2枚目
「セタさーん!」
「セタさん。待ってください」
前を歩く人物。
男性。三十代。すらりとした細身の男性。性格はマイペース。
色素の薄い髪を適当に切り、メガネをかけているのが特徴。
生真面目な印象をもたれているが、その実態は周囲の予想を大きく裏切っている。
すたすたと驚異的スピードで加速中。
「耳年寄りですか」
「断じて違う!」
「……と、思う」
その間はなんですか?そして、声がスローになってる。しかも、小さい。
そんな会話をしながらも、いつの間にか走っている俺たち。
その歩み?を止めたのは、突如として前方に飛来したファンシーなぬいぐるみだった。
「んん」
三十路男がぬいぐるみに唇を奪われている光景。
寒すぎる。
悪寒を感じて、体を抱けば、ぬいぐるみは可愛らしい少女へと姿を変えたのが見えた。
髪がピンクぃのは異星人だからよ?な、セタさんラブっ娘。そして、若干ストーカー。
「たくρ」
思いっきりはぐ。
「仕事中だ。離れてくれ」
「帰る時間まだ?」
「今は三時。午後のチィータイムだ」
「じゃ、おやつ食べいこ?ね?ね?」
可愛らしくお願いするも、瀬田さん放置。
瀬田さんはこんなでも俺の上司である。尊敬すべき対象だ。
「めがね。ずれてますよ」
「ああ、今直すところだ」
眼鏡を元の位置に戻す。しかし、気に入らなかったのか、一度外して、レンズを拭いた。
そして、もう一度かけなおし、フレームを指で触って、シックリ来る位置へ。
「ところで君は誰だったか?」
淡々と尋ねられ、困惑する。
「仕事人beeです」
「ああ、蜂屋くんか」
「そうです。本名はそれです」
「いつになったら、顔と名前を一致して覚えられるようになるんですか」
「ああ、すまない。B=ハチのイメージしかなくてな」
「あってますけどね」
「仕事中だったな。どこへ向って……たんだったか」
「それも忘れたんですか!どおりで逆方向に突っ走ってると思った!」
てっきり、照れ屋故の逆走かと思ってたよ!
「すまん。最近、欠落部位が多くてな」
「欠陥により、バグが発生しているようだ」
「それも、大量に」
「困ります。修正、いや、今すぐ修復してください」
「うむ。努力しよう」
「じんかくへんかーん」
真似して少女も腕を動かしポーズを決める。
「アホなことしてないで、真面目にやってください」
「……君は少し五月蝿すぎる。アドレナリンの出すぎか?」
「も。いいです。猫、探しましょう」
「ああ、そうだ。猫探しの依頼だった」
「猫さん、にゃんにゃん」
いつのまにやら、ピンク少女は屈んで、猫じゃらしをふりふりしている。
そして、その前でじゃれつく一匹の猫。
「あー!!そいつっ。そいつだー!」
大きな声に驚いたのか、猫がダッシュで翔けて行く。
「にゃんにゃん、ばいばーい」
「ばいばいじゃない。弟子なら捕まえろ」
「かわーそー」
「指くわえてもダメ。あれがいなきゃ、今夜のご飯抜きだからなっ」
「にゃんにゃーん」
背を丸めてかがみ、まさしく猫のごとく追いかける少女。
けれども、猫は見つからず……。
早送り→→
「今日は非常に無駄な一日だった。明日も本日同様無駄な一日を過ごせるだろう」
「猫探し、続けるんですよね?」
「にゃんにゃん」
無邪気に笑うピンク少女の胸元から覗く一匹の猫。
「そ、それだー!」
「んにゃ?」
早期解決により、依頼人からの報酬がアップ。
依頼内容が猫探しだっただけに、夕飯のおかずに、と秋刀魚を頂いた。
一匹だけに今夜は争奪戦確定だが、有意義な一日だった。
セタ探偵事務所。今日も廃業の危機で終わる。