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美形は敵です!


私がまだ高校生の頃、 師匠と出会った。

護身術を教えてくれた老人だ。

当時、余りにも必死な私に一から護身術を手解きしてくれ、私が護身術をあらかた体得した後は体術まで教えてくれた、恩人ともいえる人物。

幼少時から降りかかる男性関係の不幸で男性不信になりかけていた心を溶かしてくれた人でもある。

師匠のお陰で貞操を守ることが出来たし、時には正当防衛として不埒な輩に一発お見舞いすることで随分沈む心を救ってもらった。


そんな師匠に恩返しがしたいと整体やマッサージの通信講座を受け始めたのが大学生の頃。

元気な師匠も寄る年波には勝てないようで、常々「体が痛い」やら「腰が…」なんて言い始めたからだ。

通信講座で覚えた技術はそんな師匠を喜ばせた。

「あやめちゃんがいつか好きになった人に触れられるようにリハビリじゃよ」と後から聞いた時は、うまくのせられたようで悔しさを感じた反面、そこまで心配してくれていたのかと申し訳なく思ったものだ。


そんなこんなで修得した技術だったが、もしかしてこれで生きていけるんじゃない?なんて考え始めたのは些細なきっかけだった。


カランの町で暮らし始めて2ヶ月ほどたった頃、ジンとマライアがくたくたな様子で帰ってきた時に、マッサージをしてあげたのだ。治癒魔法を掛けながら。

すると、二人とも体が軽くなったと目を見開いて驚いた。私は二人の体が凝り凝りだったことに驚いたが。


その後、二人に聞いたところ、この世界にはマッサージというものはないらしいことがわかった。

それが始まりである。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「オリーさん、かなり腕が張ってますね!今日もお仕事だったんですか?」


「おうよ!俺らは鍛冶仕事が生き甲斐みたいなもんだからな!今はマッサージもか!ガッハッハ!」


商業ギルドで承認を受けてから早半年、私は今、カランの町中にある平屋を借りて『マッサージ店アヤメ』を営んでいる。

今日の最後のお客さんであるオリーさんはドワーフという種族の鍛冶職人だ。

開業して暫くはジンとマライアしか通ってくれる人が居なかったが、二人が宣伝してくれたようで、今は冒険者をはじめとする沢山のお客さんに来てもらえるようになった。

恐るべし冒険者ネットワークである。


「はい!終わりましたよ!オリーさん、腕はどうですか?」


オリーさんへの施術が終わり、効果のほどを確かめてもらう。

物として残らないものにお金を払ってもらっているので、毎回この瞬間が一番緊張するのだ。

オリーさんはぐるぐると腕を回し、こちらへ向いてニカッと笑顔を見せてくれた。

それを見て、私もほっと胸を撫で下ろす。


「いやぁ、毎回すげえ効果だな!鉛みたいに重くなってやがった腕が羽みてぇに軽い!また頼むわ!来週予約入れておいてくれ!」


「はい。ありがとうございました」


鼻唄混じりに店を出ていくオリーさんを見送って、ベッドへ腰掛ける。

二台のマッサージベッドと必要最低限のものしか置いてないこの店の奥は私の居住スペースだ。


「さてと!片付けして寝ますか!」


有難いことに、明日も朝から予約が入っている。

あともう一息!と気合いを入れた私が立ち上がった時に店の扉がノックされた。


「ん?オリーさん、忘れ物ですかー!?」


オリーさんが忘れ物でもしたのかと扉を開いた私は、そこに立っている人物を見てフリーズした。

明らかに仕立ての良い衣服に身を包んだ30歳くらいの銀髪碧眼の男性、そしてかなりの美形。

大事なことなのでもう一度言う。かなりの美形だ。


「あの、ここでマッサージをして頂けると聞いたんですが…」


耳をくすぐる心地よいバリトンボイスでハッと我に返った私は、あろうことか美形さんに向かって「げ!」と言ってしまったのだ。


「は?」


私のようなもさい格好をした女にまさかそんな反応を示されるとは予想もしていなかったのだろう。

美形さんは鳩が豆鉄砲をくらったような顔で呆然としている。


(やば!失礼だったよね!笑って誤魔化せるかな…いやいや!もさい女だから無理か!えーっと…とりあえず謝るか!うーん、でも美形とはなるべくお近づきになりたくないというか…)


脳内パニック中である。

なぜなら…美形というのは、意図せず厄介事を運んでくる不幸の運び屋なのだ。昔の私のように。

平々凡々と生活したいと願う私にとってもっとも避けたい人種なのである。

かといって、このまま帰す訳にもいかない。

明らかに仕立ての良い衣服から推測するに、十中八九、貴族かそれに連なる者であろう。

先程の私の暴言で不敬だとか騒がれても困る。



「…とりあえず入って下さい」


「…あ、はい」


不本意ながらも招かざる客を迎えた私は完全に不機嫌で、美形さんの口端が僅かに上がった事に全く気付くことが出来なかった。







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