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通学電車でトナラーから助けたクラスメイトのSSS級美少女が毎日のように俺の隣に座ってくるようになった  作者: 剃り残し


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8

 いつもの朝の通学時間。電車の規則的な振動が、まだ目覚めている途中にある街を背景に心地よく響く。隣に座る本庄さんは、今日も気怠そうな瞳で窓の外を眺めていた。


 不意に、彼女がスマートフォンを取り出し、俺の方へ画面を見せてきた。


「ね、高崎くん」


「な、なに?」


「最近、新しいアプリを入れたんだ」


「へえ。何入れたの?」


「んー……」


 本庄さんは、なぜか言い淀んでいる。視線をそらし、リュックを抱きしめる指がもじもじと動いている。


「……これ、下ネタにならないかな……朝から言いづらいな……」


「下ネタ!?」


 どんなアプリなんだ!? 俺の頭の中は、危険な予測でいっぱいになる。


「え、えっと……一応、もしマズイと思ったら、高崎くんの判断で『バキューン!』って音を被せてね」


「は、はいはい……わかりましたよ」


 一体何を言おうとしてるんだ、この人は。


 俺がゴクリと息を呑むと、本庄さんはそっと顔を近づけてきた。そして俺の耳元でささやいた。


「……万歩計」


 吐息が耳にかかる。心臓が跳ね上がった。


 いや、待て。


 ……万歩計?


「脳みそ男子中学生なの!?」


「ふふっ……え? 何がかな?」


 本庄さんがすべてを分かったうえで俺をいじっているニヤニヤ顔をしていた。


「いや、だって、今の言い方! もっとこう、ヤバいやつかと思ったじゃん!」


「ヤバいやつって?」


「それは……言えないけど! 万歩計はクリーンな言葉だよ!?」


 本庄さんは、俺の慌てぶりに満足したのか、ふふっと小さく笑った。


「あ、でね。マンポを入れたんだけど――」


「バキューン!」


 俺は即座に叫んだ。


「え? 今のダメだった? クリーンな言葉じゃないの?」


「本名はクリーンだけど略すのはちょっとやめておこうか。滑舌のコンディションによっては、事故る可能性もあるから。朝だしね」


 本庄さんは笑いながら頷いた。今日は朝からフルスロットルらしい。


「かもしれない運転でいきましょう」と俺が提案すると本庄さんも「そうしましょう」と同意してくれる。なんだ、この人は。


「で、万歩計ね。アプリを入れたんだ」


「なんだか年寄りみたいだね……」


「や、最近ちょっと運動不足でさ。太っちゃって」


 その言葉に、俺は思わず彼女の全身を――さすがにジロジロ見るわけにもいかず、制服の上からでもわかる華奢なシルエットを盗み見た。この細い身体のどこに肉がつくっていうんだ。


「……どこが?」


「お腹のあたり……触ってみる?」


「触らないよ!?」


 俺は全力で首を横に振った。学校一の美少女のお腹なんて触れるわけがないだろ!


「えー。ぷにぷになんだよー、ぷにぷに」


 本庄さんは、そう言いながら、自分の脇腹のあたりをむにむにと揉んでみせた。その仕草が妙に煽情的で目のやり場に困る。


「だ、だとしても! 触らないから!」


「高崎くんのケチ」


「それは俺が言うことだよ!? 触りたいのに触らせてもらえない時に……いや、別に俺が触りたいわけじゃないけどね!?」


 なんか、話せば話すほど早口になりドツボにはまっていく感じだ。それに比例して本庄さんも笑いをこらえるように唇をかんでいる。


「ふふっ……で、昨日から散歩を始めたんだよね」


「へぇ……どのくらい歩いたの?」


「三歩」


 俺がベシッと本庄さんの肩を叩いて無言で突っ込む。


 お互いにジト目で見つめ合い、やがてふっと同時に吹き出した。


 ここでは、俺と彼女の距離感が、物理的にも精神的にも明らかにおかしくなってしまう。


「本当は5000歩くらい。意外と歩数って増えなくてさぁ……歩くだけって暇なんだよねぇ」


「まぁ……そうだろうね。ラジオでも聞きながら歩いてみたら?」


「んー……そうだね。けど、やっぱり一人だとちょっと寂しいのもあるんだよなぁ……」


 本庄さんの呟きに「なら一緒に歩く?」と乗っかる勇気のない自分に腹が立つけれど、さすがにそんな勇気は出ない。


「続くといいね」とだけ返したところで会話は途切れ、また各々が中吊り広告や車窓からの景色を眺める時間がやってきた。


 ◆


 放課後。今日の授業もようやく終わり、俺はカバンに教科書を詰め込んでいた。教室はガヤガヤと騒がしく、グループごとに帰宅準備が進んでいる。


 本庄さんは既に教室から姿を消していた。友人達はまだ教室にいるため今日は先に一人で帰ったんだろう。誰か他の男子と……なんて考えが頭をよぎる。


 いや、別に本庄さんが放課後に誰と何をしていても俺には関係のない話なのだけど。


 その時、ふと机の引き出しの手前から何かが床に落ちた。小さく折りたたまれたルーズリーフの切れ端だ。


 開いてみると、そこには丸っこい、綺麗な字が並んでいた。


『駅で待ってる。歩数、稼がないとだから』


 心臓が、ドクンと音を立てた。この内容……まさか!?


(本庄さん!?)


 混乱したまま俺は下駄箱へ向かい急いで靴を履き替えた。駅までの道のりがやけに長く感じる。


 駅の改札前。人混みから少し離れた柱の陰で、本庄さんはスマホを操作しながら立っていた。学校モードのSSS級美少女の姿だ。


 俺は意を決して、声をかけた。


「あ、あの……本庄さん」


 彼女はゆっくりと顔を上げ、俺を視界に捉える。そして、ほんの少しだけ、口元を緩めた。


「ん。待ってたよ」


 その声は、電車での素の声より少しだけ高い。


「え、いや、あのメモって……」


「万歩計。全然歩数いってなくて」


 本庄さんは、スマホの画面を俺に見せてくる。確かに、歩数計アプリの数字は絶望的に少ない。


「高崎くん、ちょっと付き合ってよ」


「こっ、ここから歩くの……?」


 本庄さんの足元のローファーを見てこれからのことを想像する。電車で一時間の距離を徒歩で行くなんて無謀すぎるだろう。


「ふふっ。さすがにここからは歩かないよ。電車で家の近くまで戻ってから」


「そういうことね。いいけど……」


「よしきた」


 本庄さんは小さくガッツポーズをすると、さっさとホームに向かって歩き出した。俺は慌ててその後を追う。


「あ、あのさ。本庄さん」


「ん?」


「……本当に、歩数を稼ぎたいだけ?」


 我ながら、何を訊いてるんだと思う。すると、本庄さんはぴたりと足を止めた。


 振り返った彼女の顔は、いつもの完璧な笑顔じゃなく、朝の電車で俺をからかうときのあのイタズラっぽい笑みに近かった。


「……それだけじゃ、ダメかな?」


 意図がまるで分からないその表情に妙に心がざわつく。


「……ダメじゃないよ」


「ん。じゃ、目いっぱい遠回りしよう。結果的に同じところに戻ってくるくらい遠回りしよう」


「歩数を稼がないとだもんね」


「ん。歩数を稼がないといけないんだ」


 まぁ、本当に歩数を稼ぐだけでもいいか。


 同じアプリを入れるためにスマートフォンを取り出し本庄さんに「アプリ、なんてやつ?」と尋ねながら階段を二人で降りた。


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