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ハレを望む  作者: 明深 昊
1章『逃げた先』
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5話 虚構

 魔法陣と聞いたから魔力を探ればいいと考えていたのだが、さすがにそれほど簡単にはしていないようで魔力はまだ持たせていないようだ。つまり魔力――イメージではなく、魔法が構築される時の理論に基づいて手書きしたということ。なかなかできる芸当ではないそれを用意したと思うと、この学校のレベルの高さが伺える。


 魔物や他の生徒の気配を避けながら森を練り歩き、十五分ほどで目的の魔法陣が貼られた木を見つけることができた。念の為結界をはってから魔法陣に触れ、魔力を流し込んだ。


 背後で魔法が起動したのがわかり、振り向く。召喚されたのは魔力の塊でできた黒の獣で、緊張感もなくなるほどと納得してしまう。


 人造の魔物を構成する魔法陣は珍しくない。ギルドでも試験の際に用いられることがあるし、こういった用途にはうってつけのものだ。出力もだいぶ抑えられているようで、この学校に入学した者であれば苦戦することはまずない。


 即座に鎌鼬で一掃し、魔法陣が描かれた紙を取る。実技と聞いて少し身構えていたが、終わってしまえば拍子抜けだった。


「……戻るか」


 ふと気になって周囲の人の気配を探る。紙を手に入れたのか入口に向かっている者や、戦闘の気配もちらほらとある。この短時間に試験が終わったり見つけられたりしているということは、人数に対して比較的数も多く設置されていたのだろうか。


 小さな叫び声が聞こえて、思わずそちらへ駆け出す。


「ユリ」


 召喚された魔物からの攻撃を結界で防いではいるが、軽いパニックになってしまっているのかしゃがみこんだ状態で魔物から顔を背けてしまっている。


 剣を振り抜いて魔物の首を断ち、死体を風で木の向こうへと吹き飛ばす。人造の魔物は死ぬと魔力の残滓として霧散するが、少し時間がかかる。死体でも魔物は見せない方がいいだろう。


「大丈夫か?」


 音で誰かが来ていたことはわかったようで、アクトの声にほっとしたように顔を上げる。


「アクト君……」


 まだ少し震えていて、手を貸してようやく立ち上がった。木に貼られた魔法陣を取って、ユリに渡す。


「戻ろう」


「うん。ごめんね……」


 少し後ろを歩くユリに歩調を合わせて出口へと向かいながら、声をかけるべきか否か思案を巡らす。魔物への恐怖は誰もが持つものだ。しかし、彼女が持つそれは――彼女の境遇からしたら異様なものに思えた。


「これじゃ、だめなのに……」


 ぽつりとつぶやいたユリに、平静を装ってどうして、と聞く。人のことを気遣えるほどアクトは自分ができた人間であるとは思っていないが、聞かないという選択肢を取れるほど大人でもない。


「私の家、ちょっと厳しくて。強くなるように小さいころから森に一人で行かされたり、指導を受けたりしてたんだけど」


「……うん」


「そのときに魔物にね、殺されそうになっちゃったことがあって。お父さんがすぐ助けてくれたけど、でもそれから魔物が怖くて。剣も全然上手に」


 そこまで言ってふいに口をつぐんでしまって、その理由に気づいて振り返る。


「知ってる」


 言ってしまっていいのだろうか。これをきっかけにアクトのことを聞かれてしまったら、なんと答えればいいのだろう。


「ミルナさんに魔力が似てる。ごめん、隠してるのに」


「……お母さんのこと、知ってるの?」


「お父さんとお兄さんもわかる。ユリとは会ったことがなかったけど、同い歳の女の子がいるのは知ってた」


 その言葉にユリは目を丸くして、じゃあ……と笑った。


「がっかりしたよね。剣士族の娘がこんな落ちこぼれだもん」


 剣士族。サガルト家は元は剣を作る職人として栄え、今では剣技、魔法ともに屈指の実力を誇り名を馳せている。


「でも、ユリは魔力特性が違うだろ。ミルナさんみたいに魔力医として……」


「うん。私も今はお母さんみたいな魔力医を目指してる。でも、でもね、サガルトの娘である以上は強さを求められてしまうの」


 だからここにいるんだよ、と苦し紛れに笑うユリに、返す言葉がなくなってしまう。ユリの父、リランがそれを強要するとは思えないが、サガルト家には家族だけでなく使用人や弟子も多くいる。幼いころは期待もあっただろうし、肩身の狭い思いをして来たのだろうか。


「ごめんね、変な話して。行こ」


「……俺も、気の利いた事言えなくてごめん」


「ううん、聞いてくれただけでうれしい。ありがとう」


 自分ばかりが辛い目にあっていると思っていた。でも目の前にも同じように悩んでいる人はいて、同じように辛い思いをしている。それを知って、アクトはなぜだか自分の気も軽くなったような気がした。


「お母さんたちのこと、どうして知ってるの? 魔力が似てるって……お母さん、今は軍の専属医だからなかなか治療受けたって経験もないと思うし。お父さんたちとも知り合いなんだよね」


 聞かれたくなかったことをつつかれてしまって、少し悩んでから口を開いた。


「幻光の息子なんだ。リランさんが所属してるギルドの。だからリランさんたちと面識があるし、この剣はお兄さんのハルが鍛えてくれたもの」


 王都に本部を構え、国内トップクラスの所属人数を誇るギルド「夢幻荘」。そのギルドマスターであるラルクは空間支配魔法において右に出る者はいないと称される実力者でもある。それを聞けば剣士族との関わりも納得するだろう。


「すごいね……」

 

「ユリの家も大概だぞ」

 

 そう言うと、ユリはそっか、と苦笑いした。

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