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通学電車でトナラーから助けたクラスメイトのSSS級美少女が毎日のように俺の隣に座ってくるようになった  作者: 剃り残し


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 いつも通りの始発。いつも通りのロングシート。


 そして、いつも通り俺の隣には本庄さんが座っている。


 彼女は今日もリュックを胸に抱えるようにして、静かに指ドラムをしていた。


 カタカタ、とリュックの表面を叩くリズミカルな音だけが、俺たちの周囲に響いている。


 車内の広告を見るふりをして、右隣にいる学校一の美少女の無防備な「素」の姿を見る。


(今日も綺麗だ……)


 熟練の彫刻職人が腕によりをかけた傑作のような横顔を盗み見ていると、不意に、車輪がレールに擦れる甲高い金属音と共に、急ブレーキがかかった。


「お、わっ……!」


 ガタンッ、と大きな揺れ。


 俺の身体は慣性の法則に従って右へ。本庄さんの座る方へと、倒れ込んだ。


 ドン、という鈍い感触。


 俺の肩が、本庄さんの華奢な肩にぶつかってしまう。


「ご、ごめん、本庄さん!大丈夫!?」


 心臓が飛び跳ねる。俺は慌てて身体を離し、背筋をピンと伸ばした。


 本庄さんは、俺のパニックぶりとは対照的に、きょとんとした顔で俺を見上げていた。


 そして、小さく首をかしげる。


「え? 何が?」


「え、いや、今、ぶつかっ……」


「ん、大丈夫だよ」


 彼女は小さく微笑むと、気にも留めない様子で窓の外に視線を戻した。


「何だろ? 事故かな?」


「あ……う、うん。そうかもね」


 なんとかそう返事をして、俺も窓の外を見ているフリをする。だけど、意識は全部、数センチ隣にある彼女の肩に集中してしまっている。


『この先の踏切にて緊急停止ボタンが押されたため――』


 車内アナウンスで急ブレーキの理由が説明された。


「や……遅れちゃうかな? 遅延証明を貰う列に並ぶ時間で更に遅れちゃうって本末テントウムシだよね」


 本庄さんがそう言いながら俺の方を見てくる。そして、何かに気づいたようににやりと笑って俺の方を指さしてきた。


「……高崎くん、肩がちょっと浮いてる。肩上がり虫だ」


 恥ずかしくて死にそうだ。彼女は、俺が内心でどれだけ彼女を意識しているか、まったく気づいていないんだろう。


 電車で隣に座るただの「変な話をするクラスメイト」くらいにしか思ってないのかもしれない。


「い、いやぁ……ぶ、ぶつかっちゃったし……」


「気にしなくていいよ。ただ物理法則に従った結果だし」


「その理屈だと大体のことは許されちゃわない!?」


「ふふっ。大体のことは、ね。たまたま向かいあってる時に急ブレーキがかかって唇同士がぶつかっても、ま、それは物理法則の結果だからノーカンと」


 本庄さんはそう言ってまた前を向いた。良くも悪くも冷めていて、妙に安心してしまう。


 少しすると電車は再び、一定のリズムで走り出す。


 カーブでもない、揺れてもいない、まっすぐな線路を走行中、コテンと、さっきとは比べ物にならない、ゆっくりとした重みが俺の左肩にかかった。


「……え?」


 見ると本庄さんが、俺の肩に頭じゃなくて自分の肩をもたれかけてきていた。電車が止まったあとならまだしも、今は左向きに力がかかるタイミングじゃないはずだ。


(……え? え? え? 揺れてないよ!? 今、絶対に揺れてないぞ!?)


「ほっ……本庄さん?」


「ん? 何?」


「物理法則を無視した動きをしてるよ?」


「や、物理演算のエンジンがバグった」


「壁にめり込んだりしないでよ……」


 本庄さんの読めない思考に振り回されながら、肩に力を入れて本庄さんを押し返す。


「ふふっ。それもありえる。今のは……仕返し。さっきのね」


「物理法則ってフォローしてくれたけど結構根に持ってたね!?」


 俺がそう言うと本庄さんは唇を尖らせて「べっつにー」と可愛らしく拗ねた。


「根に持ってるわけではない……?」


「や、まぁ私は物理法則を無視する存在だから」


「なにそれ!?」


 思わずツッコミを入れてしまった。


「新ジャンル。物理法則無視系女子」


「ジャンル!?」


「『物理法則無視系女子の胸は揺れない』」


「タイトル!?」


「『ニュートンは言いました。縄跳びをすると胸は揺れる、と』」


「書き出し!?」


「ふはっ……ひと作品できたね」


「爆乳なのに縄跳びをしても胸が揺れない女の子の話って何!?」


「や、爆乳とは言っていない」


 本庄さんは唇を尖らせながら視線を落とした。釣られて俺の視線も本庄さんの胸に向かう。本人はそう言うけれど、どちらかと言えば大きい方のような……


 いやいや! 胸をガン見していたことを指摘されたら物理法則では誤魔化せねぇ!


 俺は慌てて首を振り、自己啓発本の中吊り広告を見上げる。


「『人に好かれなくてもいい』『億万長者になるルーティン50個』『人は身だしなみが100割』……」


 特に理由もなく中吊り広告で紹介されている本の名前を読み上げる。


「『物理法則無視系爆乳女子はまな板の夢を見るか?』」


 本庄さんも同じように中吊り広告を見上げながらボソッと呟いた。


「そんなのないよ!? 酷いパロディだね!?」


「ふふっ……通じた」


 本庄さんは何よりも俺に通じたことが嬉しそうに微笑んでいる。


 その横顔を見つめていると、本庄さんはまた「あ、右から力Fがかかってくる〜」と言いながら、さらにぐっと体重をかけてきた。


 まるで「押し返してみなよ」と言わんばかりに。


 物理法則無視系女子となった本庄さんは、俺の反応を楽しんでいるみたいだ。


 俺は、ほんの少しだけ、抵抗するように肩に力を込めてみる。


「んっ」


 本庄さんが、小さく声を漏らして、さらに強く押し返してくる。


「……高崎くんも、物理法則、無視していいよ」


「いや、俺はごく普通の陰キャ男子なので、物理法則には従順なんだ……」


「ふふっ。真面目か」


 俺たちは、次の駅に着くまでの数分間、誰にも聞こえないくらい静かに肩と肩で押し合いっこを続けた。


 じわじわと伝わる体温が、心地よくて、恥ずかしい。


 やがて、車内に人が増え始めると、俺たちの小さな遊びは自然と終わりを迎えた。


 お互いにいつもの「素」の表情に戻り、窓の外を眺めている。名残惜しさを感じているのは自分だけなのか、本庄さんも同じなのかは、気怠そうな目からは読み取れない。


 電車が高校の最寄り駅のホームに滑り込む。


 本庄さんはスマートフォンで時計を確認すると「走れば間に合うよ」と言って停車する前から立ち上がり、俺を扉の前に誘導する。


 二人で電車が止まるのを待っていると、停車したのと同時に慣性の法則に従ってキツめの揺り戻しがやってきた。


「にゃっ!」


 本庄さんが可愛らしい声をあげて俺にもたれかかってくる。


 腕を回して支えたため事なきを得たが、肩の押し合いをしている時よりも更に顔が近づく。


「……ありがと、高崎くん。物理法則にしてやられたね」


 顔を真っ赤にした本庄さんはそう呟くと、ふと「急がなきゃ!」と言って我に返り、電車を飛び出したのだった。


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