子猫ちゃん?
「うわぁー、ビックリしたー!あんなんありなわけ!?」
森を歩き出してからもうどれくらいだろうか?
朝に家…というか小屋?を出たからまだ昼過ぎくらいだろうが、私は既に疲れていた。
歩き疲れた訳ではない。働きはじめてからは多少運動不足の自覚があるが、高校、大学時代は護身術のお陰で基礎体力はだいぶ鍛えられたのだ。
アラサーとはいえど、そこらのもやしっ子には体力なら負けない…筈。多分。
ならばなぜ疲れているのか?
それは魔物のせいである。
いや、そもそも魔物なのかすら不明な謎生物のせいだ。
(魔物ってさぁ、スライムとか狼みたいなのとかゴブリンとかそういうのだよね?)
なんて考えていた自分のゲーム知識が心底恨めしい。
まさかあんな姑息な手を使う生き物だとは!
私は動物か好きだ。
子犬や子猫なんて大好物といっていい。
そんな私が森の中で子猫に出会ったらどうするかなんて想像に難くない。
デレデレしながら「子猫ちゃん、迷子かにゃー」なんて寄っていった私が見たのは、口裂け女も真っ青なぐらいに大口をあけて、鮫のような鋭利な歯をのぞかす、最早猫でもなんでもない生き物だったのだ。
可愛い見た目に騙されて自ら敵の範囲に入り込むなんてなんたる不覚!!
反射的に飛び退いて攻撃を避けたものの、あと一歩遅ければかじられていただろう。
幸い、大きさは子猫位なので、蹴っただけで呆気なく死亡し、何とか危機は逃れた…が、はっきりいって魔物とはいえ、見た目は子猫ちゃんを蹴る行為は私の精神力をガリガリと削る。
私が耐えるか、それともかじられるかという葛藤を心の中で繰り広げ、漸く割り切って魔物を倒せるようになる頃には日も暮れ、森も抜けていた。
「…動物愛護団体に顔向け出来ない行為がやっと終わった…てかエリザ婆さん、魔物がどんな姿かくらい教えておいてよ…」
森を抜けた私が放った一言は、自分の無事を喜ぶ言葉ではなく、心からの安堵の溜め息と自称元王宮魔術師への怨み言だった。