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7枚目

*注意*

このディスクは『グリニッジの試練』という、瀬田探偵事務所に眠っていた秘蔵の英雄譚えいゆうたんである。

****



「ははは。待ってろよ。ぴよん・P。今、行くからよっ!!」


グレー・Gの決め台詞が響く。


「ははははっ」


ついでに、高笑いも。


「げほぅ、げっほっ。にしても、空気悪ぃ~な」


現在、グレー・Gは、どこかのトッラクのタイヤについている「ぴらぴら」につかまっている。

ひなたぼっこしてたら、緊急指令が来て、出動中なのだ。


にしても、荷台なら、まだしも、そんなところに落とされるなんて。


ひっでー運転だよな。


勝手に乗ってる奴がよく言うセリフ。


「だけどよ。もうすぐ辿たどり着くからな。ヒーローってのは、女のピンチにしゅたって現れるものだぜ。はは、これで、オレの高感度アップだ。奴らにバカにされたままじゃ終らない。それがオレ様って、おい、おい、こらっ」


「おいってば。オレ様の許可なく勝手に進むな!スピード、スピードがっ」


サングラスを片手で押さえ、もう片方の手がぷるぷるしている。が、必死である。


「やべっ。速すぎだぜ。噂に聞く、高速道路ってやつか?やべぇ。振り落とされちゃうぅぅ」


情けない声を出しながらも、つかまる手はゆるめない。


いや、緩めたら死ぬ。死んじゃう。

ぺちゃんこの襤褸ぼろれにされてポイ。なんつー最期さいごは嫌じゃあっっっ!!!


必死に掴まりながら、目的地を目指した。



早送り→→



車が止まったところで、降りる。


ま、本当のことを言えば、急停車でついに、砂の上に投げ出されたオレ様。


「やー、すみませんでした。どうぞどうぞ」


「ぅあ~~。げへっ、げへっ。最後までひでー」


地面に転がりながら、便乗させてもらった車を見送る。


お礼と言わんばかりに、排気ガスをぶちまけられ、き込んだ。


「なんだよ?なんだよ?せっかく、かっこいく着地決める予定がよ~」


人間が歩いてくる足音が近づく。


やべー。見つかったらまずいぜ。


現在、ぬいぐるみの姿のままだ。

人に捕まれば何されるかわからない。


運良くお持ち帰りされるか(すきをついて逃げられる)、ゴミ箱ポイ(自力脱出する)のどっちかで頼むぜ。

焼却処分は地獄だぜ。生きたまま焼け死んじゃうぅ。


きゅうっと想像だけで蒼白になっていると、視界がちゅうに浮いた。


「あれ?お前……」


「よ、ようっ!」


聞きなれた声に腕を上げて見せれば、安心したように笑うのが見えた。


「何やってるんだ?お前」

「い、いや、その、緊急指令が……」

「ああ、これか」

「うっ!」


グレー・Gの腹の中にまったままの携帯電話をはじかれ、息がまりそうになる。


ひどいぜ。はっちん。


「ちゃんと通じたんだな。えらえらい。にしても、この腹どうなってんの?」

「う、うるさい。ポケットだよ。ポケット。それより、降ろしやがれ。放せ、こらっ。放せ」


押してもたたいても、ぽすぽすと柔らかな音がするだけだ。


「ちぅしょー」


「はは。ごめんごめん。で?指令はどうしたんだ?」


「そうだよ。セタンは?ピヨン・Pがピンチだって!今すぐ探さなきゃ!」


「ま、落ち着け。落ち着け。ぐれじ。あれを、よーく見てみな」

「ああん?何やってんだ、あれ?」


ぽふんと、蜂谷の手を逃れ、人型になる。

サングラスを押し上げ、なんとも言えない光景を注視ちゅうしする。


「なぁ、はち。あれって、緊急事態なのか?」

「あー。うん、君が現れる寸前までは、そうだったかなぁ」

「なに?オレ様の見せ場は?」

「おい。わざわざ来たのに、ヒーローの出番は無しか?無しなのか?!!」


腕を組んで微苦笑びくしょうしている蜂谷のスーツを引っつかんで抗議する。


「まあま、いいじゃないか。あれが解決したら、お前のおかげってことになるかもよ?」

「笑ってんじゃないか?!はちこー」

「はははっ。ごめん。君が、そこまで必死に、訴えるなんて……くくく、だ、だめだ」

「ちくしょー。結局、こういうオチかよっ!!」


「あ、そういえばさ。気になってたんだけど。お前、もしかして」


「あん?」


綺麗好きのグレー・Gは珍しく薄汚れた格好をしている。せっかくの衣装が台無しだ。


「お前、どうやってここに辿り着いたんだ?場所、書いてあっても、読めないだろ?」

「あ。それは、その……。かんだ!」


「は」


「ピヨン・Pのためだからな。オレ達は同族にはやさしいんだ!」


「え」


「だ、だか……。さ、冴えてるぜっ。オレ様の勘は誰より優れてるって言ってんだっ!」

「じ、自慢してるし……」


Bはまた笑いが込み上げてきた。


「な、なんだよ?」


「もういいって。無理すんな」

「なっ。ちげーよ。オレはだなぁ。Pがやべぇって聞いて、急いで……だから、その……ええと……」


「さっきのトラック、危うくきかけたんだよ。偶然止めたからよかったけど。お前、あの車がここ通らなかったらどうするつもりだったんだ?全く知らない土地に運ばれても、自力で戻れねーだろ」

「あ、確かに。言われて見れば」

無謀むぼうだな。ま、そんな賭けに勝つあたり、お前の悪運はそうとう強いんだな」

「大変だったろ。そんなに汚れるまで頑張ったんだな」


ぱんぱんと服をはたいてやる。


「な、なんだよっ」

「えらいえらい」

「あ、頭撫でるな。照れるだろー!!」

「はは。可愛かわいいやつ」

「ふ、ふんっ。オレ様はぬいぐるみだからな。可愛くて当然だぜ。もっとめやがれ」

「くっ」

「ああ?」

「す、素直じゃ……」


本日、何度目かの笑いが込み上げる。


素直じゃない。

ツンデレラーの間違いだろ。こいつ。


「そういや、お前、トラックのどこにいたんだ?後ろか?上か?」

「ん?ああ、それはだな」


説明を聞いて、蜂谷は微妙な顔をした。


「ぴらぴらのとこって。あの、タイヤの上についてるやつか」

「そんなとこ……危ないのに。よく頑張ったな」

「お、おう」


タイヤに巻き込まれていたら、やばかっただろう。飛び降りるチャンスはあっただろうに。

危険もかえりみずにつかまり続けるなんて、それだけ、必死だったってことかな。


「ん。そう。あーそうだ。あいつひどいんだぜ」

「何が?」

「話しかけても答えないし。無視して突っ走るしさ」

「いくらぬいぐるみでも、機械に言葉は通じないだろ」

「そのせいで、ぴらぴらしか掴まるもんなくなったんだぜ?やたら、暑いし、ガスもくもくで息詰まるし」

「はは。苦労が眼に浮かぶよ」


排気ガス排出の管が通ってるから、灼熱しゃくねつで、触れなかったんだろう。

ボディが布でも、火傷やけどはするからな。

それに、道路の下の方は排気ガスの溜まり場だから、トンネルとか最悪だろうな。

本当によくがんばったよ。


それに。

運転手に見つからなかっただけましか。

不審物扱いで「ぽい」確定だろうな。


「なーなー、それよりさ。あれ、いつになったらおわんの?」

「あー。いつ、だろうなー」


瀬田とパピヨンの無言のにらみ合いが続いている。


瀬田さんが道路に飛び出したパピヨンを捕まえるべく、トラックの前に突っ込んだ時はあせった。

だけど。相手もいい運ちゃんだったし。瀬田さんたちも怪我もなく無事だったし。

ま、転んだせいで、瀬田さんのクッション代わりに押しつぶされたパピヨンが、機嫌を悪くするのは想定外だったが。


ま、何とかなるだろう。


本日の巻き戻し、終わり。



「って、待て!オレの見せ場は?オレ様の見せ場返せ!瀬田~~~!!!」


グレジの絶叫が木霊する山からお伝えしました。




ヒロインであるピヨン・Pの活躍が縮小するなか、ストックネタが切れてしまったので、終了です。


7話完ということで、記録上は一週間といったところでしょうか。

瀬田と蜂谷はいつ仕事をしているのでしょうね。

にぃーぐるまーも謎のままですし。



またいつか、彼らが活躍する日まで、封。

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