17
月曜日の朝。今日は、いつもと様子が違った。
(……混んでる?)
いつもはガラガラの始発列車が、なぜか、そこそこ混雑している。ま、そんな日もあるか。
俺は、なんとかいつものロングシートを確保した。
――その時だった。
同時に俺の両隣がサラリーマンで埋まった。
これだと、本庄さんの席がなくなってしまう!
そして、いつものように少し遅れて本庄さんが乗ってきた。
本庄さんは俺の両隣を見て、一瞬きょとんとした。
そして、小さく、ため息をついた。彼女は、諦めたように、俺から5席ほど離れた、空いている席に、ちょこんと一人で座った。
分断された。
俺たちはお互いをじーっと見つめ合う形になった。気まずい。
本庄さんは、俺を無表情で見つめ続けている。
その時だった。本庄さんが、すっ、と立ち上がった。
彼女は、まっすぐ俺が座っているブロックに向かって歩いてくる。そして、俺の前に立って吊り革に掴まり、少しだけ身体を俺に向かって傾けた。
(な、何する気だ!? まさか、どけなんて言うのか!?)
本庄さんは、俺に向かって普段より少しだけクリアな声で言った。
「光太郎、おはよ」
(!?!?)
「おっ……おはよう……」
「昨日、配信されたやつ、見た?」
「……えっ?」
全く記憶にない話題に面食らう。
俺がパニックになっているのを無視して本庄さんは畳み掛ける。あたかも周りの人に聞こえるように声を張っているかのようだ。
「ほら。昨日光太郎が『絶対見る』って、張り切ってた恋愛リアリティショー。推しの女の子見つかった?」
「あ、あ、うん、見た、見たよ……途中までね」
「それでね、昨日の回、すごいことになって――」
会話が盛り上がりそうになってきたところで、俺の隣のサラリーマンが本庄さんと俺を交互に見た。
そして、立ち上がると空きのある別のシートへ移動していった。
「あ、すみません……!」
本庄さんが完璧な笑顔で会釈をする。
本庄さんは、当たり前のように俺の隣に、すっと座った。
「……ふぅ。作戦成功。ウザカップルに擬態してみた」
本庄さんが、俺にしか聞こえない声で、小さく呟いた。
「なるほどねぇ……そこまでして隣に来なくても……」
「や、ここは、私の『指定席』だから」
「それに」と、彼女は付け加えた。
「向こうの席からこっちを見てると首が痛くなりそうだったから」
「それは大変だね……」
「む、そうじゃないし」
本庄さんは唇を尖らせて、俺の顎を掴み、グイッと自分の方を向かせた。
「なっ……何でしょうか?」
本庄さんは他の感情を裏に隠していることがありありと分かるようにニッコリと笑った。
「今日はずっとこっちを見てること」
「えぇ……」
口ではそう言いつつも合法的に本庄さんをずっと見られるなんてご褒美でしかない。
「や、なんかニヤけてるじゃん」
本庄さんもニヤけながらそう言う。
「ただドMなだけだよ」
「うはっ……そういうことか。何やっても喜ばしちゃうんだね」
本庄さんはケラケラと笑いながら、何度も何度も俺が自分の方を向いているか確認して、その度にニット微笑みかけてきたのだった。




