5枚目
瀬田さん家のお夕飯は、居候の意見で決定される。
「飯、何食べたい?」
「食べたいものあるやつ、リクエスト受け付けるぞ」
蜂谷の声に、子どもたちから歓声が上がる。
「はいはいはーい」
「はい。どうぞ」
「お、オレ、とんかつ食べたい!」
「え?ぬいぐるまーって肉食えるのか?共食いじゃね?」
「ばっか、容姿と中身は違うんだよ。オレ様の健全なボディを養うには必要だ!」
「なんか難しいこと言ってるが、お前、食べたことあるのか?」
「いや。ない」
きぱっ。
やっぱりな。
がくっと肩を落とす。
「え、そんなショックなものなの?いけないものなの?」
真剣に聞かれて、また困る。
「瀬田さん」
助けを求めるも、すたすたと先に行ってしまっている。
「ぴよん。オムライス、好き」
「ああ、オムライスな。この前作ったやつでいいか」
「うん。いい」
「じゃ、決まりな」
「って、待て。オレの、りく、りくえ、すと?は?」
「ああ、安かったらな。考えとくと。候補にな」
「安かったら?高いのか?」
「肉はエンゲル係数押し上げるんだよ」
「えんじぇる?なに?」
「ああ。それはな。家計に占める食費の割合を示す数字だ。おこちゃまには理解できないだろうから、また今度ゆっくりな」
はてなまーくいっぱい浮かべた×2に笑いかけながら、瀬田に追いつくべく、足を速める。
こんな時でも奴のスピード落ちないな。
早送り→→
そして、ご飯の時間。
「はい。オムライス。それから、とんかつ二切れ」
食卓に並んだ皿をじーと見ているグレー。
「なぁ、これ、何?俺がリクエストしたやつと違うよ?」
「ああ、それはそれであってるんだよ。お前はいったいどんなものを想像してたんだ?」
「ええ~、違うよ。オレが言ってたのは、このくらいの茶色のやつ!」
形を正確に表現してみせる。
「あーそれ、どこで見た?」
「いつもあれ。おいしそうに食ってたんだ。だから、俺もって。あれ、すっげーうまそうだった。そうなんだろ!な!な!」
「あー。うん。うまい。一枚ものじゃなくても、これも同じだから」
伝わらない。
「あー、だから。これを繋げるとだな」
並べたものを拝借して元に戻す。
「あ」
「おおっ!!」
どよめきが子ども二人から起きる。
が、すぐに各皿に戻した。
「あー」
グレーの悲しげな顔。
「ま、肉ならこれにも入ってるから」
「お、お前のは一切れ多く乗せてやったからな。しっかり味わって食えよ」
「っくー。っしょー。おむらいすのほうがでけー」
「そうだな。ごめんな。もうちょっと収入が、家計が安定したら、な」
よしよしと言って慰めてやることにした。
ぴよんは関係なく、早急に食すべくオムライスをもぐもぐやっている。
「野菜も食えよ。ぴよん。主食だからな」
「おー」
パピヨンが片手を挙げ、グレーがぶっとばされて、床と仲良くなる。
あ、悲惨。
落ち込んでるからな、グレー。
「ふ、復活しろよー」
小声で呼びかける。
「うう、オレ様の、とんとん~」
「早く食わないと冷めるぞ。とんかつはあったかいうちが、うめぇんだぞ」
「うん。食べる」
「あー。素直だな。また作ってやるから、しっかりお食べ。野菜を!」
「うー。うー。食べる。いただきます」
ずびずびしながら、箸を手にした。
冒頭まで←←巻き戻し。
「げっ。特売の肉、売り切れてんじゃん」
「どうかした?はちー」
「ああ、うん。ちょっと待ってて。考えるから」
そうして買ったのが、豚かつ用ロース二枚入り。
人数には満たないが、頑張った、俺!
「ぐれ、肉、食った、あるか?」
「ん?にゃい」
「そか。ぴよんもわからない」
「肉なら、この前作ったオムライスにも入ってたぞ。少しだけど」
あれは鶏だがな。
「そうか」
「へー。あれうまいな」
「ぴよん、おむる、すき」
「おむるって、それじゃあ、オムレツかオムライスか、区別つかないぞ」
早送り→→再び夕飯の時間
「そういや、グレは日本語上手だな。語彙も多いし、誰かに教わったのか?」
「ん?よく覚えてない。自然に話せた」
「ほら、やっぱりすごい上手だ。それに比べて、パピヨンは、未だカタコト。なんでだろ」
「ろー?」
パピヨンも首を傾げる。
「さあ、よくわかんね」
「だなー。お前らにわからないんじゃ、わからないよな」
「セタンはあまりしゃべらないよな。そのせいじゃね」
「ああ。瀬田さんか。確かに、あの人は必要以上に喋らないというか、口下手というか、寡黙というべきか。迷うな」
「全部だろ」
「だな」
やっぱり、グレーのほうが言語は発達しているようだ。
カタカナや難しい単語はめたくただが、よほどでなければ滑らかで流暢にしゃべる。
頭もいいんだろう、きっと。
どっかにぶつけて、ねじすてたまま放置してそうな、ぱぴよんとは、性格も含めて全然違うな。
同じ種族なのに。おかしなやつら。
「なんだよ。一人で笑ってさ。そのにやにや、きもちわるい」