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短篇集

人の価値の計り方

社会で生きる人間の価値はどうやって表せる?

容姿?人望?資産?名声?知能?友達の数?付き合ってきた恋人の数?

答えは「他者への影響力」だ。

さらに具体的に言うなら「行為や創作物によって、いかに他者に時間を消費させるか」だ。

これは上に挙げた全ての要素を包括する評価基準で、帰納的に説明できる……と俺は思っている。

ひとつずつ見ていこう。


まず容姿。

美男美女は人目を引く。

街を美人が歩けば、道行く人々は自然と彼女に視線を注ぐ。

それは一人あたり二秒ほどの短い時間かもしれない。

しかし美人が一日に百人の視線を集めたとすれば、二百秒を他人に消費させたことになる。

ファッション雑誌の表紙を飾るのは、容貌に華のあるモデルだ。

モデルが着ている流行服は魅力的に見え、雑誌の読者は貴重な休日の時間をショッピングに費やす。


ふたつめに性格。人望と言い換えても良い。

クラスの陽気なムードメーカーと陰気なぼっち。

二人が病気になったとき、クラスメイトはどちらの見舞いに行くだろう。

容姿は並の気さくな男と卑屈な男。

デートした女性は、どちらと二度目のデートしたいと考えるだろうか。

甲斐性のある上司と頼りない上司。

難題を課された部下が、快諾する可能性が高いのはどちらか。

性格の悪い人間と良い人間、どちらに人々は自分の時間を捧げようと思うだろうか。


みっつめに資産。

費用対効果が最悪の例だが、高額紙幣を雑踏にばら撒けば、人々が眼の色を変えて飛びつく。

人々はもともとの予定を急遽変更して、金を奪うことに夢中になり、時間を消費する。

奴隷制の残る発展途上国で奴隷を買えば、

その奴隷の時間を全て自分に捧げさせることができる。

ある企業の大口株主になって経営権を取得し、自分の意のままに動く経営者を任命し、

労働時間の拡大策を実施すれば、全従業員はプライベートの時間を削って仕事をせざるを得ない。


よっつめに名声。

世界的に有名な歌姫を想像してみて欲しい。

ファンは歌姫に会うためライブに参加し、出待ちをする。

熱狂的なファンでなくとも、音楽好きの多くがその歌姫の楽曲を聞く。

彼らが曲に聞き入っているとき、その時間は間接的に、歌姫に捧げられている。

同様に、世界的に有名な画家を想像して見て欲しい。

その画家の絵画展が開かれ、多くの人々が訪れる。

彼らが絵に見入っているとき、その時間は間接的に、その画家に捧げられている。


いつつめに知能。

ある技術者が画期的な理論に基づく新製品を開発したとする。

それは既存の製品を駆逐し、消費者はこぞって新製品を買い求め、それを使う。

その技術者は多くの消費者に、新製品を買い、使うという行為に時間を消費させたと言える。

億万長者に上り詰めた起業家が講演をするとしよう。

起業を目指す学生や社会人は、忙しい予定の合間を縫ってその講演会に参加する。

有名起業家のノウハウを知るためなら、彼らは時間を割くことを厭わない。 


人間関係、すなわち友人、恋人は上記の要素のいくつかが要因となって生まれる。

が、その「数」は人間の価値を表す指標とは言えない。

正しくは「他者に時間を消費させる力」だ。

「どれだけ多くの人間に、どれほど多くの時間を消費させられるか」だ。

あなたには、あなたのことを常に気にかけてくれる家族がいるだろうか。

あなたには、あなたの無理な頼み事を優先して聞いてくれる友人が何人いるだろうか。

あなたには、あなたのためなら人生を捧げられるという恋人がいるだろうか。

そして、既にお気づきのこととは思うが、時間を消費させられる対象によって、その人間の価値は異なる。

例えば「相談があるから今から十分間だけ電話したい」とニートの友人にメールを送って、電話するのは簡単だ。しかし相手が国家元首では、頼んでいるのが別の国の元首でもない限り、ホットラインは通じない。


人間は歩く時間の貯蓄箱だ。

大抵、生まれた時はぎっしりと時間が詰まっている(先天性の難病で生まれ持った時間が少ない人もいる)。

そこから日々、時間を支払って生きている。

何に時間を支払うかは、人それぞれだ。

だからこそ、人間の価値は、他者にどれだけ自分のために時間を使ってもらうかで決まる。

有名人のように、死してなお他者への影響力を失わない人間もいる。

世捨て人のように、生きていても他者への影響力を持たない人間もいる。


あなたの価値はいかほどだろうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 様々な例を挙げているので、より深く人の価値について考えさせられた。 [気になる点] なし [一言] 天才ですね。
[一言] キノの旅に出てきそうな内容ですね(笑) そういうもので人の価値を一元的に量る価値観が広まったら、世の中はよりつまらなくなるだろうなーという気はしました。
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