隣の柴が青い(カウンセラー司書)
「つまり貴方は隣の席の彼を好きになったが、それが友人の彼氏であると知り悩んでいると」
「仮の話ですよ? 仮の!例えばそういう題材で本を書くとしたらどんな結末になるかだとか」
司馬は言った。司馬良助、今年の春に私の通う私立中学に赴任してきた自称カウンセラー司書の怪しい男である。いや司書であることは間違いないのだけれどカウンセラー司書とかいう肩書きがなんとも胡散臭い。
しかしそんな胡散臭いぐらいの存在がちょうどいいのだ。少なくとも相談した内容が漏れたなんて話は聞かないし、お勧めの本を聞きに行ったとでも言えばいい。事実カウンセラーとは名ばかりで本を薦められるばかりだと聞いた。あれ、自称していたのはソムリエ司書だっただろうか。
「そういうのは専門じゃないんですけど。まあせっかく来てくれたわけですから相談には乗りましょう。ああ、これは関係ないんですけど参考までに2,3質問してもいいですか?」
司馬はしばし悩んだあとそう言った。率直な答えを期待していただけに拍子抜けだったが、私は頷いた。
「貴方は欲しいものができました。それの持ち主は友人で世界に1――」
「木崎君をモノみたいに言わないでくださいっ!」
関係ない質問というには余りにお粗末な内容に思わず私は思わず声を荒げそして、しまったと思った。
「木崎君……なるほど、ああテニス部の」
のんきに司馬が呟いたのを聞き頬が熱を持ったのが分かる。あぁぁ
「初心だねぇ」
「あああああ! それはいいんです!」
「いやでもモノ扱いは――」
「いいですから」
「とはいえ貴方の気持ちを聞かないことには相談にも乗れないのだけど、そもそもこの状況をどう思っているんだい?」
遮る私を追求することはやめ、司馬はもう私が木崎君を好きという前提で話を進めることにしたらしい。ああ、なんでこうなったんだろう、もうやけくそだ。
「私は、私は木崎君が好きで、でもどうしようもないじゃないですか。理沙の彼氏だとか、そんなのどうしようもない。もう、もうおめでとうって伝えちゃった後なのに……」
言葉にするうちに沈んでいく気分。あぁなんだろう私ってこんなに気持ちの浮き沈みが激しかったかなぁ。
「つまり答えはほとんど出ていると」
「かもですね。どうせだからばっさり言って欲しかっただけかも、理沙には相談できるわけないし、それなら胡散臭い場所で他人に話したほうがまだって」
「……胡散臭い」
「胡散臭いよ?」
「まあ何時の間にやらカウンセラー司書なんて名前が広がった割りに私にできるのは助言ではなく、本をおススメするぐらいですけどね。本、借りていきます?」
「うん」
何が出てくるんだろ。やっぱり失恋系かなぁ、でも生徒に教えるためとはいえおじさんが真面目に恋愛小説なんて読んでると思うと笑えるよね。
「はい、常識人の貴方におススメしたいのはこの三冊ですね。」
「三冊も?」
「まあ1つの物語にエンディングは1つだけですからね。一冊目は何年か前にドラマにもなった『徒花』、ドロドロの昼ドラですね。2冊目の薄い本が『浮き船』、幾分か前にかかれた本で叶わぬ恋、自由には結婚できなかった時代の悲哀を描いた本です。3冊目が『ラングスター建国記』、ハーレム……2人以上の女性が1人の男性を愛する描写のあるファンタジー小説です」
「掻き回したいの?」
おそらく私は複雑な表情をしていたと思う。だって諦めに来たはずが選択肢を提示されている。
「決めるのは貴方ですから。僕は、司書。未来ある若者の世界を広げてもらうことが仕事です。ああ、それとこれもどうぞ」
「?私テニス部じゃないけど」
「木崎君から頼まれましてね。渡してくれると助かります」