2話 迷宮へ 改定
迷宮へと続く真っ黒な通路を荷物を詰んだリヤカーを押して歩いていく。次第に前方の道が開けて、淡い灯りが見えてくる。
「あれがそうですか?」
「ああ、そうだよ」
荷物を置いて、静久に手を差し出すと彼女も握り返してくれる。だから、そのまま一緒に迷宮の中へと入る。すると、昼間に来た時とは違うった。天井の花は光を発しておらず、真っ暗な夜空となっている。そんな中に星の代わりか、仄かに光る光点が無数に存在している。まるで満天の星空の中に居るような幻想的な光景が広がっていた。後ろを振り返ると水晶が入口の回りを照らしている。
「……綺麗です……」
「確かにな」
しばらくぼぉーと景色を眺めていると、次第に星が動いたり消えたりしている事に気付いた。双眼鏡を取り出して光点を改めて見る。
「蛍か」
「蛍ですか?」
「あれは蛍みたいだ。それもかなり大きい」
「この光はそれですか……それって魔物という事ですか?」
「そんな感じだな」
大きな源氏蛍でも15㎝だが、こいつらは30から50㎝はある。その分、光も強い。しかし、ここから距離があるので大きな花で構成された花畑と合わさって綺麗だ。
「っと、いつまでも見ていられませんね」
「そうだな。だけど、写真だけは取ろうか」
「いいですね。どうせこれから壊れる光景ですし」
確かにこれから焼き払うのだから、撮れるうちに撮っておこう。静久やセラ達の写真を取り、タイマーをセットして一緒に撮ったりしておく。もちろん、何時でも逃げられるようにしてだ。
写真を取り終えたので、リヤカーを取りに戻る。そこから弓と先端に布がついた矢を取り出す。静久にはガスバーナーを渡して火を用意して貰う。
「じゃあ、これから試すか」
「そうですね」
入口の部分は結構な広さが有り、だいたい入口を中心に半径百メートルくらいはあるので準備はしやすい。矢をポリタンクから出した灯油につけから、しっかりと周りを拭きとってから矢を放つ準備をする。
「じゃあ、試すから逃げる準備を頼む」
「はい、任せてください」
「わふっ」
「にゃぁ~」
静久に火をつけて貰って、矢を放つ。矢は予想していたルートよりもそれて落ちていく。しかし、端の方で矢を放ったので下に落ちても問題ない。何せ、下には沢山の花がいっぱいなのだから。
放った矢は急な斜面に蔦を伸ばしていた花に命中し、不気味な声をあげながら盛大に燃え始めた。
「アレが魔物ですか……」
「そうだな……」
「わふぅ~」
見守っていると、暴れていた花の魔物はだんだんと大人しくなり、動かなくなって燃え尽きた。すると、魔物から何かの小さな青い光が飛んできて、俺とセラ、ヴォルフの中へと入っていった。他には後にはきらりと光る石みたいなのが有るだけだった。
「大丈夫ですか?」
「ああ、問題はないが……いや、少し身体が軽くなっ気がする。だが、何故静久にはいかなかったんだ?」
「わかりません。今度は私が倒してみましょう」
「頼む」
静久と役割を変えて試して貰う。しかし、今度も静久に光がいかずにそのまま光は空中に消えていった。
「これが運動能力をあげる経験値的な物だと不味いな」
「そうですね……先輩が前に来た時はどうしましたか?」
「あの水晶に触れたな……そういえば、あそこから光が出て俺達の身体に入ったか」
「では、それを試してみましょう。危険かも知れませんが、先輩と一緒なら大丈夫です」
「わかった。ただビリッとするから気を付けてな」
「はい。んっ⁉」
静久が触れると、俺と同じような現象が起きてビリッと痺れたようだ。それから、水晶から出た光が静久の身体に入っていった。
「身体は大丈夫か?」
「はい、問題ありません。それじゃあ、また試してみますね」
「ああ、頼む」
「はい」
それから、直ぐに火をつけた矢を放って倒す。今度はちゃんと静久に光が入った。だが、今度は俺達には来ない。そうなると、残るは短時間に触れた事だろう。
「今度は皆で触れてみるか」
「はい。セラ、ヴォルフ、おいで」
「わふっ」
「にゃ」
二人と二匹で触れると、水晶が同時に光った。次の瞬間には何かが繋がったような感じもしてくる。
「今度はこの状態で倒してみるか」
「そうですね。では、試してみます」
静久が高台の端に向かい、そこで燃え盛る矢を小刻みに調整してから放つ。すると狙ったのか、花が密集している所に命中した。直ぐに矢から火が燃え移っていく。更に花の魔物が暴れる事によって、回りにも引火して盛大に燃えていく。
「先輩、少しやりたい事がありますので、預かってください」
「いいけど、何をするんだ?」
「もっと広範囲に広げます」
「自然破壊だが、気にしてられないな」
「相手は魔物ですしね」
静久は蓋が空いた状態のポリタンクを持つと、自ら身体を駒のように回転して遠心力を使ってポリタンクを遠くに投げた。ポリタンクは空中で回転しながら、中身を撒き散らかしつつ燃え盛る場所に到着した。灯油が漏れた場所にも引火して燃え盛る範囲がどんどん広がっていく。
「これって呼吸がまずくならないか?」
「なりますね。逃げる準備をしておきましょう」
「だな」
二匹を連れて入口に退避する。蛍も火災に巻き込まれてどんどん倒れていっている。盛大に煙をあげながら燃えていくのだけれど、煙が天井に到達すると驚いた事に天井に有った昼間に光っていた花が煙を吸い込んでいく。
「これは……凄いですね」
「だが、嫌な予感がするな」
「確かにそうですね」
盛大に燃え盛り、どんどん光が俺達の身体に入っていく。そして、しばらくすると煙を大量に吸った天井の花が地面に光の光線を放つ。すると地面が振動して巨大な大きな黄色い蕾が地中から出現し、花を開いていく。その中心には女性の上半身の姿をしたものまである。
「……」
「静久?」
「アレは敵ですね……」
自分の胸元を見てからそう言った静久。改めて花の化け物を見る。相手は裸ではなく、和服みたいな物を着ているのだが……一部分がかなり大きく実っている。だからか、静久は残りのポリタンクを全て投げ放つ。
巨大な花の魔物は飛んできたポリタンクを蔦で迎撃し、串刺しにしてくる。そして、それによって中身が飛散して魔物に掛かっていく。そこに前からついていた火が引火する。更に静久が矢を放ち、火力をあげていく。
燃やされる巨大な花の魔物も、暴れながら種を弾幕のようにばら撒いてくる。それらは高低差があって俺達の所までは届かず、地面に着弾すると同時に急成長して花の化け物になっていく。
「先輩、逃げますか?」
「んー直ぐに逃げれるように入口で待機するか」
「そうですね」
灯油も無くなったので入口で待機していると、次々と光が俺達の身体へと飛んでくる。
「大丈夫そうですね」
「そうだな」
二人でヴォルフとセラを撫でながら一時間くらい待っていると、一際大きな悲鳴が聞こえて来ると同時に大きな光の柱が出現した。
「倒れましたか?」
「かもな」
光の柱が消滅して、膨大な光が俺達の身体を包み込んでいく。それが終ると少し待つ。
「じゃあ、確認してくるか」
「そうですね」
二人と二匹で移動して、ゆっくりと高台の端へと向かう。すると目に移ったのは一面の美しい花畑ではなく、未だに火が燻っている焼け野原だった。火があるお蔭で回りはまだ見える。
「先輩っ、先輩っ!」
「どうした?」
静久が嬉しそうに声をかけてきた。
「宝箱ですっ、宝箱っ!」
「ん?」
静久が指さした先には確かに宝箱っぽい物が置かれている。その場所は巨大な花の魔物が居た場所だ。
「とりあえず、回収に行ってみるか」
「そうですね。でも、先輩はここで見張っていてください。まだ何かが潜んでいるかも知れませんし」
「わかった」
本当は嫌だが、運動能力は明らかに静久の方が高いからな。
「気を付けてな」
「もちろんです」
「ヴォルフもよろしくな」
「わふっ」
静久が懐中電灯とナイフを持ってヴォルフと一緒に急な坂道を飛ぶようにして降りていく。確か、パルクールとかいう移動技術だった気がする。
下に降りた静久はゆっくりと警戒しながら進んでいく。俺も回りを見渡して警戒する。抱き上げたセラも一緒になって見てくれているように感じる。
しばらくして、静久が宝箱へと到着して慎重に開けていく。中身はわからないが、無事に手に入ったようだ。
「にゃっ‼」
ほっとしていると、セラの声が聞こえて慌てて見ると静久の後ろの地面が盛り上がりだしている。
「後ろっ‼」
俺の声に反応した静久は直ぐに宝箱を持って、背後に掲げる。すると、そこに地面から飛び出してきたモグラが鋭そうな爪が衝突する。一瞬、モグラの身体が空中で静止する。そこにヴォルフが首に噛みつく。そのまま地面に叩き付ける。モグラは直ぐに体勢を立て直そうと立ち上がる。そこに静久が後ろからナイフを首にあてて切り裂いて動かなくなった。警戒は続けて監視しておく。
それから、静久が宝箱の中身と何かを拾って、ヴォルフはモグラの死体を持って遠回りで上がって来た。どうやら、降りる為の通路が反対側にあったようだ。登るのはそちらの方が楽でいいだろう。下るのはどこからでも気を付ければいけるだろう。
「ただいまです」
「大丈夫か?」
静久の身体に手を伸ばして、怪我がないかを確認していく。
「はい。少し驚きましたが怪我も無く倒せました」
「それは良かった」
どうやら、怪我はないようで胸をなでおろす。
「それで、これが宝箱の中身です」
「これが……」
それは黒く禍々しい感じのする弓だった。竹で作った物よりも明らかに材質が違う。試しに弦を引っ張ってみる。
「いたっ⁉」
「先輩?」
「いや、ちょっと指を切ったみたいでな……」
弦に血が滴り、血が溶けるように消えていった。すると弓は不気味に振動する。
「大丈夫ですか?」
「ああ、なんともないな……」
「貸してみてください」
「ああ」
弓を渡そうとすると、静久の手がバチッと弾かれた。
「えっと、これは……」
「呪われました?」
「そんなまさか……」
弓から手を放す事は出来た。地面に置く事も問題無い。ただ、他の人が使う事が出来ないだけのようだ。
「まあ、これはいいや。どうせこれから使うしな」
「そうですね。後は青い石みたいなのが沢山落ちていました。大きな花の魔物の所にもありました」
静久が青い石を差し出してくれる。青い石……正確には透明な石の中に青い光がある。これが何かわからないが、もしかしたらアレかもしれない。
「そのモグラのような物の死体を解体できるか?」
「できますよ。鶏とそんなに変わらないでしょうし」
「じゃあ、頼む」
「はい」
静久が解体してくれている間に、持って来てくれた不思議な石を調べる。この光が経験値的なあれだと助かる。
「わふっ!」
「にゃーっ」
二匹の声にそちらを向くと、不思議な石を齧ったり、引っ掻いたりして遊んでいた。二匹が軽く遊んでいても傷ついているようで、その一つが割れて光が出て来て宙に消えていった。
「まるであの映画の飛行石だな」
割ると光って消える。確か、空気と反応してだった。これも同じような感じだろう。
「先輩、終わりました。ですが、肉とかどうするんですか?」
「そうだな……ヴォルフ、食べるか?」
「わふっ!」
ヴォルフは美味そうに食べていく。いや、セラも一緒になって食べ出した。
「革とこの大きな爪はどうしますか?」
「爪の部分だけ異常に巨大化しているな」
「むしろ、刃物です。これを見てください」
そう言って、静久がナイフを爪と合わせる。するとナイフが切れていく。爪の方はなんともないので、鋭さと強度は爪の方が鉄より高いのだろう。
「加工したら使えそうだな」
「そうですね。ですが、皮は逆に脆過ぎて使えません。それと石みたいなのが心臓に埋め込まれていました」
「やっぱり魔石みたいな物か。正式名称はわからないし、魔石でいいか」
「なんでもいいんじゃないですか」
「そうだな。っと、とりあえず帰るか」
「そうですね」
入口を通って自宅へと戻る。直に風呂で汗を流す。服にも色々な臭いがついているので着替えもする。洗い方は二人で互いに洗いあう。いや、静久の小さな身体を泡塗れにして互いを洗うのだ。洗うだけでも静久は気持ち良くなってくれている。
洗い終われば湯船に浸かりながらゆっくりとこれからの事を考える。もちろん、静久を膝の上に乗せてだ。その静久といえば、両手で湯を掬ったりと、動かして遊んでいる。
「さて、どうする?」
「狩る方法は問題ありません。むしろ、もっと射程距離を長くしたい所ですね」
「確かに花畑はまだ奥にも広がっているからな。しかし、方法をどうするかだな。素手でどうにか出来る距離じゃないしな……」
「そうですね……あっ」
どうやら何かを思い付いたようだ。
「どうした?」
「前に島を開拓するテレビでやってた奴があるじゃないですか」
「あ~投石器か」
「はい。アレでポリタンクを投げましょう」
「そうだな。しかし、ポリタンクを使い捨てにするのは問題だな」
資金が無限にある訳でもないからな。
「ビニール袋とかで代用しましょうか」
「それだと問題あるだろう」
「じゃあ、水風船ですね」
「そうだな。そっちなら安くつくか」
「はい」
しかし、こんな小さな身体で頑張ってくれたんだよな。マッサージくらいしてやるか。
「んっ、先輩? したいんですか?」
「いや、そっちもしたいが、筋肉を解してやろうかと思ってな」
「そっちですか……じゃあ、お願いします」
「ああ、任せてくれ」
筋電義手を外しているので片手だが、まあなんとかなる。マッサージが終わった後、迷宮の入口付近にバリケードを設置してからマットを敷いて寝袋に一緒に入る。大人用の大きい物なので身体の小さな静久はすっぽりと入る。
「先輩」
「なんだ?」
「昨日はいっぱい虐められたので、今日は私がご奉仕しますね」
「ああ、構わないぞ」
昨日は静久とSMプレイをした。といっても、気持ち良くさせながらお尻を叩いて痛みも気持ち良いと感じるようにする為だが。身体の小さい静久が俺を受け入れる時、相当痛いだろうからそれの対策でもある。
さて、昨日はいいとして今の静久は寝転がっている俺に口付けをして、舌を絡めながら唾液を流し込んで来る。愛しの妻からの与えられた物を飲み込んでいく。
次に静久は舌を這わせながら俺の首筋に顔を埋めてくる。それからぺろぺろと小さな舌で舐めた後、甘噛みしてくる。
「っ。静久?」
「ちゅるるっ」
静久は俺の言葉を気にせずにそのまま動いていく。次は吸い付かれてキスマークを付けられる。そのままどんどん下がっていき、身体中にキスマークと歯型をつけられた。まるでマーキングをして所有権を主張するように。
恐らく、昼間の事が原因だろう。これはどうにかしないといけない。とりあえず、静久の頭を撫でつつ好きにさせるとしよう。明日は必要な物を買いにいくついでにデートでもしよう。
その日は結局、静久が満足するまで前も後ろもぺろぺろされた。反撃しようとしたら涙目でこちらを見上げてくるので、無条件降伏するしかなかったのだ。