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くそくらえ!

まずは自己紹介からはじめよう。

私の名前は結城あやめ、28歳。彼氏なし。

一般家庭に産まれおち、すくすくと育ち、小中学校を卒業後、そこそこの高校へ進学して、そこそこの大学を卒業後、今現在は、そこそこの企業に勤めている。


これだけなら、平々凡々な人生を歩んできた少し嫁き遅れのアラサー女子だろう。

今時未婚の30代など腐るほどいるので、その点はまぁいい。


問題は……


私が美女だということだ。



は?何?頭わいてんの?と言われようが事実なのだから仕方ない。

ちなみに両親とも『普通』を絵にかいたような容姿である。

捨て子だったのではないか?と悩んだ時期もあったが、現代医学の力によってそれは否定された。


それはともかく、私は自分が『美女』だということを楽観的には捉えていない。


「いいなー、可愛くて」

「美人は得だよね」

「男なんて選り取りみどりでしょ?」


私と付き合いの浅い人や、知り合い程度の人は口を揃えてそんな台詞を吐く。

その言葉の中に含まれる妬み、嫉妬、羨望に気づいてはいるものの、いちいち相手をするつもりもない。


では付き合いの長い友人は私をどう評価するのか?

それは一言『可哀想』だ。

この意見には大いに賛同できる。

むしろ、それに尽きるといってもいい。


なぜなら、幼少の頃から容姿でいい思いをしたことが一度もないから。

まず、小学生時代、学校帰りにランドセルを背負いながら帰宅中、誘拐された。

うちは一般家庭なのにも関わらずだ。

警察が早急に動いてくれたお陰で事なきをえたものの、犯人はロリコンの変質者だったようで、あと一歩遅ければ、監禁され愛でられるところだったらしい。今、思い出してもゾッとする。


次に中学校時代、私は美少女に成長し、それはそれはモテた。

上履きやリコーダー、果てには体操服が毎日のようになくなり、新しい物を揃えるために両親がいくら使ったのか怖くて想像すらしたくない。

結局犯人は捕まらず、変態な男子の仕業か嫉妬に駆られた女子の仕業かは今でもわからず仕舞いだ。


次に高校生時代、性に対して興味を持ち始めた男子生徒からは舐めるような視線を受けることが多くなり、時にはレイプまがいの事までされるようになった。全てが未遂に終わったのは、近所のお兄ちゃんの提案で護身術を習っていたからだろう。


次に大学生時代、身の危険を感じた私は週一で護身術という名の体術を、自主的に習うようになった。

それでも不埒な事をしようとする男は減らず、常に気が抜けないという、薔薇色には程遠いキャンパスライフを送るはめになった。


そして現在、大学を卒業し冷凍食品で有名な某企業に勤めるようになって早六年、上司のセクハラや男性社員の誘いをそつなくかわし、『鉄の防御を誇る女』という不名誉な二つ名まで付けられるようになった私は完全に気が緩んでいたのだ。



「あんたさえ居なければ!健二は私のものだったのに!!」


そう言いながらナイフを両手に握り締め、血走った目を向けて走ってくる女性を見るまでは。

ちなみに今居る場所は社内の食堂である。

今まで嫉妬から嫌味を言われたり、嫌がらせをされることもあったが、まさかこんな昼時の人の多い食堂で暴挙に出る人がいるなど誰が予想できるだろうか?


完全に不意打ちをくらった私は、好物の海老フライ定食がのるおぼんを抱えるように持っていたこともあって、護身術を全く活かせず、その女性によって左胸…つまり心臓を刺されたわけである。

薄れゆく意識の中で私が考えたのは…


(あぁ、海老フライが…つーか、健二って誰だよ!?やっぱ美人なんてくそくらえだ!)


という何とも死に様には相応しくない、心の叫びであった。


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