6話「焦る必要はない」
注文を終え、改めて向かい合う。
暫し沈黙が訪れる。
高価な宝玉のような藍色の瞳にじっと見つめられると何とも言えない気分になった。
「僕の名はエッダスといいます」
まず彼は名乗った。
「アイリーン・ミシェラと申します」
その流れに乗せられてこちらも名乗る。
「ではアイリーンさん、改めて、よろしくお願いします」
「こちらこそです」
お見合いか何かみたいな空気になってきた。
「お茶に誘ってくださりありがとうございます」
「いえ、突然勝手なことを……すみませんでした」
「そう仰らず。最初は少し戸惑ってしまいましたが、不快ではありませんでした。素敵なお誘いに感謝しています」
心なしか気まずくて、口の中だけで「お気遣いに感謝します」と呟く。
「エッダスさんはお茶お好きですか?」
「紅茶のことですか」
「あ、はい! そうです! そういう意味です」
「好きですよ」
「なら良かったです。無理に誘ってしまったかと一瞬焦りました」
その頃になって注文していた紅茶が届いた。
滑らかな材質の白いポットからは微かに熱が湧き上がってきている。
「アイリーンさんについても少し聞かせていただいても?」
「何でも聞いてください、答えられる範囲でお答えします」
ポットからカップへ温かい紅茶を注ぐ。
淡い湯気がふわりと奥深い香りを連れてくる。
周囲の席に着いていた人がたまたま複数組退店していき、その結果店内が少し寂しい雰囲気になってきた。
「王都暮らしですか」
「いえ」
「ではお出掛けか何かで」
「はい、買い物中でした」
今は取り敢えず話がしたい。
店内の寂しい空気を払しょくできるように。
話題は何でもいい。
「そうでしたか。なんとなくそんな気がしていました。……変な話ですが」
「エッダスさんはこの辺りの方ですか?」
「まぁそうですね……それに近い感じですかね」
親しいのかと言われればそうではないかもしれない。ただ、彼の言動からは悪意は感じない。それゆえこの程度の気まずさなんてそれほど気にはならない。
それに、誰だってはじめはこういうものだろう。
なんせ私たちは今日出会ったばかりなのだから。
「王都の素敵なところとかあります?」
「素敵なところ」
「はい、せっかくの機会ですし知ってみたいなと思いまして」
「そうですか」
「何かあります?」
「素敵なところ……そうですね、王城近くの薔薇公園、などはどうでしょう」
「薔薇公園!」
「そのままのイメージです、薔薇が咲いている公園で」
「薔薇が……! それは素敵ですね、きっと綺麗でしょうね」
カップからの柔らかな熱を唇で感じながら紅茶を飲む。
「いつか行ってみてください」
「はい!」
薔薇が咲き乱れる公園。
想像するだけでも心躍る。
きっととっても綺麗だろうなぁ……。
「あ、美味しい」
想像以上に魅力的な紅茶の味わいに思わず感想を述べてしまう。
「ケーキも注文します?」
「いえ、大丈夫です」
「アイリーンさんは甘いものはそんなに好きじゃないですか?」
「好きですよ」
「じゃあケーキも」
「お気遣いありがとうございます。でもいいんです。せっかくの美味しい紅茶ですし、今は紅茶そのものの味わいを感じたいので」
すると彼はハッとしたような目をして「そういうことですか」とこぼした。
「紅茶を愛していらっしゃるのですね」
「特別詳しくはないですけど……素人です、でも、好きなんです」




