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その2

「大変。もうこんな時間だわ。マルちゃん、そろそろ学校行かないと遅刻しちゃう」


 台所の洗物をすっかり終え、今日の洗濯も完了したJ子ちゃんが、いまだに床を磨き続けている僕に声をかけてくる。


 まあ、だいたい赤いところはなくなったから、もういいか。

 後は、帰ってからもう一度綺麗に掃除しよう。


 それにしても・・


 真っ赤な雑巾がバケツの中から溢れているこの光景。



 なれないわ~。


 いつまでたってもなれないわ~、これ。


 無理無理無理、絶対無理。


 一生なれない。


 なんて、ブルーになっている僕の横で、かわいいひよこのアップリケのついた血だらけのエプロンを取ったJ子ちゃん。

 小さなカバンを手に持つと、朗らかな笑顔を僕のほうへと向ける。


「ごめんね、マルちゃん。学校終わったら私も手伝うから。とりあえず、学校に行きましょ」


 ツバメのような軽やかさでくるりと身を翻すJ子ちゃん。

 その反動で血だらけのスカートがふわりと浮き上がり、その白い足の上にある、見えてはいけない部分が思わず見えそうになり、僕は慌てて目をそらそうとした。


 しかし。


 僕の目は違うところに釘付けになる。



 彼女の胸。


 セーラー服にぽっかりあいた、不自然な大きな穴に。

 そこから、小さなピンク色のつぼみがはっきりと見えていて、僕はそれを見て完全にフリーズした。


「どうしたの? マルちゃん。や、やだ、そんなに見詰めないで。マルちゃんのえっちぃ」


 凝視したままフリーズしている僕に気がついたJ子ちゃんは、真っ赤になった顔を両手で隠すと、いやんいやんと身をよじりながらしきりに恥ずかしがる。



 が、しかし。


 って、お~い!!


 隠すところ違うから!!


 そこじゃないから、隠すところ!!


 もっと隠さないといけないところあるから!!


「え? どこどこ? って、あっ、もうっ!!」


 そう言って、今度はスカートを抑えてしゃがみこむJ子ちゃん。


 って、ちげ~~~っ!!


 そこじゃないから!!

 

 いや、確かにそこも見えそうになっていたけれども。

 自然と目がそこにいってたことは否定しないけれども。

 でも、違うから!!


 そんな見えそうで見えないチラりとかそういうのじゃないから。

 完全に丸見えだから!!


 チラじゃなくてモロだから!!


「す、スカートに穴があいてるの? どこどこ? やだもう、早く言ってよ」


 だから、ちげ~~って!!

 スカートから離れてってば!!

 そこじゃないのよ。

 さっき、包丁で刺しちゃったところだよ、わかるでしょ!!

 胸だよ、胸!?


「え・・胸?」


 僕がそう指摘した瞬間、J子ちゃんの様子が一気に変わる。


 いつものぽやや~んとした春の陽気のような雰囲気から一変。

 どす黒い何かを全身から噴出させた彼女は、開いているのか閉じているのかわからない細い目を限界までくわっと開いてこちらを凝視する。

 そこには不気味に光る真紅の瞳。

 それも半端な光具合ではない。

 今にもビームが発射されそうなくらい、えげつなく光っている。


 し、しまった~~~。


 いつも温和でおとなしいJ子ちゃん。

 誰に何を言われようが、何されようが、滅多に怒らないJ子ちゃん。


 しかし、そんなJ子ちゃんにも決して触っちゃいけない逆鱗がいくつかあるのだ。


 その一つが胸のことである。

 

 彼女は自分のささやかな。

 というか、ささやかすぎる胸のことを指摘されるとキレル。

 キレるというか、その・・

 キレるという言葉すら生ぬるいくらいに暴れ狂う。

 

 なので、彼女の前で胸の話は絶対に禁止だ。

 長年の付き合いで、これを破った者がどうなるのか、僕はよ~く知っている。

 よ~く知っているがしかし。


 思わず破っちゃたよ、僕ちゃん!!


 だって、仕方ないじゃん!!

 このままだと、モロ見えのまま登校だよ?


 ってか、そもそも血だらけのセーラー服で登校すること事体まずいでしょ!?

 それを教えてあげているんだからさ、むしろ僕って親切じゃね?

 ってか、僕のやってること正義じゃね?


 と、胸の中で必死に言い訳してみるが、勿論、目の前のJ子ちゃんには聞こえないわけで。

 なんかどこかのゲームのラスボスのような感じで激怒したJ子ちゃんは、ズンズンとこちらに迫ってくる。


「胸が、私の胸がどうしたっていうのかしら? 小さいってこと? 小さいっていいたいわけ?」


 小さいっていうより、むしろ全然ないっていうか・・あわわわ。


「ま~る~ちゃ~ん」


 ちちちちち、ちが、ちがうちがう、ちがうのよ、J子ちゃん!!


「乳が違う? ああ、そうね。確かに私の胸はマルちゃんの好みの胸じゃないわよね。そうよね」


 うん、確かに僕はちっちゃいよりも大きいほうが・・あわわわわ。


「ま~る~ちゃ~ん」


 思わず本音が、あわわ、いや、口が滑った、ひええ、いや、真実が。


 ちゃうねん、ちゃうねん、そうやないねん。

 そういうことやないねん。

 僕の嗜好はどうでもいいねん。

 

 だから、そうじゃなくて、セーラー服血塗れだし、スカートも血塗れだし、しかもセーラー服穴があいてるし。

 それでもって、セーラー服に穴があいていて、中身みえちゃってるよっていいたいわけですよ、僕わ。


 ほら、中身見えちゃってるってことは、ほら、中の下着っていうか、ぶ、ぶ、ブラジャーというか、それにも穴があいているわけでしょ?


「・・」


 あれ?


「・・」


 なんか。

 なんか、J子ちゃんさっき以上に怒ってない?

 あれ?

 なんで?


「私」


 へ?


「ブラジャー・・つけてない・・」


 つけてない?

 あ、つけてないの?

 ああ、そっか、小さすぎてつける必要ないのか。

 そっかそっか。

 J子ちゃん、ほんと小さいもんね。

 あっはっは。


「まぁ~~るぅ~~ちゃぁ~~ん」


 あっ!!


 し、しまっ、





 みぎゃああああああああああああああああああっ!!

   

  


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