6枚目 C
「はち、買い物行くのか」
「お前も来るか、ぐりれ」
待ち構えていたグリレを誘うと、嬉しそうに何度も首肯した。
「あー、せめて、お前にぐぐれる機能ついてたらな。安くて美味い店検索できるのに」
「なぁなぁ。オレ、一回だけ、あれ見たことあるぞ。丸くて茶色で、上に赤とか緑がぱらぱら乗ってるやつだろ」
「ああ」
「それ、たぶん、こっちだ」
早送り→→
「えーと」
「グリレさん。確かに合ってるには合ってるようだが」
「ほら、この字も同じじゃん」
回す棒に銀色で書かれた文字が躍っている。
「いや~。びっくりびっくり。世の中、無駄に金使ってるなー」
たこやき博物館。
歴史やそれにちなんだ民芸品、冷凍のご当地限定たこ入りたこ焼き売ってます。
「はー。お前の記憶は正しいよ」
でっかいたこ焼が、ガラス越しに見えてるもんな。
ガキの記憶力ははんぱないが、今回は残念な結果だな。
「なー。あれ、なに?」
「ん?アー、あれは屋台だよ」
「いい匂いするな」
つられて漂う匂いを追う。
「これは」
こうばしいソースの香り。
「もしや……」
「やっぱり、たこ焼屋」
見えていた屋台の影は、この場にあると予測される通り、たこ焼き屋のようだった。
「あ、『ハッチャン』って書いてあるぞ。ご指名だな」
「いや、違う違う。あれは、『8ちゃんねるね』」
「ねるね?」
「そ。『はっちゃんねるね』っていう名前の店だよ。しかも、たこじゃなくて、イカ焼きタコそば屋じゃないか」
「いか、ん?」
「小さい文字でほら」
「焼きタコないのか?」
「んー。あったとしても、それじゃあ、本当に焼いたタコが出てきちゃうよ。しかたない。メニューだけでも、聞いてみるか」
「へい。お待ち」
愛想のいい兄ちゃんの愛想笑い。
「おい。なんだよこれ」
「タコの姿焼きだ」
「干物だろ」
「焼いてるよ?」
「つか、それにソース塗るな。食えねーだろ」
「旨いよ」
「いや、俺、マヨオンリー派なんで」
「まあまあ、安くしておくからさ。食べてみなよ。ほら、坊主も腹減ってるみたいだし」
「だめだ。金払ってまで、そんな食いたくもならないものは買えない」
「御代はただ。サービスしとくよ。試供品。試作品と思ってサービスサービス」
「なっ。それは、つまり実験体の被験者じゃないか。試食ぐらいしろよ」
「あからさまにマヨ追加するな!それに、だいたい俺らはたこ焼きを探してるんだ」
「ほい。たこ焼きでーす。五百円とんで四円です」
「細かっ。って、おい、売る気か?試供品だろ。それになんだ?タコの上に、マヨに加えて紅ショウガ。青海苔も散らしたのか」
「あ、ソースはついてるよ。一番下にべったり」
「あんた食えよ。俺、食わねー」
つれなくあしらったためか、店主にじっと見られる客B。
「なんだよ」
「おごりだろ。金。払って」
「払えるか。ぼったくり。自分で作って自分で食えば、客はただの見物人だろ。払う理由がどこにある?」
「見学料」
「通りがかりです。さようなら」
名残惜しそうなグリレを引っ張って、早急に去る。
「おい。いいのか?あれ、最高級 北海だこだぜ」
「北海だろうと黒海だろうと、紅海でも地中海であったとしても、あれはたこ焼きじゃない」
「な。そうだろ」
「お、おう。丸くはなかったな」
Bの勢いにグリレが呑まれる。
「よし、次の店だ」
なんとか目的の品を入手し、早送り→→
「長い買い物だったな」
「ああ。ようやく手に入れたぜ」
「俺はもうくたくただ」
自慢げにやり遂げた感満載のグリレに対し、よれよれのB。
それを冷静に見つめる瀬田。
「いくらだった?」
「三百円。いい店紹介してもらったんだ。ちょっと遠かったけど1pack百円」
「それで、三パック……」
「どうかした?」
腑に落ちない様子で瀬田が黙り込んだ。
「四人で三パック?ひとり何個だ?」
「さんぱっく かける はちこ。ひとりあたり、よん かける ろく で、ろっこ」
グリレが持っていたパックを早々に取り上げたパピヨンが、さっそく一つ目を口に放り込みながら計算結果を披露した。
こうして、パピヨンの満足げな顔を見ながら、残り三名も速やかに食し始めたのだった。
6枚目終わり。