6枚目 A
本日は、晴天なり。
公園の木陰で四人揃って休憩中。
「本日は定休日にする」という瀬田さんの思い付きにより、独断独行で行動を開始。
その結果、部下含め三名と合流し、のどかで穏やかな一日を満喫していたわけだ。
なんで、公園なのかって?
巻き戻せば簡単だ。
←←巻き戻し
「公園の水を試飲する。実際に飲んではいけないレベルというのは、どんなものであるのか体験によって実験し、証明する!」
単に腹壊すだけだろ。と思ってBたちもついてきたのだが……。
公園まで早送り→→
「かび?いや、鉄錆のにおいか。それに、水にも若干見たことない血の色が」
「それは鉄錆です。血も成分でいえば鉄が含まれてますが、意味が違う。これは、酸化鉄!赤くなるのは、あまり使われていないか。ここに流れ込む水そのものに問題が……」
ちらりと、視界に入った瀬田の行動を注視する。
「あ。飲まないでくださいよ?」
「眺めているだけだ」
「なら、いいですけど」
こんなところでがぶ飲みして、いいおとなが救急車で病院直行とかなったら、医療費が怖い。
それに参加しているおこちゃま二名にも悪影響だ。
「水質調査を依頼されたんですか?」
「いや。そういうのは専門職の仕事だろ。たんなる興味だ」
「これ、飲めませんからね。目視とにおいでわかるなんて、よほど酷い汚染状況としか思えませんから」
「衛生局か?水道局か?さっそく連絡を」
「無駄ですよ。こういうところは、飲むより、土を洗い落とすとか、花壇に水やりをするためのものですよ。『飲むな!』とでも、張り紙して、よく利用している子どもたちに注意したら終わりですよ」
「そういうものか。職務怠慢だな」
「ま。誰も困りませんからね。家庭用水とは違います」
「ふむ。難儀なものだ」
そこで瀬田は興味がそれたらしい。花壇へと足を向けた。
「ところで、花壇に水をあげてやらないか。しおれているじゃないか」
「この水はだめですよ。しおれるどころか、枯れますからね。あー、土、乾いちゃってるな。近所の人から水もらえてないのか」
「では、我が家のを」
「だめです。いくら生命の危機でも、我が家の家計の危機はどうなるんです?水道メーター跳ね上がらせるようなことはしないで下さい」
「なら、見捨てるというのか?この健気にも生きようとしている小さな命たちを」
「近所に張り紙してきます。それより、呼びかけの方が経費かからないか。ご近所の方に聞いて、世話の見直しと、水当番を決めてもらいましょう」
「ご近所の方々の水道メーターは?」
「それは管理者なら負わざるを得ない、負担と義務です。時間と労力を費やさなければ、脆弱になってしまった自然は守れないんです」
というのはBの適当な理由。
我が家より苦しい家計の家ならば、そもそも既に家に住めないのでは?
そう言ってもよかったが、瀬田さんのギリギリ生活を考えると、言い返されるのは間違いない。
なので、あらかた納得したであろうタイミングで切り上げる。
「そういえば」
レジャーシートは貴重なので、使い古した何かの上に行儀よく座る瀬田さん。
が。
にーぐるまー含め、残りは草と土の上だ。
花壇が干上がるくらい雨が降ってないので、木陰という普通じめじめした(湿気の高い)場所に座ってもあまり汚れない。
朝露も乾いたなら、軽く払って落ちるから、クリーニングの心配もない。
「なんだよ。改まって」
「なぜ、お前は私のことをおかしな言い方で呼んでいるんだ?」
「おかし?」
「おいしい!?」
瀬田が珍しくグリレに向き直る。
しかし、パピヨンがおかしな勘違いで、割り込んだ。
「ピヨンは黙ってろ」
「なんで?お菓子!お菓子!おかしーいー」
「はいはい。なんか伸ばすと違う意味に聞こえちゃうから、静かにしてような。はい、一時停止」
「はくっ!」
蜂谷の言葉にパピヨンが動きを止めた。
「ちがうだろ。はっちー。それを言うなら、静止!」
「せーし?」
「ストップ。止まれって意味だ」
首をかしげるパピヨンにグリレが説明している。
えらぶっちゃって、こどもだな。
「なんだよ。はち。にやついてきもちわるー」
「全身緑野郎に言われたくないな。そんな格好じゃ、公共の場も歩けないだろ。というか、そもそも、にーぐるまーの母星以外で出歩くなんて……。ぷっ」
「笑うな、失礼だぞ」
「そうだそうだ。そういうのは思っても言わないのが、おとなの常識だろ」
「それを言うなら。良識だ」
「え、そうなのか」
瀬田に賛同したグリレだが、蜂谷の発言に勢いが揺らぐ。
「ところで、私の疑問はどうなった?」
「なんだったっけ?」
「都合の悪いことはすぐ忘れるな」
「それは年齢関係ないぞ。てれびとかいうのが言ってた」
「あーあー、そうですね。お偉いさんと見栄っ張りは大抵そう言うかもねー」
今度は蜂谷がグリレの意見に賛同する。
「で?どうなんだ?」
「んあ?オレ、変な呼びかたしてないよな?びー」
「うーん。とりあえず、いつもどおり、瀬田さんのことを呼んでみな」
「瀬田さん」
「うそつけ。お前の口から初めて聞いたわっ!」
「ああん?なんだよ。も、いいだろ。呼び方なんて。だいたいさ。改めて呼んでみて。とか、難しいじゃん。その、たいみんぐとか、たいぴんぐとか」
シャイなんだな。
あと、タイミングは正解だが、タイピングはおかしいぞ。
6枚目 B につづきます