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ハレを望む  作者: 明深 昊
9章『ここにいる理由』
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5話 母のおまじない

 すれ違う人々の視線を痛いほどに浴びながら廊下を突き進んでエントランスまで出ると、医務室に入りきっていない比較的軽傷の者たちがそこに集まっていた。医務室はエントランスの真横なのだから考えてみれば当然のことで、なるほどとつぶやく。


 一旦メイたちと話すために医務室を訪ねると、医務室内は思ったよりも静かに着々と治療が進んでいた。


「ア――双風! どうしたの、怪我!? 今ユリちゃんが向かったはずなんだけど」


 メイがアクトに気づいて近寄ってきて、大丈夫ですよと首を振る。大勢の前で名前を出さないでくれたのはさすがの気遣いだった。


「大変だって聞いたので、少し手伝おうかと。変わりに今ユリに休憩してもらってます」


「う、ごめん……! 双風をこんなとこで使ってる場合じゃないのはわかるんだけど、助かる!」


 話を聞いていた同じく医務室のベテランであるコトノが双風、と控えめに声をかけてくる。メイと違って双風になってからアクトと知り合ったため、メイよりも少し距離感のある人だ。


「中はさっきラルクさんが手伝ってくれたので、エントランスの人たちを任せていいですか? 今いる人たちが終わったら大丈夫なので」


 落ち着いていたのはそういうことか、と合点がいく。ユリを呼んだついでだったのだろうが、これで軽傷の人たちも済めばだいぶ動きやすくなるだろう。こく、とうなずいてエントランス全体に魔法陣を展開し、まとめて治癒魔法に巻き込んだ。


 唐突に傷を癒された人たちは呆然とした様子で、自分の体の様子を確かめている。


「まだ休息が必要な方は二階の避難所へ。今ので痛みが引かない場合は医務室で診てもらってください」


 補助に優れた光属性が使えるとはいえ治癒魔法が得意な訳ではなく、アクトの光は攻撃に寄っている。各々言われた通りにエントランスを後にして、数人は想像していた通り医務室へと入っていく。多くの人が口にした感謝の言葉に少しうれしく思いながら、もう一度魔法陣をエントランスの中央に描いた。


 先ほどまで休みなく消費し続けていたことも考えればこの後の魔力消費量は減るはずで、日没くらいまでなら余裕がある。今残っている一割くらいは魔力を預けても問題ないだろう。


 目立つところに魔法陣についての貼り紙をして、医務室に顔を出す。


「メイさん」


「双風! ありがとうね、すっごく助かったわ」


「そこの魔法陣、軽傷だったらあれだけでなんとかなると思うので、来た人に自由に使わせてください。起動にその人の魔力はいらないから」


 メイはぎょっとしてエントランスの魔法陣を見、アクトの両手をぎゅっと握った。


「無理だけはしないんだよ。わかった?」


「はい、大丈夫です」


「本当にわかってるの? そりゃ……がんばりたくなるんだろうけどね。まったく」


 呆れたように頭を撫でてきて少し恥ずかしくなって目をそらす。


「気をつけて行ってらっしゃい」


 任務に行くときに顔を合わせるといつも言われていた言葉。苦笑いして、こちらもいつも通り返すことにした。


「行ってきます」


 外に出て空を見ると、分厚い雲が一帯を覆っていてまたいつ雨が降ってもおかしくないように見えた。


 ラルクが雨のことを口にしたのはあまり討伐がスムーズではないことをぼやく以上の意味はなかっただろうが、アクトにはそれを解決する手段がある。


 アクトの天属性適性は微々たる程度のものしかない。外にいれば近い位置に雲を作るくらいのことはできるが、天候を操るといった本当に天属性と呼ばれるような力は普段使えなかった。でも、今なら。


『いい? 見てて。おてんとさまにね、お願いするの。お空にアクトの願いごとを届けるのよ』


 ノエルがそう言っておまじないのように魔法を使う様子をよく見せてくれたのを覚えている。母の魔法は晴れにするときも雨にするときもとてもきれいで、アクトにとっては考えられない魔法の使い方。真似をしても雲のある空まで魔力を届かせることができなかった。


 手のひらを空へ向け、魔法陣を手元に描いて魔力を込める。遠く、遠く、ノエルのやり方ではできなかった部分を魔法陣で補っていく。


 使い手の多い属性と違い、天属性のような固有魔法は明確な魔法ごとの分類がないことが多い。ノエルが詠唱していた記憶はなく、恐らく魔法名などは付けていなかったのだろう。


 アクトが知っているのはおまじないの言葉。


「"いい天気になあれ"」


 鋭い光と共にアクトの魔力が放たれ、巨大な魔法陣が王都の空を包み込む。とけるように消えた雲の先は夕暮れ空。さらに高いところに残っている雲はあるものの、雨を降らすようなものではないだろう。


「晴れた」


 呆然と空を見上げたままつぶやく。


 窓が開いた音がして振り向くと、二階からラルクが空を見てアクトへ視線を落とした。


「この魔法……」


 自然と笑顔がもれる。魔法が使えてうれしいなんて久しぶりで。


「もう雨は大丈夫」


 そう言ってギルドを離れたアクトに、ラルクはほっと息を吐いた。


「そうか。ありがとう」

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