短編１２

「先輩なんか嫌いです」

彼女は俺に向かってそう言った。

「先輩嫌です」

続けて言った。

いや、普通に傷つくんだけど。

「なんで嫌なんだよ」

流石にツッコんだ。

「……なんか嫌なんです」

「なんかって言われても」

「先輩なんなんですか」

「いや君の先輩だけど」

「違います。あたしが言いたいのはそういうことじゃないんです」

「じゃ、どういうこと？」

「……知りません」

何なんだろうか。

困るんだけど。

俺、彼女になんかしただろうか？

「俺、君になんかしたっけ？」

「いえ、別に何もしてませんよ」

「じゃあなんで嫌なんだよ」

「……嫌です」

「普通に傷つくんだけど」

「……嫌なんです」

完全否定されてしまった。

……そこまで嫌うか？

「あのなぁ」

「何ですか。何なんですか、もう。先輩ことなんか見たくないです」

「酷いこと平気で言うなよ！」

「もう帰ってくださいよ。あたしは１人でも大丈夫ですから」

「駄目」

「何でですかぁ」

「こんなに辺りが暗い中で女の子１人で帰らせられるかアホ」

「大丈夫ですよ。いざという時は叫びますから」

「本当に叫べんのか？」

「叫べますよ。やーって大声で言えばいいんでしょ？」

「やっぱりアブねえよ」

「大丈夫ですって！」

「駄目」

「何でですか。あたしが大丈夫って言ってるんだから大丈夫ですよ」

「俺が大丈夫じゃない」

夜道を女の子１人で帰らせる男子なんかいるかっつーの。

全く、この後輩は先輩の気も知らねえで。

「何でですか」

「お前なぁ。どこの世界に後輩の女子１人で帰らす奴がいるんだよ。心配だからに決まってんだろうが」

「……やっぱり先輩なんか嫌いです」

「だから何でだよ！」

「分かりませんか？」

「え？俺やっぱなんか言った？」

「何にもしてないですって」

「分かんねえ奴だなお前」

「あたしも先輩が分かりません」

そんな事を言う可愛い後輩だった。

……本当、妹かってくらい可愛い後輩だ。

まあ、なんでか好かれてはないんだよなぁ。

どうして嫌われてんのかなぁ。

いつか、彼女とも仲良くなれる日がくればいいな。

「なあ後輩」

「なんですか先輩」

「俺のことお兄ちゃんって呼んでみてよ」

「嫌ですよ」

「やっぱり？」

「当たり前です」

「だよな」

そう言って俺は笑った。

どうやらこの可愛い後輩と仲良く出来るのは当分、いや下手したら不可能な話なのかもしれない。

それでも、まあ今が楽しいからそれでいいのかもしれない。

そんなことを思う今日この頃だった。