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その1

 突然ですが、僕の幼馴染について聞いてください。

 彼女の名前は十三(じゅうそう) J子(じぇいこ)

 僕の家のお隣さんで、僕と同い年の高校二年生の女の子です。

 僕的にはかわいい部類には入る容姿の持ち主だと思いますが、人の好みはそれぞれなので一般的にはどうかはわかりません。

 目は開いているかどうかわからないほど細いです。

 耳と鼻は普通かな。

 口は小さく見えるけど、物凄い大食らいで、ご飯を食べるときは口がありえないくらい広がります。

 顔は小さいです。

 髪の色はダークブラウン、長さは耳がはっきり出るまで刈り込んでいます。

 上のほうはそれなりに長いので、男の子には絶対見えませんが、女の子として見ればかなりボーイッシュな感じを受けるのではないでしょうか。

 胸はありません。

 かわいそうなくらいありません。

 下手すると男であり胸なんか全くないはずの僕のほうが大きいかもしれません。

 でも、このことについてあんまり詳しく言及しすぎると、僕の命が危ないので胸についてはこの辺でやめておきます。

 身長はかろうじて百四十センチある程度で、かなり小柄で、やせています。

 そのミニマムな体型からすると、足はかなり長いほうで、ミニスカートは結構似合います。

 性格は基本的には明るく活発な性格の持ち主で、アウトドア派で休日には山に海にと大忙しな女の子です。

 部活には入っていませんが、陸上部から毎日のようにスカウトがくるほど足は速いです。

 めちゃめちゃ早いです。

 ありえないくらい早いです。

 たまに彼女には加速装置か瞬間移動装置がついているのかも知れないと思うときがあります。


 まあ、彼女の足の速さはともかくとして、性格の話にもどります。

 彼女は明るく活発だけなだけではなく、世話好きで優しくもあります。

 困っている人を見過ごせず、ついつい世話を焼いてしまうような人物なのであります。

 基本的に。

 あくまでも基本的にですが。

 

 ごほん。


 気を取り直して説明を続けます。

 僕の両親は父と母ともに海外勤務。

 日本に僕を残し、父は中国で、母はアメリカで全員別々の場所で暮らしています。

 そんなわけでいつも家にひとりぼっちの僕なわけですが、小さい頃から家事全般が得意なJ子ちゃんが世話をするために僕の家に通ってくれています。

 おかげで僕は毎日清潔な衣服を身につけることができ、そして、おいしいご飯を食べることができています。

 そんなJ子ちゃんなので、僕は彼女のことが大好きですし、いつも心の中で感謝しています。

 さて、ここからが本題です。

 僕の幼馴染のJ子ちゃん。

 彼女にはいくつか大きな問題があります。

 大きなというか、大きすぎるというか、はっきり言って僕の手にはあまるというか。

 いや、さっきもいいましたけど、僕はJ子ちゃんのこと大好きですよ。

 血はつながってないけど、実の姉弟というか、兄妹というか、そんな風に思っていますしね。

 なので、できれば力になりたい。

 なってあげたい。

 そう思っているんですよ。

 いや、本当に。


 でもね・・

 その中でも特にある一つの問題が。

 その。

 なんというか。

 僕には手が余るというか。

 解決しようとすることすらおこがましいというか。

 そんなことを考える僕自身に対し、大きな声で『身の程を知れ、この愚か者が!!』と激しく罵ってやりたいというか

 つまりその。


 ないわ~。


 絶対ないわ~。


 僕の力ではどうにもできんわ、この問題は。


 無理無理無理、絶対無理。


 どんな問題かというとですね、例えば。


「きゃああああああああっ!!」


 あ、J子ちゃんの声だ。


 また台所でこけたのか。

 

 ちなみに今僕は自宅です。

 時間は朝。

 高校に登校する前です。

 J子ちゃんは、僕の朝ご飯と昼のお弁当を作る為に通ってきているのです。


 ありがたいことです。

 

 ありがたいことですが、怪我には注意してほしいのです。

 彼女自身の為にもというよりも、どちらかといえば僕の為に。

 僕の脆弱極まりない心の平穏の為に。

 彼女には怪我をしてほしくない。

 いや、僕だけでなく、僕も含めた周囲の為にも。

 是非。

 そこは特に。


 いやまあ、それはまあ、ともかくまあ。


 とりあえず、すでに起きて布団をたたみ、高校の制服に着替えて準備万端状態であった僕は、台所へと急ぎます。


 もう、台所で何が起こっているか、だいたい想像がついているのですが、一応エチケットとして急ぎます。


 そして、エチケットついでに台所のJ子ちゃんに大声で呼びかけます。





 J子ちゃん、大丈夫かい!!(棒読み)





「えへへ、転んだ拍子に心臓に包丁がささっちゃった。うっかりうっかり」


 僕の予想通り、台所は血の海でした。


 そして、その真ん中でかわいらしく座り込んだ小さな少女が、口から血をごぽごぽ吐き出しながら僕に笑顔を向けてきます。

 セーラー服の胸の部分にはがっつり出刃包丁が刺さっています。

 

 ってか、こわっ!!

 怖いよ、J子ちゃん!!

 完全にスプラッタ映画の世界だよ、笑顔浮かべておけばいいってもんじゃないよ、全然誤魔化せられるシーンじゃないよ!?


 そもそも、それ『うっかり』で済ませられるレベルじゃないからね!!

 完全にアウトだからね。

 人間じゃなくても普通に即死だから。

 ヒグマでもゾウでも心臓に包丁ささったら死ぬからね!!

 そんなピンピンしてないからね!!

 えへへ、なんて笑ってられないからね!!


「え? そうなの?」


 そうなのじゃないでしょ!?

 何、その、『今、初めて知った』みたいな表情。

 常識だから。

 誰でも知ってることだから!!


「だってだって、お父さんもお母さんも教えてくれなかったし」


 教えてもらわなくても普通わかることだから。

 ってか、それ見ただけでわかるよね?

 めちゃめちゃ大変な状態だよね?

 

 はい、きょろきょろしない。

 自分の足元よ~く見てみましょう。

 血がどばどばでてます~。

 口からも血がどばどばでてます~。

 普通の人ならこれ見てどう思いますか?


「えっと、ケチャップごぼしちゃったとか?」


 あ~、なるほどね、うっかりケチャップこぼしたりはあるよね、あるある。


 って、なんでだああああああああ!!


 どんだけ、ケチャップこぼしたらこうなるのよ

 一体、何本ケチャップぶちまけてるのよ。

 ありえないでしょ!?


 あのね、J子ちゃん、毎回毎回口をすっぱくしていってるけど。

 何回言ってもJ子ちゃん人の話聞いてくれないけど。

 一応わかったふりして、スルーしてるのもわかってるけど。

 もうなんか、一種のお約束状態になってるけど。

 半分諦めているけど。

 それでもこう、なんか言わないと胸がもやもやするというか、イライラするから言わせてもらうからね。

 ちゃんと聞いてね。

 ってか、こっち見てね!!

 

 あのね、J子ちゃん。


 それ普通、死んでるから!!


 普通の人だったら、もう生きてないから!!


「・・」


 ・・


「・・」


 ・・


「もう、マルちゃん、ほんと冗談が上手なんだから」


 冗談じゃねええわあああああああああっ!!






 この後、彼女は何事もなかったのように心臓から『きゅぽんっ』なんて間抜けな音とともに出刃包丁を抜いて、その後、普通に僕の朝ごはんと昼のお弁当を作ってくれました。



 そうです。

 

 僕の悩み、それは。


 幼馴染が不死身の魔人だということなのです。







「マルちゃ~ん。私、食器洗っておくから、台所のフローリング綺麗に拭いておいてね」


 は~い。


 って、自分でやってくれえええええええっ!!


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