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通学電車でトナラーから助けたクラスメイトのSSS級美少女が毎日のように俺の隣に座ってくるようになった  作者: 剃り残し


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「歩数稼ぎ」の約束通り、自宅の最寄り駅で一緒に電車を降りて外に出てきた。


 学校と違い、この時間は「素」の彼女だ。制服は同じはずなのに、纏う空気がまったく違う。


 並んで歩く。ただそれだけのことを妙に意識してしまって一歩一歩がぎこちなくなる。


「本庄さん、散歩ってどこに行くの?」


 本庄さんは「んー……」と考え、駅前にある地図を見てある地点を指差した。


「ここの公園とかどうかな? ありきたりだけど」


「別に散歩の行き先で珍しいところに行かなくてもね」


「ん。そうだよね」


 本庄さんは無表情なまま公園の方へ向かって歩き出したのだが、何かを思い出したように回れ右をして俺を見てきた。


「ね、高崎くん」


「ん?」


「遠回り、しよっか?」


 本庄さんが、俺の顔を下から覗き込むようにして言った。


「なら……まっすぐ行かずに商店街でも行ってみる?」


「ん。サイコー」


 多分本庄さんの中ではどれも同じ序列なんだと分かるくらいに棒読みの無表情でそう言った。


 ◆


 特に何を話すでもなく、二人で並んで商店街を歩く。


 この沈黙が気まずいようで、でも変に心地いい。俺たちの歩幅が、無意識のうちに揃っていくのがわかる。


 その時、香ばしくて甘い匂いが漂ってきた。


 見ると、小さな手作りドーナツ屋の看板が見えた。


「じゅるり」


 隣から、やけに生々しい、欲望に忠実な音が聞こえた。


「……『ばらの花』?」


 俺がそう言うと、本庄さんはきょとんとした後、ふふっと小さく吹き出した。


「ふふっ。それはくるり……あー、ドーナッツが食べたいな。あなたと食べたいな。けどなぁ……」


 本庄さんは左右に揺れながらメロディをつけてドーナツを食べたいと主張する。


「な、何かあるの?買えばいいじゃん」


 尋ねると本庄さんはお店のショーケースを、この世の終わりのような目で見つめながら、深いため息をついた。


「や、歩数は稼ぎたいけど、カロリーをそれ以上に稼いだら本末テントウムシだなって」


「……本末転倒、ね。ドーナツは真ん中に穴が空いててゼロの形をしてるからゼロカロリーって話もあるよ」


「や、ゼロカロリーなわけなくない? 小麦粉を揚げてるんだよ?」


「本庄さんに真人間側に立たれると困るんだけど!?」


「ふふっ。たまには、ね」


 本庄さんはにやりと笑ってもう一度ドーナツのショーケースを見つめる。


「でも誘惑がすごい……あのチョコがけのやつが私を呼んでる……『食べて欲しいドナ』って言ってるよ」


「ドーナツの語尾ってドナなの!?」


「や、高崎くん」


 本庄さんが何やら真面目な顔で俺の方を見てきた。真剣な瞳がじっと俺を見つめる。


「な……何?」


「今更だけど、ドーナッツ? ドーナツ? どっち?」


 どうやら言い方に引っかかっていたようだ。


「俺はドーナツ派かな。店の表記も『ドーナツ』だし」


 俺は目の前にある店の看板を指さしてそう言う。


「や、それはぐうの音も出ない根拠ドナね」


「小さい『ッ』の有無はどっちでもいいけどその語尾が気になるかな!?」


「ドーナツは二拍子でドーナッツはシャッフルビート。ドーナッツの方が愉快。よってドーナッツ」


「にっ……二拍子?」


「何回も繰り返し言ってみて。『ドーナツドーナツ』って」


 本庄さんが首を前後に動かしながら「ドーナツドーナツ」とお経のように唱え始めた。異様すぎる光景だが、なんだか楽しそうなので俺も一緒に「ドーナツドーナツ」と連呼する。


「で、次がドーナッツね。『ド』に重心を置くイメージで」


 本庄さんは音楽の先生のように手でリズムを取りながら「ドーナッツドーナッツ」とまた何度も言い出した。


 確かに微妙にリズムが違うけど……我に返ると不審者すぎるな!?


「……俺達、何してるの?」


「……ふふっ。何してるんだろうね」


「食べる? ドーナッツ」


「ん。半分こしよ。そうすればカロリーも半分」


「本庄さん、天才?」


「ん。数年後にはテレビに映った私を見ながら『あのノーベル賞もらった人、高校の同級生なんだよ』って言ってるよ」


「大袈裟だね!?」


「ん。大袈裟だった。私はドーを食べるから高崎くんはナツの方を食べて」


「円形のドーナツのナツってどの部分なの!?」


「真ん中の穴かな」


「じゃ俺は一口も食べられないね!? カロリーも自分で全部摂取してるよ!?」


「けど、『ドー』と『ナツ』で半分こしたから……半分だよねぇ?」


「ゼロカロリー理論の亜種だ……」


「ふふっ。楽しいな」


 二人で冗談を言い合い、笑いながらドーナッツ屋の前に向かった。


 ◆


 結局「ダブルチョコファッション」的な、見るからにカロリーの高そうなドーナツを一つだけ買った。


 近くの小さな公園を見つけ、誰もいないベンチに二人で座る。


「じゃ、分けるね」


 本庄さんが、袋からドーナツを取り出し、丁寧に二つに割ろうとする。


 ……が、硬いオールドファッション系のドーナツは素直に割れてはくれなかった。


「あ」


 バキッという鈍い音と共に、ドーナツは無残にも、どう見ても7対3の割合に分離した。


「……七三わけだ」


「うん。見事な七三わけだね。オールドなヘアスタイルみたいだ」


 本庄さんは、明らかに大きい「7」の方を、なぜかプルプルと手を震わせながら、俺に差し出してきた。


「高崎くん……あげる……私は……お腹いっぱいで……」


「いや、今から食べるんだよ!? しかもその演技、わざとらしすぎない!? そこまで無理しなくてもいいんだよ!」


 俺がツッコむと、本庄さんは「ちぇ」と唇を尖らせた。この人、食べたいのか食べたくないのかどっちなんだ。


「じゃあさ、7から2を更に取り分けてくれる?」


「7から2を?」


 つまり、5対5のイーブンにしろと。


 言われるがまま、俺は受け取った7割のドーナツから、2割ほどをちぎって彼女に渡そうとした。

 すると、本庄さんはドーナツを受け取らず、代わりに「あーん」という形で、口を開けて待ちぼうけしている。


「……ん?」


 時が、止まった。俺が固まっていると、本庄さんは自分の開いた口を、人差し指でとんとんと指差した。


「や、ここに投函して。郵便ポストだと思ってくれればいいよ」


「郵便ポスト……?」


 意味がわからなすぎて、オウム返ししてしまう。目の前で、SSS級美少女が口を開けて待っている。なんだこの状況は。


「郵便ポスト……?」


 本庄さんも、小首を傾げてオウム返ししてきた。


「本庄さんが言い出したんだよ!?」


「ま、何でもいいや。ご意見箱、目安箱、びっくり箱。どれでも同じだよ」


「最後だけ何かが飛び出しちゃうね!?」


 もうツッコミが追いつかない。


 俺は覚悟を決めて、ちぎったドーナツの小さな欠片を、彼女の「郵便ポスト」へと運んだ。


 指先が、彼女の柔らかい唇に触れそうになる。

 いや、ほんの少し触れたかもしれない。感触を忘れないように、指の腹をこすり合わせる。


 ドーナツは本庄さんの小さな口の中に吸い込まれていった。


 本庄さんは、もぐ、もぐ、と二、三回咀嚼したかと思うと、突然、目を見開いた。


 そして、ごくん、と飲み込んだ直後、顔を真っ赤にして、両手で自分の胸をぎゅっと押さえた。


「の、のどに詰まった!?」


 俺が慌てると、彼女はぶんぶんと首を縦に振る。顔が耳まで赤い。


「や……何かが、飛び出そう……」


「え!?」


 びっくり箱ってそういうこと!?


 本庄さんは、ベンチから文字通り飛び上がると、公園の出口にある自販機に向かってダッシュしていった。


 ◆


 自販機で買ったミネラルウォーターを飲み干し、ようやく落ち着いた本庄さんと、再びベンチに並んで座る。


 俺も残りのドーナツを口に放り込む。甘くて美味しい。


 空を見ると、太陽が地平線に沈みかけ、世界が息をのむようなオレンジ色に染まっていた。


「……綺麗だね」


 思わずそう呟いていた。


「ん」と本庄さんが頷く。


「夕焼けが綺麗だって言える心が、綺麗だよ。いいね」


「そ……そうかな?」


「ん。すごく素敵だよ」


 そう言って微笑む本庄さんの横顔が、夕焼けに照らされて、あまりにも綺麗で。俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。


 しばらく二人で、黙って空の色が変わっていくのを見つめていた。


 気まずかったはずの空気が、いつの間にか、また心地いい静けさに変わっている。


 と、本庄さんが、くすりと笑った。


「ね、高崎くん」


「なに?」


「なんかノリで座っちゃったけど、こうしてると、歩数が全然増えないね。ダイエット目的なのにドーナツも食べちゃうし。変なんだ」


「変だねえ……」


「ね。長時間の電車って退屈なはずなのに退屈じゃないし。朝って眠いし長い一日を考えちゃって憂鬱なのに楽しみだし。本当、ここ最近変なんだよね」


 本庄さんは前を向いたまま真顔で言った。それが、無意識に本音を吐露しているようにも見えて顔が赤くなる。


「そっ……そうドナ?」


「おっ、ドナ教に入信するドナ?」


 そう言ってイタズラっぽく笑う彼女につられて、俺も笑ってしまった。


「どっ……ドナ……」


「ふふっ。高崎くん、何か誤魔化してそう」


「本庄さんこそ」


 俺たちはお互いに何か言いたいことを隠したまま、またしばらく二人で笑い続けた。



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