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その4

 突然ですが、僕の彼女との馴れ初めについて聞いてください。

 彼女の名前は熊野(くまの) 仁絵(にえ)

 僕の家のご近所さんで、僕と同い年の高校二年生の女の子。

 小学校一年生の時に同じクラスになったのが最初の出会いです。

 その頃の彼女はまだ、スーパーの紙袋で顔を隠してはいませんでした。

 くりくりとした大きな眼と、そばかすだらけの顔が非常に印象的な女の子。

 特別にかわいいとか、あるいは逆に不細工とかいうことはありません。

 本当にごく普通の女の子、ごく普通の小学生。

 僕らは普通に友達になり、一緒に遊ぶようになって、気がついたら学年が変わり、クラスが変わってもいつも一緒にいるようになっていました。

 おとなりさんちのJ子ちゃんは、学校に通学する時は一緒でしたが、クラスは一度も一緒になることはありませんでしたし、また彼女も女の子同士で遊ぶタイプの女の子だったので、小学校の頃の僕は、仁絵ちゃんと一緒にいることが多かったのです。

 まあ、そうはいっても他の男の子と遊んでいるのと同じような感覚だったわけですが。

 なんせ、仁絵ちゃんはよくも悪くも非常に男勝りな性格で、腕っ節が異様に強く、上級生が相手でもものともしない喧嘩の達人。

 そんな彼女と一緒に遊ぶということは、まあ、おままごととかはありえないわけで。


 どちらかといえば町内会の悪ガキどもを引き攣れた仁絵ちゃん軍団VS隣町の悪ガキ軍団の、仁義なき戦いごっこ的な。

 拳と拳で語り合ってしまうような、そんな毎日的な。

 平和主義者で争い事が嫌いな僕は逃げたかったのですが、何故かいつも彼女に強引に引きずりこまれて大変な眼に遭う的な。


 そんなこんなの毎日が過ぎて行ってやがて僕らは小学校を卒業。

 僕も、仁絵ちゃんも、J子ちゃんも同じ中学校に進学することになりました。


 ちなみにこのときすでに仁絵ちゃんの身長は百六十センチを超えていました。

 『つい先日小学校卒業したばかり、ぴちぴちの新中学一年生』・・にはどうやっても見えません。

 誰が見ても高校生にしか見えない、という非常に大人びた姿をしていました。

 入学式の時など中学の制服着ているのに、『ここは中学校ですよ。高校は隣の二丁目ですよ』なんて用務員さんに言われて、かなりへこんでいたりしましたが。


「よ、余計な説明しなくていいの!!」


 すいません、NGが入ったので、ここはちょっとカットで。


 ごほん。


 話を元にもどします。

 この時点でも仁絵ちゃんはまだ、スーパーの紙袋をかぶってはいませんでした。

 一番のチャームポイントである大きな眼はあいかわらずでしたが、そばかすはかなり目立たなくなっていて近くで見ないとわからないくらい。

 男か女かわからないような顔も、はっきり女性とわかる柔らかい感じになっていました。

  

 いや、過去形なのは、今の顔を僕が知らないからなのであって、彼女と付き合っていたのが過去のことだからとかそういうわけではありません。

 彼女とは現在進行形でお付き合いしていますです。

 ってか、さっきちゃんと僕いいましたよね?

 『彼女は僕の恋人です』って断言してますよね。


 ここのところはっきり言っておかないと非常にヤバいことになるので。


 まあ、ともかく彼女は僕の恋人なのです。


 僕の恋人なのです。


 大事なことなので二回言いました。


 言ったからね。


 いいよね?


「はい、よくできました」


 よかった、なんとか赤点取らずに済んだようです。


 ともかく話が先に進まないので、とりあえず、彼女との馴れ初めに移りたいと思います。


 え?


 なんでスーパーの紙袋をかぶって顔を隠すようになったのか、そっちを先に話せって?


 いや、ですから、まさにそのことなのですよ。

 そのことを話そうとしているのです。


 あれは中学一年生の冬休みのことでした。


 中学生になっても、相変わらず喧嘩三昧の毎日を送っていた仁絵ちゃん。

 そして、相変わらずそれに巻き込まれる毎日を送っていた僕。


 ある日、いつものように隣町の中学校の不良達に近くの廃工場に呼び出された仁絵ちゃん。

 いつものようにそいつらを一方的にボコボコにし、いつものようにそれに巻き込まれた僕は一方的にボコボコにされてしまったわけですが、仁絵ちゃんがボコボコにした不良達の中の一人が、やけくそになって廃工場に火をつけてしまったのです。

 燃え上がる廃工場。

 元々ペンキ工場だった為、尋常ではないスピードで火がまわり、あっというまに一面火の海。


 不良達は自分達が警察に捕まるのを恐れてとっとと逃げ出したのですが、どんくさい僕は火の中に取り残されてしまったのです。

 熱いし煙たいしで、どうにも身動きが取れない。

 しかも、自分がどこにいるのかもわからない。

 あ~、僕、ここで死ぬのかな。

 煙をすって朦朧とする意識の中、ぼんやりとそんな風に生きることを諦めかけていた僕。


 そんな僕の前に、スーパーヒーローが現れたのです。


 そう、仁絵ちゃんでした。


 彼女は自分が火傷を負うことも厭わずに、火の海を突っ切って僕のところにやってきたのです。

 そして、煙をすって動けなくなってしまっている僕を背中に担ぐと、またもや火の海へと突進。


 火で脆くなっている廃工場の壁を強引に体当たりでぶち壊して外に脱出し、僕を助けてくれたのでした。


 こうして、僕は一命を取り留めました。


 しかし。


 仁絵ちゃんは大火傷を負ってしまったのです。

 僕を地面に下ろしたあと、全身大火傷でぼろぼろになった仁絵ちゃんは、ゆっくりと地面へと横たわりました。


 そんなひどい状態の仁絵ちゃんを見て僕は絶叫しました。



 仁絵ちゃん、ごめん、ごめんよ!! 僕のせいでこんなことになっちゃって!!


『いいのよ盛本くん。元はと言えば私のケンカに盛本くんを巻き込んでしまったのが原因なんだもの。自業自得だわ』(本人実演中)


 そんなことないよ、僕が弱くてどんくさいせいで、こんなことに。


 地面に横たわる仁絵ちゃんは、泣きじゃくる僕を本当に心から気にしてはいけないよと、優しい声で慰めてくれました。


 しかし、その表情は僕にはわかりませんでした。

 怒っているのか、それとも無理して笑っているのか、あるいは泣いているのかも。


 何故なら、彼女の顔はまっくろに焼けただれて、もう、どこにも元の面影は残っていなかったからです。

 大きかった眼は黒くただれてはれ上がり、こげついた肌のせいでどこがそばかすで、どこがそうでないかもわかりません。


 僕はどうしたら仁絵ちゃんに償えるんだろう!? どうしたら、仁絵ちゃんにこの恩を返すことができるだろう!?


『恩を返すだなんて、そんなこと考えなくていいのよ。盛本くんは悪くないわ。私が悪いの。でも、でも、この顔じゃあ、きっともう誰も相手してくれないわね(じ~~っ)』(本人実演中)


 ぐふっ!!


『こんな、うっかりトースターで焼き過ぎちゃったパンみたいな顔になった私を好きになってくれる人なんて、きっといないだろうな(じ~~~っ)』(本人実演中)


 がはっ!!


『お化けみたいな顔してるよね、私。盛本くんだって、こんな私気持ち悪いよね? 彼女になんてしたくないよね?(じ~~~っ)』(本人実演中)


 そ、そんなことないよ!! 

 バケモノだなんて、全然そんなことないよ、ないない。

 気持ち悪いなんてそんなことあるわけないよ。

 仁絵ちゃんだったら、喜んで彼女にしたいよ。

 他に立候補者がいないなら、真っ先に僕が立候補したいくらいだ。

 いや~、きっと仁絵ちゃんだったらいいお嫁さんになるだろうしなぁ。


『ほんと?』(本人実演中)


 ほんとほんと。


『ほんとにほんと?』(本人実演中)


 ほんとにほんと。


『じゃあ、私と付き合ってくれる? 彼氏になってくれる? そして、私をお嫁さんにしてくれる?』(本人実演中)


 えっ?


『彼氏がダメなら結婚してくれるだけでもいいけど』(本人実演中)


 えっ? ちょっ


『大きなことを望んでいるわけではないの。私は盛本くんと結婚して、盛本くんが将来公務員になって年収七百万くらいの収入を確保して、都心近くの駅にも近い場所に一戸建ての家を買って、車は三台くらいで、毎年二回は海外旅行に行けて、子供三人くらいで、両親とはどっちとも別居で、子供の保護者会で知り合ったお母さん友達と週一くらいでお食事会できて、たまに結婚記念日に指輪を買ってくれるか、貴金属プレゼントしてくれるくらいの結婚生活が送れれば、それで、それだけでいいの!!』(本人実演中)


 うんうん、なるほどね、あるある。

 そういう人生設計って大事だよねぇ。


 って、


 具体的すぎるわああああああああっ!!

 いくらなんでも具体的すぎるだろ、それ!?

 だいたい年収七百万ってなによ、どんだけ生々しいのよ!!

 それに都心近くで駅近くに一戸建てって、海外旅行に毎年二回て、結婚記念日のたんびに貴金属て!?

 僕、どれだけ頑張らないといけないのよ!?

 っていうか、さっきから気になっていたんだけど、なんか仁絵ちゃん、妙に元気じゃない?

 

『ぎくっ』(本人実演中)


 全身大火傷で、普通しゃべるのも辛いはずなのに、普通に僕としゃべってるし、それに心なしか、顔の腫れがひいてきているような気も。


『き、気のせいよ、って、いうか、早く返事してよ、もう。私、頑張ったんだからね!! 火傷しても盛本くん助けてあげたんだからね!! 彼氏になるくらい別にいいでしょ!? その延長で結婚するくらい別にいいでしょ!?』(本人実演中)


 いやまあ、それはそうなんだけどさぁ。

 確かに僕、命を助けてもらってるからぁ、そう言われると、うんって言ってあげたいんだけど。

 だけどねぇ。

 彼氏になるのはともかく結婚となるとそんな簡単には返事できないしさぁ。

 そもそも、なんでそんなに焦っているの?

 なんか、今、返事しないとまずいことでもあるの?

 とりあえず、病院いって治療してもらうのが先じゃないのかなぁ?


『ぐずぐずぐしてたら、治っちゃう・・あわわ。いや、そ、そんなことどうでもいいの!! それよりも、何? 盛本くんは私のこと嫌いなの?』(本人実演中)


 いや、好きだよ。

 仁絵ちゃん、僕の好みにドストライクだから。

  

『え? そうなの?』(本人実演中)


 だって、僕おっぱい星人だし。


『・・』(本人実演中)


 巨乳至上主義者なので、仁絵ちゃんのこと完全にエロい眼で見てるし。

 ほら、仁絵ちゃん、最近すっごい胸大きくなってきたからさ。

 僕、毎日どきどきしっぱなしなんだよね。

 もう、それ目当てで仁絵ちゃんに毎日ついていってるようなもんだもの。

 喧嘩? 不良? 乱闘? だからなに?

 仁絵ちゃんのド迫力おっぱい間近で見るためなら、命だって惜しくはないんじゃあああああっ!!


『・・』(本人実演中)


 はっきり言って彼氏になったら、かなりエロいことしますけど、いいんですか?


『・・』(本人実演中)


 ・・


『・・』(本人実演中)


 ・・


『じゃあ、揉んだり舐めたり吸ったりさせてあげるから彼氏になって、結婚してくれる?』(本人実演中)


 おっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇいっ!!


『ええんかい!? そんなんでええんかい!? あんた、どんだけエロいのよ!?』(本人実演中)


 こうして僕と仁絵ちゃんは晴れて恋人同士になったのでした。

 回想シーンの出演、熊野 仁絵さん、ご協力ありがとうございました。


「いえいえ」


 その後、仁絵ちゃんは病院にいって、火傷を治してもらったんだけど、顔だけは治らなくて。

 僕にその火傷で醜くなった顔を見られたくないって、仁絵ちゃんはスーパーの紙袋をかぶって生活するようになったんだよね。

 事情が事情だけに、学校側もそれを被って学校にくることを認めている。

 まあ、僕は顔で人を判断したりしないから、仁絵ちゃんがどんな顔をしていようと構わないんだけどね。

 仁絵ちゃんのいいところはそんなところじゃないし!!


「ほんと、盛本くんって大きなおっぱいが好きよね」


 違うよ、仁絵ちゃん。

 好きなんじゃない。


 大好きなんだぁ!!


「へぇ。じゃあ、小さい胸の女の子のことは好きじゃないんだ」


 うん、あんまり好みじゃない。

 っていうか、僕はちょっとの~さんきゅ~っていうか・・


 あれ?


 この声、仁絵ちゃんじゃないよね?


 っていうか、このダークマターには覚えがあるというか・・


 いででででででっ!!


 誰かが、僕の頭をわしづかみにしてるっ!!


 イタイイタイ痛いっ!! 割れる割れる割れちゃうから!!


 盛大に悲鳴をあげながら後ろを振り返った僕。

 そこには、全身血だるまで仁王立ちする小さな般若の姿が。


「げ、げええ、J子ちゃん!?」


「まぁ~るぅ~ちゃ~ん」

 

「ひ、ひいいいいいいっ!!」


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