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ハレを望む  作者: 明深 昊
9章『ここにいる理由』
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4話 つかの間の休息

 気づけば視界に入る全てが元の見る影もなく、地面もアクトを中心に大きな穴が空いている。


 意思に反して鎌鼬が暴れ狂う。魔力が際限なく放出され続けていて、許容を超えた魔法行使で体中が悲鳴をあげている。


 このままではまた意識を奪われてしまいそうで、小さくうめいた。


「セト」


『魔法陣解くか?』


 すぐに来ないで念話してくることにどうしてと思ってしまうが、考えてみれば今アクトの周囲は立ち入れば問答無用で襲われる。魔法陣を解くだけならたしかに来る必要はない。


「ちょっと……来て」


「もう少し寝とけばこんな辛くなかっただろうに」


 声の様子でどういう状況か判断し、現れるなりアクトを翼で包み込んで魔物をよせつけないために結界をはる。容赦なくセトに鎌鼬が襲いかかるが、多少顔をしかめたものの気にせずアクトの魔力に介入した。


 右腕の魔力回路を閉ざされ、魔力がアクトに跳ね返ってくる。


 外へ放出することしか考えられていない魔力が相も変わらず右腕に押し寄せて、激痛に思わず声が漏れた。


「大きく息吸って」


 不器用に吸い込んだ空気にセトの魔力が混ざり、体中を一巡して凝り固まっている魔力がほぐされていく。


 掌握されていた体の感覚がようやく戻ってきたのか、魔法を扱うのに都合のいい直立から解放されて突然膝から崩れ落ちた。脇を抱えてゆっくりと下ろされ、深呼吸を繰り返す。


 右腕のみ魔力回路の拘束が解かれ、未だに強い魔力が周囲を渦巻くものの鎌鼬にはならずに漂う。これなら一旦暴走は落ち着いたと言える。最初にセトが魔力出力を絞ったのも合わせて考えれば意識は保てる範囲だろうか。


「目は覚めたか」


 うなずいて体に力が入ることを確認し立ち上がる。


「うん、まだ……うん。大丈夫」


 改めて自分の調子を確認して、問題なさそうだと少しほっとした。召喚魔法陣は未だ健在で魔物の数はむしろ最初より増えている。アクトがそれを把握できた訳ではないが、魔物がこれほど溢れているというのに休むのは気が引けた。


「わかった。必ず余裕持って行動しろよ」


 魔力の制御は取り戻したとはいえ、安定したとはとても言い難い。セトの言うことはもっともで、素直に受け入れた。


 落ち着いたことでようやくセトを傷だらけにしてしまっていたことに気づき、慌てて治癒魔法を使う。


「ごめん……」


「こんな傷どうってことない」


 そういうセトに、首を横に振る。


「気にする」


 たとえセトという完全に自分よりも強い者であっても、これだけは変わらない。


 その気持ちを素直に受け取ったセトはありがとうと微笑み、魔力に問題ないのを確認してアクトから離れた。


「じゃあ戻るからな。これが落ち着いてからこっちから念話する」


「うん。ありがとう」


 セトが姿を消し、着替えるために一度ギルドに戻る。魔物の召喚を避けるためか転移が封じられた結界がはられていて、その外に転移して人目に触れぬよう窓から自室に戻った。


 鎌鼬によってぼろぼろになってしまっている制服を脱ぎ捨てて伸縮する動きやすい服に着替えていると、ちょうど休憩していたのかラルクがものすごい速さで部屋に入ってきた。


「アクト! 急に魔法が途絶えたから心配してたんだぞ」


「さっき起きた。セトが制御手伝ってくれて、今のところは平気」


 アクトの言葉に、よかったと心底ほっとしたような表情を見せる。


「今魔物が現れてから四時間くらい。初めこそ魔物の数は勢いよく減っていたんだが、こっちの息が切れてきた。少し前まで雨も降ってたせいで人数も減ってる。アクトがいた南地区付近はともかく、全体で見たら魔物の数は良くて横ばいってところだ」


 ギルドや軍も休憩のローテーションを組んでいるだろうが、それでも疲弊していくのは避けられない。召喚陣を壊さない限りはこのジリ貧な状態が続いてしまう。


「もし意識を保てそうなら魔物が多いところに移動しながら戦ってくれ。それか減るまで一旦封印し直すか?」


 だめと即座に否定する。自分で思ったよりも強く反論してしまって、ごめんとため息をついた。


「解放と封印繰り返すのはしんどい……多分、次は倒れるまで戻って来れない」


 少しでも抵抗しようだとか、解放したらどうなるのかわかるだとか考えていたそれらは完全に無意味で、心臓を殴られるような痛みに襲われたと思ったら今に至っている。実際セトのかけてくれた制限がなければ、こうやって意識を取り戻すことはなく魔力を使い切るまで暴れていただろう。


 ある程度消費したおかげか意識を取り戻したあとは解放した直後のあの波はなかった。であれば暴走するようなことはもうないはずだ。


「本当に大丈夫か?」


「今は落ち着いてるから……このままの方がむしろいいと思う」


「ああ違う、そうじゃなくて。体が平気なのかってこと」


「うん。セトもだめだって言わなかったから」


 アクトもラルクも今のアクトの状態をきちんと把握できているとは言い難い。ただセトが戦場に残ることを許したというのは、アクトにとって一定の安心を得られる材料になっている。


「そうは言っても疲れてるだろ」


「魔力はまだ沢山ある」


 どれだけ消耗しているのか自分でもよく分からない。それでもまだ魔力はありあまっているから、戦い続けることはできるはずだ。


「そういうことを言っているんじゃ……まあいい。一旦魔力回路だけでも治してもらえ。今呼んでくるからその間だけでも休憩してろ」


 さすがに何時間も荒々しく魔法を使っていて支障が出ないとは思えない。たしかに一度治療してもらった方がいいだろう。


 待っている間に補給品を取り出せる魔法陣をポケットにしまい、小腹を満たすためにも魔法食をつまむ。


 近づいてきた気配はユリのもので、思わず部屋の外で出迎えてしまった。


「ユリ! なんでここに」


「えっと、避難所で戦闘に参加する有志を募ってて。アズサちゃんとキリト君は四時からこっちに来る予定だよ。私はこっちの方が役に立てるから。ここで働いてるのは軍はお母さんがいるし、ギルドの方にいれば……アクト君に会えるかなって」


「二人が?」


「うん。他にも結構たくさんの生徒が順番に。時間も決められて先生からは無理するなって釘刺されてるし、何かあったときの念話魔法陣も持たされてるから大丈夫だと思う」


 アズサたちのことが不安になるが、それだけ言いつけられているなら変な真似はしないだろう。ひとまず二人のことは置いておいて、ユリに治療を頼んだ。


「うん、任せて」


 座るように言われて、素直にベッドに腰を下ろす。ユリの魔力がゆっくりと流れ込んできて、痺れるような痛みが走った。


「ごめん、痛いよね……」


「大丈夫」


 自分の魔力回路が損耗している自覚はある。それを治してもらっているのだから痛むのは当然だ。


「全部治すのは難しいと思う。本当だったらこの魔法に従って少し寝てほしいんだけどな」


 ユリの言葉に首を横に振る。以前かけてもらったときと同じ睡眠も促してくる魔法。とはいえ、今のアクトの魔力ではミルナでも強制的に眠らせるのは難しいだろう。


「そうだよね。この後も魔法が使えるように整えるけど……これ、右手だけ使ってるの?」


「うん。出力を抑えるために」


 そっかとうなずいて、胸にかざしていた手を右手に移す。


「少し我慢してね」


 強い光が右手を包んで、焼けるような痛みに小さくうめいてしまう。しかし、魔力の流れがかなりスムーズになったのがわかって感心して息を吐いた。


「……どう、かな」


 治療を終えて、恐る恐る聞いてくる。


「明らかによくなった。ありがとう」


 素直な感想を述べると、安心したのかよかったと笑顔を見せた。その顔に少し疲れが見えて、補助に回っている人員の消耗も心配になってくる。


「医務室、大丈夫?」


 思わず聞くと、一応、と歯切れの悪い返答が帰ってくる。


「ここ、王都の中でも広いギルドでしょう? 避難所も兼ねてるから来る人が多くて、来た順じゃなくて傷が重い人優先にしてるの。おかげで治療が間に合わない最悪の事態は免れてるけど……」


 ユリのような助っ人もいるだろうが普段から治癒魔法に長けた人物は不足がち。一度治療待ちを無くすくらいの荒療治をしないと、そのうち今は効果のある優先順位も意味をなさなくなるだろう。


「一旦そっちに行くよ。メイさんとコトノさんには言っておくからユリも少し休んで。嫌じゃなければこのベッド使っていいから」


 立ち上がって常備してある魔法食を渡し、困惑しているユリに笑いかけた。


「ユリも無理しないようにな」

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