、猫耳と尻尾をつけたくなるな」
「……変態ですね」
「嫌か?」
「先輩が望むなら構いませんが……部屋の中だけですよ」
「もちろんだ。こんな可愛い静久を他の奴になんて見せたくないからな」
「なら、いいですよ……恥ずかしいですけど、猫は好きですし」
こんな事も受け入れてしまえるようになりました。コスプレというのも何度かしていますし。すく~る水着なるものや、お母さんから貰ったお古のナース服とかでもやったりしました。
「っと、さっさと干してしまおうか」
「はい」
竿を降ろしてくれたので洗濯物を干していきます。私の身長では届かないかないのです。いえ、ジャンプしたら届きますが、それはちょっと危ないですしね。
※※※
家事が終わったので、二人で買い物に車で出かけます。小さな私では運転出来ないので、先輩が運転してくれます。義手をつけているので問題ありませんし、今の時代は自動運転機能も搭載されていますので衝突の心配もありません。
先ずはホームセンターに行って、荷物搬入用のリアカーとネットで調べた投石器の材料を購入しました。かなりの量になったので、そちらは宅配サービスを頼みました。
「これで大丈夫だろう」
「確かに材料と機材は大丈夫そうですね。あ、灯りはどうしますか? 夜の為にライトはあった方がいいですよね」
「そうだな……ライトを入れるなら、発電機や延長コードも要るな」
「発電機ですか……確かに普通の電力だけじゃ足りなさそうですね」
「まあ、お金が無いから後回しだな」
「わかりました。ところで、武器はどうしますか?」
「静久は何か武道とか出来るのか?」
「CQCを習ったくらいです」
筋は良い方です。軍人だった祖父もそう言ってくれていましたし、祖父の知り合いの軍人さんにも褒められました。
「まあ、最初は炎で焼いてトドメをさすくらいだろうから大丈夫だろう。だが、念の為にグローブとかプロテクターとかも買っておくか」
「それがいいですね。となると、バイク屋さんですか?」
「ああ」
俺達が住んでいるのは少し都会から山二つほど離れた場所で、住宅地や田畑が有って、都会のような、田舎のような、そんな真ん中辺りです。なので市内の方へと出かけていく事になりました。
大きなバイク屋さんで先輩と一緒にプロテクターを見ていきます。しかし、ここでも問題がありました。
「先輩、ぶかぶかです」
「そりゃそうだろう」
「くっ……」
私は身長120cmなので、子供用のしかありません。その子供用のもあんまりありません。とりあえず、インナーなどを買っていきます。後は肘やグローブなんかも買いました。
先輩の方も胸部プロテクターとかしっかりとした物を買っています。どうやら、いざという時は身体を張って守ってくれるみたいです。でも、怪我はして欲しくないですよ。
「後は靴とか、ついでに服とかも買っていくか」
「それって……」
「デートしようか。した事ないしな」
「いいんですか?」
「大丈夫だ。それで行きたい所はあるか?」
「水族館、行きたいです」
少し前に出来た内陸部の水族館で、イルカショーも見れるらしいのでいってみたかったんですよね。
「なら、行くか」
「はいっ!」
先輩と一緒に水族館です。始めてですけど、とても楽しみです。
※※※
薄暗い中、大きな水槽の中に沢山の魚が気持ち良さそうに泳いでいます。左右だけでなく、上も水槽で海底トンネルのような感じです。そんな中を先輩と手を繋ぎながらゆっくりと進んでいきます。
「先輩、アレはなんですか?」
「アレはだな……」
先輩が色々と説明してくれます。それを聞きながらイルカさんの居る場所まで目指していきます。
「そう言えば何時まで先輩と呼ぶんだ?」
「嫌ですか? 嫌なら名前にしますけど」
「いや、全然そんな事はないよ。むしろ、そっちの方が嬉しいかな」
そう言って、先輩は私の頭を撫でてきます。気持ちいいのでそのまま身を委ねて撫でられておきます。
「あ、そろそろ時間ですよ」
「そうか。それじゃあ、行くか」
「はい!」
イルカさん達を見てから、先輩にイルカのキーホルダーとストラップ、ぬいぐるみをを買って貰いました。妹達へのお土産も出来ました。この後は雰囲気の有る場所で食事をしてから、ケーキ屋さんでお見舞いの品を買って病院に向かいます。三時ごろなので面会には丁度良い時間です。