出発点
「アヤメ、武具屋に行ってくる!あ、これも頼む!」
「私も」
「はーい」
ジンとマライアから受け取った洗濯物を受け取り、洗濯魔法を発動させる。
水球の中でぐるぐると回るシャツやローブ、パンツをチラリと確認してお金を数える。
カランの町へ着いてから早一年。
今やジンとマライアの洋服の洗濯係だ。
自分の服だけ洗濯するのも三人分もたいして変わらないし、宿無し文無し、しかも世間知らずという面倒な私を二人は「暫く一緒に居ればいいさ!」と有難い言葉で受け入れてくれた。
しかも、『魔力をそんな生活魔法に使うなんて…』と、洗濯係の私にささやかながら給金をくれる。本当に二人には頭が上がらない。
どうやらエリザ婆さんは特殊な人だったらしく、普通の人は緊急時でもない限り生活魔法を使わないらしい。本当にあの人はとことん常識というものをどこかに置き忘れてきたらしい。
マライアは魔法使いだし冒険者だから、魔力の大切さを知っているのだろう。
魔法を使う戦闘をする人からしたら、魔力というものはいわば生命線。
魔力が切れれば最悪、死に繋がるらしいし、魔物との戦闘中に魔力が切れれば魔法使いなんてただの人だ。はっきり言って邪魔でしかない。
(まぁ、生活魔法だけじゃ稼げないから他にもバイトしてるんだけどね…)
手元のお金を数えると、大金貨が15枚、金貨が30枚、細かいお金を合わせると、日本円で約200万円ほどあった。
一年やそこらで稼ぐには結構な金額である。
それもそのはず、唯一まともに出来る治癒魔法で冒険者や病人を治すバイトをしているからだ。
なんでも、治癒魔法持ちは珍しいらしく、毎日のように依頼が来る。
それでも、貧しい人からお金をむしりとるような真似はしたくなくて、殆ど慈善事業のようなもの。
「ちゃんと見あった金額を貰ってれば豪邸が建てられただろうに‥.」とジンに言われたけど、豪邸なんぞいらないのでなんの問題もない。
(お金も貯まったしそろそろかな…寂しくなるなぁ)
暫く遊んで暮らせそうな金額を貯めたのには理由がある。
考えてもみてほしい。
異世界定番の冒険者にならず、素顔を隠したままのもっさい女(しかも世間知らず)がこの世界でどうやって生きていけるというのか。
いっそ冒険者になってしまおうか?
素顔をさらしてしまおうか?
そう思う日もあったけど、漸くここまで来れた。
これからは一度目の人生で養ったスキルで生き抜いてやる!
(さぁ、始めようか。私の人生第二弾!)
私はお金をいれた布袋を手に鼻息荒く立ち上がる。
目指すは商業ギルド。
『マッサージ師』としてこの世界で生きるための最初の関門だ。
ジンとマライアには既にこう伝えてある。
『お金が貯まったらやりたいことがある』と。
魔法によって綺麗にたたまれた三人分の洗濯物を見て、なんだか少し寂しい気持ちになった。
なぜマッサージ師なのかは次話で明らかになります。
次こそは恋愛要素を入れられればなと。