21話 お散歩へといこう
お風呂でこれからの予定を決めた私はキッチンで踏み台に乗りながら朝食を作ります。日本食を作りたいのですが、生魚などは超高級品です。なのでサラダとトースト、それに目玉焼きをつけます。トーストに乗せて食べるのです。
朝食を作ってからはトースト縁を取ってレタスとハム、キュウリ、マヨネーズ、胡椒を使ってサンドイッチを作る。いっぱい作って私達の分はランチボックスにいれておく。残りは結衣達のお昼ご飯にしてもらう。水筒も用意したので、お母さんのご飯を用意して移動する。
「お母さん、入ります」
幾つものある鍵を開けて部屋に入ります。部屋の中に入ると咽かえるような臭いがしてきます。この部屋にはテーブルとベッドしかありません。
そのベッドの上には裸のお母さんがいます。お母さんは自らを傷つけるように慰めています。私はすぐに錬金術で開発した鎮静剤を投与してお母さんを正気に戻します。
「大丈夫ですか?」
「……し……ず……く……」
お母さんは何度か自殺をはかっている。それに外に出たら男の人を襲いそうになるので閉じ込めてあります。これは治療のためで、仕方がないことです。
「……お願い……」
「駄目です。お母さんを死なせたりはしません」
「……むぅ……」
お母さんが膨れて頬っぺたを膨らませます。どんなに拗ねても絶対に死なせません。
「辛いなら、先輩に……」
「嫌よ。私はあの人以外とは……」
「お父さんはもういないです」
「それでもよ」
お母さんはお父さんに対して不貞を働いたと思っているのも、死にたいと思っている一つだと思います。一応、すでに処理はしているのですけど、媚薬の効果は続いています。
鎮静剤と不感症にする薬がなければまともに話すこともできません。それに投与してから少しするとまたやりだしたり、男の人を求めだしたりします。だからこそ、部屋には厳重に鍵を取り付けてあります。
「シズクは本当の恋をしたことがないから、わからないのかもしれないわね」
「そんなことは……」
「だって、孝二さんのことは命を助けてくれたことと、右腕を失ったことからの罪悪感で結婚したでしょ」
「それはそうですが……今はちがっ」
「違わないわよ。普通なら他の人が旦那様とするのを許容することはないと思うの。妹達なら私もお願いしたようなものだから、まだわかるけれどね」
「お母さん……」
確かに私は結衣やなずなちゃんのことも許容してしまっている。普通に考えたらおかしいです。私は先輩のことが好きじゃないのかもしれません。自分でもわからなくなりますが、それでも一つだけはっきりと断言できることはあります。
「どちらにしろ、お母さんは死なせません。そちらの解決方法が嫌というなら、私と先輩で必ず薬を用意して治療してみます」
「まったく……」
「ごめんなさい。我がままかもしれないですが、こればかりは絶対に譲れません」
「そう……」
お母さんはそろそろ限界かもしれません。急がないといけないです。なんとかしないといけません。
私は外にでると、先輩が出掛ける準備をして待っていてくれました。
「どうした? 顔色が悪いぞ」
「わかるんですか?」
「愛する妻のことだから、当たり前だ」
私は表情があまり動かないのですが、ばればれのようです。本当に先輩は私のことをみてくれています。
「実はお母さんに言われちゃったんです……」
お母さんと話したことを伝えていくと、先輩は私を抱き上げて目線を合わせて真剣な表情をして話してくれます。
「静久は俺以外の人に抱かれるのは許容できるか? 例えば神崎とか」
先輩以外の人に抱かれるのは……想像するととても嫌な気分になりました。
「絶対に嫌です」
「断言できるか?」
「できます」
「なら大丈夫だ。確かにアンナさんの言う通り、まだよくわかってなかったりするのかもしれない。始まりは罪悪感とか恩義だ。それでも一年以上、夫婦として過ごしてきて俺は嬉しかったし、楽しかった。静久は俺と一緒にいて辛かったり、嫌だったりしたか?」
「いえ、そんなことはありません。先輩はとてもよくしてくれていますし、楽しく過ごさせてもらっています」
自分のことよりも私のことを優先してくれて、本当に愛してくれています。
「それにお見舞いの時のことを覚えているか? 俺が里奈ちゃんのを見た時」
「はい。リナの汗を拭いている時でしたね」
「そうだ。その時、会話の中で一年は子供が生まれても二人っきりにしてくれってお願いしていたよな。それってちゃんと嫉妬してくれていることだろ。後、静久のは優しいともいえる。全部、俺達のためでもあるしな。結衣のことだってそうだろ」
「うっ……」
確かに結衣のことは色々と危険がありました。あの子は病んでる部分があるのでもしもの場合、先輩を道連れにして死のうとするかもしれませんでした。それに先輩は彼女の祖父母とも仲がよかったので、私達のためにも受け入れることにしました。
「だから、大丈夫だ。それに静久が嫌なら何時でも止めていい。もちろん、色々と責任は取るつもりだ。これが俺の意見だが、静久はどうなんだ? 俺と離れたいというなら考えるが……」
先輩と離れ離れになる……そう思うと嫌な気分になります。なんだか、せつなくなって身体が震えてきます。思わず抱き着いて先輩の温もりを得ることで防ぎます。
「ありがとうございます。でも、私は先輩と一緒がいいです。寒いのは嫌ですから」
「そうか、ありがとう。じゃあ、この話は終わりだ。問題はアンナさんは大分不安定になっているようだな。普段なら絶対に言わないことだ」
「はい。もう時間がないかもしれません。万能薬の手配はどうなっていますか?」
「協議に時間がかかるらしい。やっぱり取りに行くしかないな」
「わかりました。いってみましょう」
「ああ、そうだな」
私達は二人で頷きあってから、散歩という名目でダンジョンに向かっていくことになりました。ダンジョンは潜ってみて、無理そうならなずなちゃんに頼ることも検討しないといけません。
近くにあるダンジョンは京都です。京都には複数のダンジョンがあります。その一つはとても特殊で一つの広大なダンジョンで有名な第六天魔王織田信長と明智光秀という人らしいです。その二人が殺し合ってるみたいです。過去の偉人みたいですが、とても危険らしくて侵入禁止とされています。本当に合戦場みたいらしいです。
もちろん、今回向かう場所はそんな危険な場所ではありません。鞍馬山という山がダンジョン化しているので、そちらに向かいます。このダンジョンは鳥などの動物がメインとなっています。
しかし、このダンジョンは他のダンジョンと違ってどちらかというと修行するダンジョンのようです。段階的にミッションを攻略していくと確実に強くなれるようにプログラムされているようです。ただ、問題は進んでいくと凶悪な敵が現れ、自分の限界を超えるか、自分の限界を見極めて退却を選択しないといけないことです。そう、このダンジョンは実力を、技術を常に上げ続けなければ死ぬダンジョンです。
「到着だな」
「はい。ここも有名なところなんですよね?」
「鞍馬山は源義経が修行した場所だな。おそらく、天狗がでてくる。源義経を鍛えたのが天狗だと言われているからな」
「日本の妖怪でしたね」
「おそらく、空を飛んで高速で移動する。だから、浮遊砲台で対処しないといけないかもしれない」
「ただ、生身でも戦ってみたいですね」
「まあ、無茶はしないように。俺達のスキルは錬金術だ。あくまでも道具を使って戦う側だからな」
「もちろんです」
目指すは五階層ですね。といっても、万能薬がでるかはわかりませんが、狙うだけはあります。
「では、登山を頑張りましょう」
「そうだな」
先輩と楽しくも苦しいデートの始まりです。
次回はダンジョンです。




