6枚目 B
「ねーねー。はっちゃん。ぴよん、菓子まー?」
「はっ……たこ焼き屋じゃないからな。誤解される」
「?」
蜂谷の言葉が消化不良を起こし、パピヨンが一瞬止まるも、聞いてきた。
「やきたこ、うま?」
「あー。うん。たこ焼き旨いよな。瀬田さん、こいつらのおやつも兼ねて、たこ焼きに……。せ、瀬田さん!?白骨化ならぬ。青肌化してますよ!!」
明らかに色が悪い瀬田に、のんびり受け答えしていた蜂谷も驚く。
「私の答え……」
「あー、あれか。そうだった。でも、それより先に、あっちで盛り上がっちゃったふたりに餌やらないと」
「ああ。そうだな。私はぬいぐるみ以下の、弱小探偵さー」
うわー、イっちゃってる。
「せたん。早く行こうぜ!なあ、なあ、せたん!」
「やきうま、いえ、出るか?」
「家でするには機材がないからなぁ」
たこ焼きを食べる気満々のグリレとパピヨン。
しかし、瀬田は脳内異次元空間から戻っていなかった。
「セタン。そうだ。その呼び方!私が常々(つねづね)疑問視していたのは、それだ!」
そう叫んで、瀬田さんが復活し、神々(こうごう)しいほどの日光を背に立ち上がった。
「ぐりん!なぜ、私は『セタン』なのだ?」
「え?呼びやすいから」
「そーだよなー。俺もそうだと思ってた」
「待て。意気投合するには早いぞ。若人かける二号」
「いや、瀬田さんも結構おかしいっすよ」
「そんなことは問題にならない」
不条理だ。
さっき言ってた良識のない大人に成り下がってる。
「して、だ。なぜ、私はセタンになった?セダンやサタンと間違われたら、どうしてくれるんだ?」
「セダンはいいけど、サタンはちょっとイメージ悪いっすね。仕事来なくなりそう」
「そうだろ。B。せめて、セダンならまだ許容範囲なのだが……」
「それはよくわからないっすけど……」
基準謎だし。
「びー。瀬田の意味、何?」
「あー。えーとな。まず、簡単な方からいくぞ。まず、サタンっていうのは、一番 偉くて怖い悪魔の名前だ」
「うんうん」
「で、セダンっていうのは。車、知ってるよな?そこらへん走ってる鉄の塊でできた、でかいやつ」
「うんうん」
「それの種類のひとつ。形とか、動力とかで呼び方はいろいろあったりするんだけど。ま、その中の一つに、俗に?ってか、通称。じゃない、総称でセダンタイプっていわれる車があるんだよ。そうかっこいいとも限らないけど、悪魔よりは印象が良さそうだから。っていうのは、わかるな」
「セタンは車なのか!?」
「い、いや、違うぞ?」
きらきらして見つめられても困る。
人の子ならこんな疑問持たなそうだ。というか、聞かないか。
車好きじゃなくても、バンとか、四駆とか、普通に使うし。
おぼろげに知ってることは知ってるよな。
「瀬田さんは人間。車っていう機械とは、中身も構造も違う。ま。人間にそういう言い方おかしいけどな。ふつう、人間の構成物質は細胞って呼ばれる」
「さいほー?」
「あー、裁縫?繕い物や縫い物をすることだな。……って、まさか、似てるとか言うなよ?お前らとは全然違うんだからな。人間がお前らみたいになったら、超こえぇ」
「それはお前らがオレたちの本質を知らないからだ。失礼な男?だな」
「そこは疑問にするな。人間は、どっちかの性別で一生生きる生き物だ。お前らみたいに、作り手や、作りかえ(作り直し含む)で、突然逆の性別になったり、戻ったりしねーよ」
「そうなのか」
「残念だ」
「なんで、瀬田さんまでそこで肩を落とすんすか。つか、あんたは変態か!」
「いや。便利だと思っただけだ。自分の好きなようにいじれるなら、こう、肩をがっしりさせたり、耳や目を百個つけたり、いくらでも仕事をこなせるじゃないか。筋骨粒々にしておけば、体力づくりも必要ない。すごくいい。少食に設定すれば、経費もかからないし、あらゆる問題が解決しそうじゃないか。うむ。我ながら名案だ」
「いや、それ不可能だし。勝手に納得しないで下さい」
「せたぁー、びぃー、いかたこ、いつ?」
会話にはじかれ、待ち続けたピンクの抗議の声。
「あー、ごめんな。ぱぴよん。たこ焼き買うんだったな。えーと、お金お金」
「三百円だ」
「?」
「瀬田さん」
財布をあさる瀬田。
「これで買えるだけ買ってやれ」
「ありがとうございますって。これ、こいつらが玩具にしてる、遊び道具じゃないですか。偽金以外に見えないでしょ」
「ああ、間違えた」
再び財布をあさる瀬田。
「こっちだ」
「それ、ゲーセンのコインですよね?わざとやってます?」
財布をしまい。そっぽを向く。
その頬がほんのり赤い。
「……」
「わかりました。見栄を張りたいのはわかりますけど、『ない』なら『ない』って言ってくださいよ。初めから素直に告白していれば、そんな顔をしなくてすむのに」
「ご、誤解を受けるような発言は避けろ。悪寒が走ったぞ。犬」
「ハチです」
「あってるじゃないか。ほら、駅前行けば、広場辺りにあるだろう。ほれ、しっ、し」
扱いまで犬化?
「はいはい。中堅ですから、ボスの命令には逆らえませんね」
「なにがボスか。私は飼い主ではない。それに、お前は忠犬ではなく、口うるさいだけの駄犬だろうが」
「やれやれ」
どこまでも逸れていきそうな話題に、適当に相槌を打ちつつ、遠ざかった。
6枚目 C につづきます。